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そろそろ行きましょう
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国家財産横領の罪で尋問された王族たちにそれぞれ罰が決定された。
王は度重なる横領を自らの意思で、罪になると分かっていながら行った。それは自分達の贅沢な暮らしの為であり、何ら同情する点はない。横領した額は少量ずつだったが、長年に渡って行っていたことで莫大な金額に膨れ上がっていた。それゆえ、王族の私財は全て没収とし、王の死罪が決まった。
王妃は横領について知らなかった。しかし、王に度々金を催促し、それが横領の一因になったことは紛れもない事実。金が消えていったのは、ドレス・宝石などの服飾品や頻繁に行ったお茶会や夜会などの私的な開催費であった。王妃は王妃教育の中で聖女を不当に扱っていたことも調べで分かり、民衆からの批難に晒された。その結果、最も戒律の厳しい北方修道院にて幽閉されることとなった。そこで態度に反省が見られず、真面目にお務めできなければ、王同様に死罪になることもある。
王太子は王の横領について全く知らなかった。だが、王太子自身がかつての恋人アンジェに貢ぐために、王太子の職務上の公的資金を流用していたことが分かった。また、尋問の際に、聖女に対する極めて屈折した感情を吐露し、その精神を危険視された。横領額は王より少なかったが、その危険性も勘案し、終身犯罪奴隷として鉱山採掘労働に従事することになった。
王族の罪と罰は多方面に影響を与えた。貴族達への信頼が薄まり、教皇への権力一本化が主張された。それにより貴族たちはその権力を更に弱めることになった。その後も貴族達の不正が明らかにされることが増え、多くの貴族が粛清された。
「もうよいのか」
「ええ。ずっと帰ってこれないわけじゃないのでしょう?」
フランベルツに寄り添い、教会の窓から町を見下ろす。アリシエラはこの国を愛している。それはいつまでも変わらず続くのだろう。だから、この国のために祈りは忘れないし、守るための努力もする。ただ住むところが変わるだけだ。
「……帰したくはないがな。人は身勝手で、そのくせ脆い」
「ふふ、そんなこと言って。それでも貴方は人を愛しているのでしょう?」
フランベルツは意外なことを言われたと目を見開く。だが、アリシエラはその心に隠れているものを理解していた。それくらい長い間共に過ごしたのだ。
神が罰を与えるのは簡単だ。それはどんな相手だって、神が死を与えると望めば即座に実行される。それにも関わらず、今回の事件では神は必要以上の手出しはしなかった。全てを人の手で行うことにし、自らが人に化けてその成り行きを見続けた。
それは人が神の愛を受け続けるに値する存在かの見極めのためだったのだろう。そして、結果は現状維持。人はあまりに複雑すぎてこの短い間では判断できなかった。
「……そうであろうか。人はいつまで経っても愚かだ」
「それゆえに愛おしい?」
「……そうなのかもしれんな」
複雑に顔を歪めるフランベルツにアリシエラは微笑んで抱きついた。
「一緒に見守りましょう。時に人に混じって町を歩いて、時に天上から見下ろして、人が神の愛に値するか見続けましょう」
「答えはないかもしれないぞ」
「答えが出るまでは、人を愛し守り続けるのでしょう?私も一緒にするわ」
ずっと聖女とはなんなのだろうと思っていた。神のごとく力を持つわけではなく、教皇のように清廉なカリスマ性があるわけでもない。アリシエラは聖女に選ばれただけの普通の少女だった。聖女として教会の象徴になることに否やはなかったし、アリシエラなりに人々を愛した。しかし、聖女の役割は人と神の間に立って、神が人を見放さないよう調整することではないだろうか。ならばこの命あるかぎり、人と神の間に立ち続けるだけだ。
「……そうか」
「そろそろ行きましょう。ラグノニオス様にはもう挨拶はしたわ」
「分かった。では行こう」
笑うフランベルツに抱きついて、アリシエラは人の世を一時離れた。
最後の聖女として名が残るアリシエラ。彼女は当時の教皇と共に王や貴族の不正を正して腐敗しつつあった国を一新させた。その発端は当時の王太子が聖女に婚約破棄を突きつけたことだった。
その後、アリシエラは度々表舞台に登場する。聖女として教義を説き、国に困難が訪れたときには神の人への加護を祈った。
その名は長い歴史に散見され、アリシエラは人の生を離れ神と共に暮らしているのだと言われるようになった。教皇もそれを否定せず、聖女は人と神の間に立ち続けていると語る。
この国は聖女によって神の加護を受け続け、神聖なる最古の国と呼ばれている。
end.
