婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり

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アンジェ:ここはゲームの世界なのね!

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 アンジェ・ルコットはルコット男爵の庶子としてこの世界に生をうけた。
 アンジェが物心ついた頃には、アンジェの将来は決まっていた。男爵が見初めるほど美しかった母に似た容姿は、政略結婚に相応しいものだったからだ。しかし、庶子であるから、それほど上の身分のものとの婚姻は難しい。それゆえ、男爵は金銭的に男爵家を支援してくれる富豪にアンジェを嫁がせることに決めた。ブルダン商会長だ。アンジェは成人と共に彼の元に嫁ぐ運命だった。

「……あんなおじさんに嫁ぐなんて嫌だわ」

 将来を理解する歳になり、婚約者とも交流を行うようになると、アンジェは将来を悲観するようになった。そして、ぼんやり廊下を歩いていたアンジェは階段で躓いた。

「きゃあっ」
「アンジェ様っ!」

 メイドが気づいた時には、アンジェは階段下で倒れ意識を失っていた。
 2日の間意識を失い目覚めた時には、アンジェはあることを思い出していた。

「……これって、神恋の世界じゃない?私、ヒロインよね」

 アンジェはかつて日本で暮らしていた前世を思い出したのだ。神恋とは、アンジェが前世好きだった乙女ゲーム『神の御許で恋に落ちる』のことだ。
 神恋は、幼い頃より高齢の男性のもとに嫁ぐことが決められ悲観していたヒロインが、学園で出会ったイケメン男性と恋に落ち、それにより婚約を解消し、イケメン男性と添い遂げるというストーリーだ。攻略対象はどれも王族や高位貴族なので容易に婚約解消できて、しかもヒロインは裕福な暮らしを出来るというハッピーエンドだ。ヒロインの名はアンジェ・ルコット。

「私、イケメンと結婚出来るのね!」

 勿論ストーリー上の障害はある。まず全ての攻略対象に婚約者がいて、その婚約者達はヒロインが攻略対象と親密度を高める度に苛めてくるのだ。それを躱し、攻略対象に断罪してもらうのがこのゲームの肝だ。

「やっぱり王子さまが良いわよね。他の攻略対象も口説けば私の味方になってくれるし」

 神恋は明確なハーレムエンドはなかったが、王子と恋に落ち、他の攻略対象とも親密になれば、皆がヒロインを愛し協力してくれるという展開だった。

「確か隠しルートもあったと聞いたけど、そんな人見当たらなかったのよねぇ。まあ、私は王子を選択するから良いけど」

 アンジェはこれからを思ってワクワクした。今15歳のアンジェは来月学園に入学する。丁度いい時期に前世の記憶を思い出せたから、きっと王子の攻略は簡単だ。



 男爵や婚約者に怪我を心配されつつ学園に入学して、アンジェはゲーム通りに王太子エドワードと出会った。エドワードの反応はゲームと少し違ったけれど、それも現実なのだから当然だろうと納得した。他の攻略対象である宰相子息や騎士団長子息も同様だ。
 少しずつ交流を深めていくと、アンジェは苛めを受けるようになった。それにより、アンジェは攻略対象との親密度が深まったのだと喜んだ。ゲームと違って好感度を見れないから、ちゃんと攻略できているか不安だったのだ。

「……エドワード様、私、苛めを受けているんです」
「なんと!一体誰が……」
「……きっと、ポートマス公爵令嬢だと思うんです」
「アリシエラか!」

 エドワードが憤慨する。アンジェはアリシエラの姿を見たことはなかったが、現状1番交流が深まっているのはエドワードだったから、その婚約者のアリシエラの名前を出した。

「なんと、ポートマス公爵令嬢が。やはり鼻持ちならない女ですね」
「けっ、あいついつも上から目線で、何様だって感じたよな」

 宰相子息のフレドリックと騎士団長子息のバカモンドもアンジェを味方してくれる。順調にストーリーを進められているようだった。

 そして、決定的な出来事が起こった。アンジェが階段から突き落とされたのである。運良く手すりに掴まり転倒を免れたが、1歩間違えれば大怪我の危機だった。慌てて後ろを振り向いた時には暗紫色のドレスの裾が廊下の曲がり角に見えただけだった。


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