走馬灯に君はいない

優未

文字の大きさ
6 / 7

6

しおりを挟む
「あなたにも…記憶が」

 ではどうして私に近付くの。前世で恨みは晴れなかった?じゃあ今までこの人が取ってきた行動は。私の気持ちは。

「また自分を好きにさせてから捨てるつもりだったの?それならもう」
「違う。出会ったのも偶然だし、復讐なんて企んでもいない。…憎んだ相手でなければ結ばれてもいいのか」
「それは」
「前世でも今世でも俺は君を憎んでなどいない。君のことが好きだ」

 前世の記憶は夢で断片的に見るだけで、はっきりと覚えているわけではない。死の間際で行われたやりとりで分かるのは復讐の為に私を利用したことだけ。私に対しての感情などは確かに知りようがない。

「誰かの為を思って行動できるのは君の長所だが、人の気持ちを決めつけて否定するのはよくない」
「ごめんなさい」
「2人とも前世を覚えている以上、切り離すことなんて不可能だ。君の考えも理解はできる。だが俺たちは前世の記憶をもったままこれまで生きてきた。前世を含めて俺自身でもある。今の君に今の俺を好きになってほしい。君も前世に囚われるなと言うなら、前世を理由にせずに俺を振ってくれ」

 彼の言う通りで、私も前世の記憶を抱えながら生きてきた。誰よりも私自身が前世に固執していると言ってもいい。男性と親密になるのを避け、1人で暮らしていこうなんて考えながら結局カネーシオを好きになった。彼からのまっすぐな好意を感じながら、どうしてそれを受け取ってはいけないと思ったのか。

 前世に囚われてほしくない。負の感情で生きてほしくないから。愛のない結婚生活を送ってほしくない。幸せになってほしい。じゃあ、過去も今も私のことを恨んでおらず、思いを寄せてくれているなら。今の私が、今の彼に告げるべき言葉は―――。

「私もあなたのことが好きです、ゾーエさん」
「リーン…ありがとう。幸せにする」
「前世であなたは幸せだった?」
「君のいない人生が幸せだと思うか」

 私は前世の全てを覚えているわけではない。先に死んでしまったから彼のその後もわからない。なんとなくだが、ゾーエは記憶がはっきりしていそうだ。

「ねえ、前世のこと教えてくれない。実ははっきりとは思い出せなく…」

 話を遮るように、彼に抱きしめられる。

「全てを思い出す必要なんてない。俺たちは今を生きているのだから」
「……それも、そうね」

 私を抱きしめる腕が少しだけ震えている。言いたくないのなら、無理に聞かないほうがいいのだろう。過去は過去だ。今の彼と生きていくのに、それは必要ない。彼が少しでも安心できるように、そっと抱きしめ返す。

 しばらく抱き合ったままでいると、不意に彼の右手が頬に添えられる。目を合わせると、彼が顔を近づけてくる。私はそっと目を閉じてキスを受け入れた。

 この仕草は、変わっていないらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凍雪の約束

苺迷音
恋愛
政略として嫁ぐことが決まっている令嬢・キャローナと、従者として主を守り抜くことが全てだった青年・クリフォード。 降りしきる雪の中、彼女が差し出した右手。彼はその手を取り、守り続けてきた忠誠と義務の境界を自ら踏み越える。 そして、雪は命の音を奪っていった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

collage

優未
恋愛
好きになった人は、父の罪を暴くために近付いてきただけだった。 国家反逆罪を犯した父と共に処刑された主人公だが、気が付くと彼と出会う前に戻っていた。 1度目となるべく違う行動を取ろうと動き出す主人公の前に現れたのは…?

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

王子様の花嫁選抜

ひづき
恋愛
王妃の意向で花嫁の選抜会を開くことになった。 花嫁候補の一人に選ばれた他国の王女フェリシアは、王太子を見て一年前の邂逅を思い出す。 花嫁に選ばれたくないな、と、フェリシアは思った。

能ある妃は身分を隠す

赤羽夕夜
恋愛
セラス・フィーは異国で勉学に励む為に、学園に通っていた。――がその卒業パーティーの日のことだった。 言われもない罪でコンペーニュ王国第三王子、アレッシオから婚約破棄を大体的に告げられる。 全てにおいて「身に覚えのない」セラスは、反論をするが、大衆を前に恥を掻かせ、利益を得ようとしか思っていないアレッシオにどうするべきかと、考えているとセラスの前に現れたのは――。

『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様

恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。 不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、 伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。 感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、 ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。 「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」 足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。 「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」 一度凍りついた心は、二度と溶けない。 後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、 終わりのない贖罪の記録。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです

珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。 でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。 加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。

処理中です...