走馬灯に君はいない

優未

文字の大きさ
2 / 6

2

しおりを挟む
 前世に関しては断片的な記憶しかないが、私は貴族だった。貴族令嬢として何不自由なく生きていたある日、父が騙されて投資に失敗し没落することになった。そんな時、手を差し伸べてくれたのが彼だった。これからどうやって生きていけばいいのか不安な日々の中、私を支えてくれた彼を好きになるのに時間は掛からなかった。

「この丘で愛を誓い合った恋人は来世でもまた巡り合えるんだって」

 かつての私が暮らしていた土地には、恋愛に関する言い伝えで有名な丘があった。そこに彼と訪れて想いを伝えあった。自分の状況など何1つ知らなかった私は、彼の気持ちを疑いなんてしなかった。来世もまた彼と出会いたいと願った上に、まさかそれが叶ってしまうとは。

 今世で彼と会うのは初めてだ。結婚の口約束をするくらいだから両家の関係が悪いことはない。命の危険はないだろう。だがそんな因縁の相手とは関わらない方がいいに決まっている。そもそもこれは正式なお見合いでも何でもない。話してみて合わなかったと言えば、この話はなかったことにできるはずだ。

 今まで異性と上手く交流を持てなかった私が、初対面の男性相手に上手くふるまえるとも思えない。きっと話も盛り上がらずに終わるだろう。今日偶然再会してしまったが、それは言い伝えの効果でしかない。それぞれ別の人生を歩んでいこう。

「また俺と会ってもらえますか」
「はい?」
「君と結婚を前提に付き合いたい」

 別れ際に告げられた言葉は予想外のものだった。一体私の何を気に入ったというのだろう。…もしかすると両家の長年放置された話題を終わらせるために?前世の彼も自分の幸せを捨ててでも復讐に生きようとしていた。生まれ変わっても根っこの性格は変わらないのかもしれない。

「家同士のただの口約束ですから、律儀に守ろうとしなくても大丈夫ですよ」
「家は関係ない。これは俺の意思です」
「私たち今日初めて会ったんですよ?」
「君のことをもっと知りたくなった」
「…大したものじゃないですよ」
「それを判断するのは俺です」

 何故こんなに食いついてくるの。前世の復讐心が、生まれ変わったことで私への執着へと変貌してしまったのだろうか。あの丘での誓いが変な作用をしている?今も昔も魔法なんてものは存在しないはずだ。ただの観光名所としての謳い文句ではなかったのか。愛を誓った恋人同士の来世なんて当時の私に知りようがない。

「王都にはもっと素敵な人がたくさんいるんじゃないですか。実はもうお付き合いしている人がいたり…」
「お互い恋人がいないから今日会うことになったはずだ。すぐに結論を出す必要はない。どうせ振るならもう少し俺のことを知ってからにしてくれ」

 あなたのことなんて知りたくないです。そう伝えたらこれで終わりにできるだろう。だが初対面の人間に、今日限りで会わなくなる人に酷いことは言いたくない。私のことはさっさと忘れてほしい。諦めてもらうには何と言えばいいだろう。素敵な人、恋人―――そうだ。いることにしてしまえばいい。

 

「私、結婚を約束した相手がいるんです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】救ってくれたのはあなたでした

ベル
恋愛
伯爵令嬢であるアリアは、父に告げられて女癖が悪いことで有名な侯爵家へと嫁ぐことになった。いわゆる政略結婚だ。 アリアの両親は愛らしい妹ばかりを可愛がり、アリアは除け者のように扱われていた。 ようやくこの家から解放されるのね。 良い噂は聞かない方だけれど、ここから出られるだけ感謝しなければ。 そして結婚式当日、そこで待っていたのは予想もしないお方だった。

collage

優未
恋愛
好きになった人は、父の罪を暴くために近付いてきただけだった。 国家反逆罪を犯した父と共に処刑された主人公だが、気が付くと彼と出会う前に戻っていた。 1度目となるべく違う行動を取ろうと動き出す主人公の前に現れたのは…?

6回目のさようなら

音爽(ネソウ)
恋愛
恋人ごっこのその先は……

【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人

通木遼平
恋愛
 アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。  が、二人の心の内はそうでもなく……。 ※他サイトでも掲載しています

【短編】誰も幸せになんかなれない~悪役令嬢の終末~

真辺わ人
恋愛
私は前世の記憶を持つ悪役令嬢。 自分が愛する人に裏切られて殺される未来を知っている。 回避したいけれど回避できなかったらどうしたらいいの? *後編投稿済み。これにて完結です。 *ハピエンではないので注意。

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

マリアの幸せな結婚

月樹《つき》
恋愛
花屋の一人娘マリアとパン屋の次男のサルバトーレは子供の頃から仲良しの幼馴染で、将来はマリアの家にサルバトーレが婿に入ると思われていた。 週末は花屋『マルゲリータ』でマリアの父の手伝いをしていたサルバトーレは、お見舞いの花を届けに行った先で、男爵家の娘アンジェラに出会う。 病気がちであまり外出のできないアンジェラは、頻繁に花の注文をし、サルバトーレを呼び寄せた。 そのうちアンジェラはサルバトーレとの結婚を夢見るようになって…。 この作品は他サイトにも投稿しております。

処理中です...