―――――
あとがき
ここまでご覧いただきありがとうございます。
終盤は説明感ばかりになってしまって申し訳ない。もともと書き始めた時に頭にあったのは舞踏会のシーンだけだったのですが、どんどん話が転がっていって驚きました。起承転結で簡潔に書く努力をしなければ駄目ですね。
これからも書くの頑張りますので、またどこかでお付き合いいただけると嬉しい限りです。
王は度重なる横領を自らの意思で、罪になると分かっていながら行った。それは自分達の贅沢な暮らしの為であり、何ら同情する点はない。横領した額は少量ずつだったが、長年に渡って行っていたことで莫大な金額に膨れ上がっていた。それゆえ、王族の私財は全て没収とし、王の死罪が決まった。
王妃は横領について知らなかった。しかし、王に度々金を催促し、それが横領の一因になったことは紛れもない事実。金が消えていったのは、ドレス・宝石などの服飾品や頻繁に行ったお茶会や夜会などの私的な開催費であった。王妃は王妃教育の中で聖女を不当に扱っていたことも調べで分かり、民衆からの批難に晒された。その結果、最も戒律の厳しい北方修道院にて幽閉されることとなった。そこで態度に反省が見られず、真面目にお務めできなければ、王同様に死罪になることもある。
王太子は王の横領について全く知らなかった。だが、王太子自身がかつての恋人アンジェに貢ぐために、王太子の職務上の公的資金を流用していたことが分かった。また、尋問の際に、聖女に対する極めて屈折した感情を吐露し、その精神を危険視された。横領額は王より少なかったが、その危険性も勘案し、終身犯罪奴隷として鉱山採掘労働に従事することになった。
王族の罪と罰は多方面に影響を与えた。貴族達への信頼が薄まり、教皇への権力一本化が主張された。それにより貴族たちはその権力を更に弱めることになった。その後も貴族達の不正が明らかにされることが増え、多くの貴族が粛清された。
「もうよいのか」
「ええ。ずっと帰ってこれないわけじゃないのでしょう?」
フランベルツに寄り添い、教会の窓から町を見下ろす。アリシエラはこの国を愛している。それはいつまでも変わらず続くのだろう。だから、この国のために祈りは忘れないし、守るための努力もする。ただ住むところが変わるだけだ。
「……帰したくはないがな。人は身勝手で、そのくせ脆い」
「ふふ、そんなこと言って。それでも貴方は人を愛しているのでしょう?」
フランベルツは意外なことを言われたと目を見開く。だが、アリシエラはその心に隠れているものを理解していた。それくらい長い間共に過ごしたのだ。
神が罰を与えるのは簡単だ。それはどんな相手だって、神が死を与えると望めば即座に実行される。それにも関わらず、今回の事件では神は必要以上の手出しはしなかった。全てを人の手で行うことにし、自らが人に化けてその成り行きを見続けた。
それは人が神の愛を受け続けるに値する存在かの見極めのためだったのだろう。そして、結果は現状維持。人はあまりに複雑すぎてこの短い間では判断できなかった。
「……そうであろうか。人はいつまで経っても愚かだ」
「それゆえに愛おしい?」
「……そうなのかもしれんな」
複雑に顔を歪めるフランベルツにアリシエラは微笑んで抱きついた。
「一緒に見守りましょう。時に人に混じって町を歩いて、時に天上から見下ろして、人が神の愛に値するか見続けましょう」
「答えはないかもしれないぞ」
「答えが出るまでは、人を愛し守り続けるのでしょう?私も一緒にするわ」
ずっと聖女とはなんなのだろうと思っていた。神のごとく力を持つわけではなく、教皇のように清廉なカリスマ性があるわけでもない。アリシエラは聖女に選ばれただけの普通の少女だった。聖女として教会の象徴になることに否やはなかったし、アリシエラなりに人々を愛した。しかし、聖女の役割は人と神の間に立って、神が人を見放さないよう調整することではないだろうか。ならばこの命あるかぎり、人と神の間に立ち続けるだけだ。
「……そうか」
「そろそろ行きましょう。ラグノニオス様にはもう挨拶はしたわ」
「分かった。では行こう」
笑うフランベルツに抱きついて、アリシエラは人の世を一時離れた。
最後の聖女として名が残るアリシエラ。彼女は当時の教皇と共に王や貴族の不正を正して腐敗しつつあった国を一新させた。その発端は当時の王太子が聖女に婚約破棄を突きつけたことだった。
その後、アリシエラは度々表舞台に登場する。聖女として教義を説き、国に困難が訪れたときには神の人への加護を祈った。
その名は長い歴史に散見され、アリシエラは人の生を離れ神と共に暮らしているのだと言われるようになった。教皇もそれを否定せず、聖女は人と神の間に立ち続けていると語る。
この国は聖女によって神の加護を受け続け、神聖なる最古の国と呼ばれている。
end.
―――――
あとがき
ここまでご覧いただきありがとうございます。
終盤は説明感ばかりになってしまって申し訳ない。もともと書き始めた時に頭にあったのは舞踏会のシーンだけだったのですが、どんどん話が転がっていって驚きました。起承転結で簡潔に書く努力をしなければ駄目ですね。
これからも書くの頑張りますので、またどこかでお付き合いいただけると嬉しい限りです。
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ありがとうございます!😊
初めは私も人間相手にしようかなとも思ったんですが、聖女という特殊性を考えたときに、神様相手ということになっていました。
フランツ格好いいんですよね。こういう人間ヒーローがお相手の話もいつか書いてみたいなぁと思っています。
ありがとうございます😊
王家没落ですが、この国は宗教国家ですからね~。こんな感じもありかな、という感じで書かせてもらいました。番外編も予定しているので、暫しお待ちくださいね。
話の流れには苦慮しましたが、納得して頂けるものになって良かったです。
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感想ありがとうございました!