走馬灯に君はいない

優未

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 前世に関しては断片的な記憶しかないが、私は貴族だった。貴族令嬢として何不自由なく生きていたある日、父が騙されて投資に失敗し没落することになった。そんな時、手を差し伸べてくれたのが彼だった。これからどうやって生きていけばいいのか不安な日々の中、私を支えてくれた彼を好きになるのに時間は掛からなかった。

「この丘で愛を誓い合った恋人は来世でもまた巡り合えるんだって」

 かつての私が暮らしていた土地には、恋愛に関する言い伝えで有名な丘があった。そこに彼と訪れて想いを伝えあった。自分の状況など何1つ知らなかった私は、彼の気持ちを疑いなんてしなかった。来世もまた彼と出会いたいと願った上に、まさかそれが叶ってしまうとは。

 今世で彼と会うのは初めてだ。結婚の口約束をするくらいだから両家の関係が悪いことはない。命の危険はないだろう。だがそんな因縁の相手とは関わらない方がいいに決まっている。そもそもこれは正式なお見合いでも何でもない。話してみて合わなかったと言えば、この話はなかったことにできるはずだ。

 今まで異性と上手く交流を持てなかった私が、初対面の男性相手に上手くふるまえるとも思えない。きっと話も盛り上がらずに終わるだろう。今日偶然再会してしまったが、それは言い伝えの効果でしかない。それぞれ別の人生を歩んでいこう。

「また俺と会ってもらえますか」
「はい?」
「君と結婚を前提に付き合いたい」

 別れ際に告げられた言葉は予想外のものだった。一体私の何を気に入ったというのだろう。…もしかすると両家の長年放置された話題を終わらせるために?前世の彼も自分の幸せを捨ててでも復讐に生きようとしていた。生まれ変わっても根っこの性格は変わらないのかもしれない。

「家同士のただの口約束ですから、律儀に守ろうとしなくても大丈夫ですよ」
「家は関係ない。これは俺の意思です」
「私たち今日初めて会ったんですよ?」
「君のことをもっと知りたくなった」
「…大したものじゃないですよ」
「それを判断するのは俺です」

 何故こんなに食いついてくるの。前世の復讐心が、生まれ変わったことで私への執着へと変貌してしまったのだろうか。あの丘での誓いが変な作用をしている?今も昔も魔法なんてものは存在しないはずだ。ただの観光名所としての謳い文句ではなかったのか。愛を誓った恋人同士の来世なんて当時の私に知りようがない。

「王都にはもっと素敵な人がたくさんいるんじゃないですか。実はもうお付き合いしている人がいたり…」
「お互い恋人がいないから今日会うことになったはずだ。すぐに結論を出す必要はない。どうせ振るならもう少し俺のことを知ってからにしてくれ」

 あなたのことなんて知りたくないです。そう伝えたらこれで終わりにできるだろう。だが初対面の人間に、今日限りで会わなくなる人に酷いことは言いたくない。私のことはさっさと忘れてほしい。諦めてもらうには何と言えばいいだろう。素敵な人、恋人―――そうだ。いることにしてしまえばいい。

 

「私、結婚を約束した相手がいるんです」
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