婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり

文字の大きさ
17 / 17

そろそろ行きましょう

しおりを挟む
 国家財産横領の罪で尋問された王族たちにそれぞれ罰が決定された。
 王は度重なる横領を自らの意思で、罪になると分かっていながら行った。それは自分達の贅沢な暮らしの為であり、何ら同情する点はない。横領した額は少量ずつだったが、長年に渡って行っていたことで莫大な金額に膨れ上がっていた。それゆえ、王族の私財は全て没収とし、王の死罪が決まった。
 王妃は横領について知らなかった。しかし、王に度々金を催促し、それが横領の一因になったことは紛れもない事実。金が消えていったのは、ドレス・宝石などの服飾品や頻繁に行ったお茶会や夜会などの私的な開催費であった。王妃は王妃教育の中で聖女を不当に扱っていたことも調べで分かり、民衆からの批難に晒された。その結果、最も戒律の厳しい北方修道院にて幽閉されることとなった。そこで態度に反省が見られず、真面目にお務めできなければ、王同様に死罪になることもある。
 王太子は王の横領について全く知らなかった。だが、王太子自身がかつての恋人アンジェに貢ぐために、王太子の職務上の公的資金を流用していたことが分かった。また、尋問の際に、聖女に対する極めて屈折した感情を吐露し、その精神を危険視された。横領額は王より少なかったが、その危険性も勘案し、終身犯罪奴隷として鉱山採掘労働に従事することになった。

 王族の罪と罰は多方面に影響を与えた。貴族達への信頼が薄まり、教皇への権力一本化が主張された。それにより貴族たちはその権力を更に弱めることになった。その後も貴族達の不正が明らかにされることが増え、多くの貴族が粛清された。




「もうよいのか」
「ええ。ずっと帰ってこれないわけじゃないのでしょう?」

 フランベルツに寄り添い、教会の窓から町を見下ろす。アリシエラはこの国を愛している。それはいつまでも変わらず続くのだろう。だから、この国のために祈りは忘れないし、守るための努力もする。ただ住むところが変わるだけだ。

「……帰したくはないがな。人は身勝手で、そのくせ脆い」
「ふふ、そんなこと言って。それでも貴方は人を愛しているのでしょう?」

 フランベルツは意外なことを言われたと目を見開く。だが、アリシエラはその心に隠れているものを理解していた。それくらい長い間共に過ごしたのだ。

 神が罰を与えるのは簡単だ。それはどんな相手だって、神が死を与えると望めば即座に実行される。それにも関わらず、今回の事件では神は必要以上の手出しはしなかった。全てを人の手で行うことにし、自らが人に化けてその成り行きを見続けた。
 それは人が神の愛を受け続けるに値する存在かの見極めのためだったのだろう。そして、結果は現状維持。人はあまりに複雑すぎてこの短い間では判断できなかった。

「……そうであろうか。人はいつまで経っても愚かだ」
「それゆえに愛おしい?」
「……そうなのかもしれんな」

 複雑に顔を歪めるフランベルツにアリシエラは微笑んで抱きついた。

「一緒に見守りましょう。時に人に混じって町を歩いて、時に天上から見下ろして、人が神の愛に値するか見続けましょう」
「答えはないかもしれないぞ」
「答えが出るまでは、人を愛し守り続けるのでしょう?私も一緒にするわ」

 ずっと聖女とはなんなのだろうと思っていた。神のごとく力を持つわけではなく、教皇のように清廉なカリスマ性があるわけでもない。アリシエラは聖女に選ばれただけの普通の少女だった。聖女として教会の象徴になることに否やはなかったし、アリシエラなりに人々を愛した。しかし、聖女の役割は人と神の間に立って、神が人を見放さないよう調整することではないだろうか。ならばこの命あるかぎり、人と神の間に立ち続けるだけだ。

「……そうか」
「そろそろ行きましょう。ラグノニオス様にはもう挨拶はしたわ」
「分かった。では行こう」

 笑うフランベルツに抱きついて、アリシエラは人の世を一時離れた。












 最後の聖女として名が残るアリシエラ。彼女は当時の教皇と共に王や貴族の不正を正して腐敗しつつあった国を一新させた。その発端は当時の王太子が聖女に婚約破棄を突きつけたことだった。
 その後、アリシエラは度々表舞台に登場する。聖女として教義を説き、国に困難が訪れたときには神の人への加護を祈った。
 その名は長い歴史に散見され、アリシエラは人の生を離れ神と共に暮らしているのだと言われるようになった。教皇もそれを否定せず、聖女は人と神の間に立ち続けていると語る。
 この国は聖女によって神の加護を受け続け、神聖なる最古の国と呼ばれている。





end.








―――――
あとがき

ここまでご覧いただきありがとうございます。
終盤は説明感ばかりになってしまって申し訳ない。もともと書き始めた時に頭にあったのは舞踏会のシーンだけだったのですが、どんどん話が転がっていって驚きました。起承転結で簡潔に書く努力をしなければ駄目ですね。
これからも書くの頑張りますので、またどこかでお付き合いいただけると嬉しい限りです。

しおりを挟む
感想 8

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(8件)

向日葵♡銀木犀
ネタバレ含む
2021.04.22 ゆるり

ありがとうございます!😊
初めは私も人間相手にしようかなとも思ったんですが、聖女という特殊性を考えたときに、神様相手ということになっていました。
フランツ格好いいんですよね。こういう人間ヒーローがお相手の話もいつか書いてみたいなぁと思っています。

解除
太真
2021.04.21 太真
ネタバレ含む
2021.04.21 ゆるり

ありがとうございます😊
王家没落ですが、この国は宗教国家ですからね~。こんな感じもありかな、という感じで書かせてもらいました。番外編も予定しているので、暫しお待ちくださいね。

解除
あおい
2021.04.19 あおい
ネタバレ含む
2021.04.19 ゆるり

話の流れには苦慮しましたが、納得して頂けるものになって良かったです。
他の作品もぜひ読んで頂けると嬉しいです。
感想ありがとうございました!

解除

あなたにおすすめの小説

婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」 学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。 そこに聖女であるアメリアがやってくる。 フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。 彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。 短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?

榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」 “偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。 地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。 終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。 そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。 けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。 「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」 全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。 すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく―― これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。 彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。 そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。 彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。 しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。 だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。

本当の聖女が見つかったので私はお役御免だそうです

神々廻
恋愛
この国では聖女を探すべく年頃になると、国中の女聖女であるかのテストを受けることのなっていた。 「貴方は選ばれし、我が国の聖女でございます。これから国のため、国民のために我々をお導き下さい」 大神官が何を言っているのか分からなかった。しかし、理解出来たのは私を見る目がまるで神を見るかのような眼差しを向けていた。 その日、私の生活は一変した。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。