走馬灯に君はいない

優未

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 いつの頃からかは忘れたが、自分には前世の記憶がある。最初は前世だなどと思わず、ただただ喪失感を抱えて生きていた。大切なものを失った日の夢を見た時に、生まれてからずっとあった感情の正体を知った。自分のせいで大切な恋人が死んでしまった。その事実を受け入れるのには少しだけ時間がかかった。

 愛を誓い合った恋人は来世でも巡り合える。真偽不明の言い伝えのある丘に2人で出かけたこともあった。まっすぐにこちらに向けられる柔らかな微笑みに、胸がしめつけられるようだった。この世界に魔法なんて存在はない。言い伝えを信じるわけではないが、今世では会わないほうがいい。彼女が生まれ変わっているかさえわからないのにそう思った。

 前世の記憶の影響もあり、誰かと付き合おうだなんて考えられず学生時代は勉学に励んだ。卒業後は立場の弱い人たちを救いたいと弁護士になった。仕事に明け暮れる息子を心配してか、両親からとある女性と会ってみないかと言われた。

 家同士の古い口約束だから重く受け止めなくてもいいと何度も言われ、しぶしぶ了承する。前世の彼女を思って恋人を作ってこなかったわけではない。恋愛をしようという気が起きなかっただけで、どんな出会いの形であれ結婚するのも悪くはない。むしろこれくらい軽い気持ちで臨むくらいがちょうどいいのかもしれない。そんな風に考えていた。

―――相手の顔を見るまでは

 待ち合わせ場所で家族と話しているリーンを見た瞬間、まるで時が止まったようだった。前世の記憶が一気によみがえってくる。容姿も名前も住む世界も違うというのに、確かに目の前にいるのは彼女だった。かつての自分の記憶の濁流に飲み込まれているのを、リーンに見惚れていると勘違いした母親から挨拶するよう促される。彼女の反応を気にする余裕などないくらい俺は動揺していた。

 会わないほうがいいと思っていたのは事実だ。だが、巡り合ってしまったら離れることなんてできない。今世は家同士の確執も存在しない。何の効力も持たないとはいえ、実質婚約者のようなものだ。この機会を逃したくない。そうだというのに、結婚を約束した幼馴染がいる?相手がいないからこの話を受けたのではなかったのか。

 幼い頃から一緒というだけあって、2人の話す様子は仲が良さそうに見える。親に伝えられないような関係ではないだろう。疑問は残るが、正式な婚約者ではないというのは好都合だ。リーンが正式に誰かと結婚するまでは諦めないと決めた。

 彼女が王都で働きはじめたことで会いやすくなった。両家の関係を思ってか会うことは拒否されない。恋人のロクシーについて尋ねるとあまり会えていないようだ。以前別の女性と親しそうに歩いているところを見かけてしまったが、憶測で彼女を傷つけたくはない。もし2人が別れたら……他人の不幸を望むのはよくない。だがもしも…2人が上手くいかなかった場合どうするか。

 婚約は拒否されたが、自分と話している時の表情はむしろ…これはうぬぼれてもいいだろうか。誠実な彼女がそんなはずはないと言い聞かせながら、わずかな可能性にかけたくなる。すれ違って気持ちが離れてしまった時に、1番近くにいる俺を選んではくれないだろうか。リーンには幸せになってもらいたいのに、不幸を願う自分に嫌気がさした。

 そんな反省をしたのも一瞬で、またロクシーと例の女性が一緒にいるところを見かけた。親密な雰囲気は明らかにクロだと言える。俺が選ばれないとしても、不誠実な男に彼女を任せられない。リーンに伝えるタイミングをうかがっていると、ロクシーと2人でいるところに出くわした。

 リーンと別れるよう告げると、そもそも2人は付き合っていないという。騙していたことを謝罪される。しかも、彼女も前世を覚えているというではないか。

「あなたはもしかしたら無意識で過去に引きずられているのかもしれない」

「私のことは忘れて、今のあなたとして幸せになってほしいんです」

 また君は自分のためではなく誰かのために犠牲になろうとしているのではないか。頼むから本心を聞かせてほしい。立ち去ろうとするリーンを呼び止めた。
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