走馬灯に君はいない

優未

文字の大きさ
1 / 7

1

しおりを挟む
 飲んだ薬の影響か、意識が朦朧としている。目の前の彼の話を聞きたいのに、集中できない。

「僕たち家族は君の父親から…」

 彼は私の父を恨んでいるらしい。この家で働く人たちは彼と同じように父への恨みを募らせた人たちが集められていると聞いた。

「…あの男が溺愛している君を…」

 憎んでいる父への復讐として大切なものを奪ってやろうといったところらしい。私は恋人だと思っていたけど、彼にとってはただの復讐の道具だったようだ。全然気が付かなかった。それくらい、2人で過ごした時間は幸せなものだった。

 復讐の為に生きるなんてやめてほしい。何をしたって父への恨みは消えないかもしれない。負の感情に囚われて一生を台無しになんてしないで。私のことは忘れて幸せに生きて―――

パンッ

「またこの夢…」

 全身に汗をかき、悪夢から目を覚ました。何故か最近見る頻度が高くなっているように思う。愛した恋人から裏切られ死ぬことになる夢だなんて最悪だ。いや、何より最悪なのはこの夢はただの夢ではなく実際に起こったこと―――自分の前世での出来事ということだ。

 前世のことを憶えているだなんて言ったら頭がおかしくなったと思われる。家族や友人にも伝えることができず、ずっと1人で抱え込んできた。前世の影響もあってろくに恋人もできない。もしまた命を狙われたらどうしよう。ありえないことだと分かりながらも、異性との交流を深めることに躊躇をしてしまう。唯一仲良くしているのは幼馴染のフィリップだが、幼い頃から兄弟のように育ったものだからお互いにそういった感情が一切ない。

 このまま1人で年を重ねていくことも考えていた中、突如舞い込んできた話がある。どうやら家同士の古い約束で同年代の男女が生まれたら結婚させようという話があったらしい。あくまでも口約束に過ぎず、今時そんなことを強要するものではない。両家ともあってないようなものとして扱ってきたのだが、自分の子供が全く結婚する様子がないところから一度会わせてみようということになったそうだ。

 両親をいつまでも心配させるのもよくない。会ってみて悪い人でなければ話を進めるのもいい。形だけの婚姻をして相手には自由に過ごしてもらうという手もある。一体どんな人なのだろうか。年は3つ上で王都で暮らしているということしか情報がない。ちなみに顔合わせは今日である。とりあえずこの汗を洗い流して身支度を整えなければ。

 お見合いほどお堅いものではないから、最初の挨拶以外は2人で話しやすいようにとカフェで待ち合わせとなっている。相手を待っている間、両親にお相手のことを聞こうとしたところで、丁度彼らも到着したようだ。

「お待たせしてしまい申し訳ありません」
「いえいえ、私たちも到着したばかりですよ」

 何世代も遡った両家の長男同士がとても仲が良く、自分たちの子供を結婚させようと約束したらしい。しかし、男子しか生まれなかったり、逆に女子しか生まれなかったり、年齢が少し離れていたりと約束が果たされることはなかった。やがて好きな相手と結ばれてほしいという親の願いもあって、2人の口約束は形骸化した。まさか自分の代で果たすことになるとは。いや、正確にはまだ決まってはいないか。

「ほらゾーエ、見惚れてないでリーンさんにご挨拶なさい」

 母親に促された青年がこちらに目を向けた瞬間、時が止まったかと思った。

「ゾーエ・カネーシオと申します」

 嘘だ。そんなはずない。どうして―――

「リーン?どうしたの。あなたも挨拶なさい」
「リーン・トロープと…申します」
「この子ったらゾーエさんがハンサムだから緊張しているみたい」

 違う、そんな理由じゃない。私はこの人を知っている。

 この人は、前世の恋人だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたでなくては

月樹《つき》
恋愛
私の恋人はとても女性に人気がある人です。いつも周りには美しい人達が彼を取り囲んでいます。でも良いのです。だって彼だけが私の大切な…。

incurably

優未
恋愛
幼い頃のちょっとした事故が原因で婚約を結んだマークとエリナ。ほとんど目立たない傷で責任を取ってもらうのは申し訳ない。何とか穏便に婚約解消を目指すエリナに対してマークは……。

【完結】捨てた女が高嶺の花になっていた〜『ジュエリーな君と甘い恋』の真実〜

ジュレヌク
恋愛
スファレライトは、婚約者を捨てた。 自分と結婚させる為に産み落とされた彼女は、全てにおいて彼より優秀だったからだ。 しかし、その後、彼女が、隣国の王太子妃になったと聞き、正に『高嶺の花』となってしまったのだと知る。 しかし、この物語の真相は、もっと別のところにあった。 それを彼が知ることは、一生ないだろう。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

貴方の幸せの為ならば

缶詰め精霊王
恋愛
主人公たちは幸せだった……あんなことが起きるまでは。 いつも通りに待ち合わせ場所にしていた所に行かなければ……彼を迎えに行ってれば。 後悔しても遅い。だって、もう過ぎたこと……

さようなら、あなたとはもうお別れです

四季
恋愛
十八の誕生日、親から告げられたアセインという青年と婚約した。 幸せになれると思っていた。 そう夢みていたのだ。 しかし、婚約から三ヶ月ほどが経った頃、異変が起こり始める。

ひまわりを君に。

水瀬瑠奈
恋愛
ずっと好きだった君が見ていたのは、私じゃなくて親友だった。

私の婚約者様には恋人がいるようです?

鳴哉
恋愛
自称潔い性格の子爵令嬢 と 勧められて彼女と婚約した伯爵    の話 短いのでサクッと読んでいただけると思います。 読みやすいように、5話に分けました。 毎日一話、予約投稿します。

処理中です...