婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり

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断罪

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 雲1つない青空が広がるその日。教会総本山には煌びやかな服を纏った貴族達が訪れていた。教皇が信徒達に演説を行う為の大講堂のベンチに座り、神妙な顔で手を組み、神の姿を描いたステンドグラスを見上げている。

 この国の貴族は余さず国教の信徒だ。元々教会の信徒だった者の中から選ばれたものが教皇の信任を受けて貴族に叙され、それを引き継いでいる。教会の中では教皇、聖女に次ぐ地位を貴族たちは戴いていた。教会内の仕事に従事する大司教と同格の扱いだ。

 教皇と聖女が大講堂に入ってくると、信徒は頭を下げた。これ程の数の貴族が1度に集められて教皇の前に侍るなど、早々ないことである。

 その姿をアリシエラは壇上から静かに見守った。アリシエラは今日は見届ける為にここにいる。

「頭をお上げなさい」

 ザッと衣擦れの音が大講堂に響く。壁際に控えている数多の教会騎士も礼の姿勢を正し教皇に視線を向けた。

「今日は皆さんにお話しすることがあります」

 ラグノニオスが穏やかに語り始める。1番前の席に座っていた王と王妃が青い顔で俯く。その姿にかつての威厳はなかった。エドワードはラグノニオスの少し後ろに控えるアリシエラを見つめて固まっていた。まさか、まだアリシエラが聖女であることを疑っていたのだろうか。既にアグノアティスがかけた力はないのに。

「王侯貴族がその職分を越えて威張る愚行が横行しているようです。今一度、皆様に貴族の役割を伝えます」

 ラグノニオスが一人ひとりの顔を見回した。

「貴族は各領地の教会長を担います。民に教会の心を伝えて布教し、信徒達の生活を守ります。また、領地内の裁判権を持ち、公平に判断し裁きを与えます。領地内で解決できない問題は、議会に持ちよりその解決に務めます」

 大講堂にラグノニオスの言葉が響く。アリシエラからすれば当たり前のことしかラグノニオスは言っていないのだが、幾人かの貴族が気まずげに視線を下げるのがわかった。

「貴族達による議会では、持ち寄られた問題を精査審議し、その解決法を探ります。また、それらの問題点を勘案し、各領地への予算の配分を検討します。議会で決定されたことは、教皇の認可を持って成立します」

 目を閉じて自省する者やグッと唇を噛み締める者。貴族たちの表情は様々だ。

「これが貴族に与えられた職務であり、それ以外のことは許可していません」

 アリシエラは思う。それが出来ている貴族がどれほどいるかと。
 領地に分けられた予算を着服する者。民を不当に虐げる者。教会の信義を忘れ放蕩に耽る者。領地を治めることを忘れ王城で勢力争いをする者。

「……貴方達に貴族と名をつけたことが悪かったのでしょうか。他国との外交のために、王の称号を許したことがいけなかったのでしょうか。私は貴方達の善良さを信じていました」

 ラグノニオスが声のトーンを変えた。さすが演説が上手い。貴族達の罪悪感を煽るのだろう。

「しかし、ことここに至っては、対処することを聖女アリシエラと共に決めました。民の生活の安心を守るために。そして、民が教会に不信感を抱かないように。貴族達に対し監視役を設け、その職務を監視させることにしました」

 監視役は貴族の不正を監視し、教皇に報告する。教皇の仕事は更に増えるが、不正がなければそれほど負担にならないだろう。これまでに行われた不正も追及し、貴族に責任をとらせる。恐らく多くの貴族がその地位を失い、新たな貴族が叙されることになるだろう。

「そして、王族の称号を廃止します」

 ざわめく貴族達が静まった。

「これからは外交特使の任を私が指名し、他国における王相当の地位とします。外交特使は定期的に変え、その職務の独占を防ぎます」

 王達に視線が集まった。

「今の王と王妃、王太子は国家財産横領の罪で罪人とし、貴族の称号も剥奪されます。また、聖女との婚約を貶めた罪は王太子に加算されます」

 王族という地位から転落し、罪人に成り果てた彼らに様々な視線が送られる。その中には、次は我が身と戦々恐々としたものもあった。
 貴族達の横領の罪は最大で死刑である。王たちは顔色をなくして周りを見渡した。逃避を考えているのかも知れないが、ここには教会騎士が数多立っている。逃げることは出来ない。彼らはガックリと項垂れるしかなかった。


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