5 / 7
5
いつの頃からかは忘れたが、自分には前世の記憶がある。最初は前世だなどと思わず、ただただ喪失感を抱えて生きていた。大切なものを失った日の夢を見た時に、生まれてからずっとあった感情の正体を知った。自分のせいで大切な恋人が死んでしまった。その事実を受け入れるのには少しだけ時間がかかった。
愛を誓い合った恋人は来世でも巡り合える。真偽不明の言い伝えのある丘に2人で出かけたこともあった。まっすぐにこちらに向けられる柔らかな微笑みに、胸がしめつけられるようだった。この世界に魔法なんて存在はない。言い伝えを信じるわけではないが、今世では会わないほうがいい。彼女が生まれ変わっているかさえわからないのにそう思った。
前世の記憶の影響もあり、誰かと付き合おうだなんて考えられず学生時代は勉学に励んだ。卒業後は立場の弱い人たちを救いたいと弁護士になった。仕事に明け暮れる息子を心配してか、両親からとある女性と会ってみないかと言われた。
家同士の古い口約束だから重く受け止めなくてもいいと何度も言われ、しぶしぶ了承する。前世の彼女を思って恋人を作ってこなかったわけではない。恋愛をしようという気が起きなかっただけで、どんな出会いの形であれ結婚するのも悪くはない。むしろこれくらい軽い気持ちで臨むくらいがちょうどいいのかもしれない。そんな風に考えていた。
―――相手の顔を見るまでは
待ち合わせ場所で家族と話しているリーンを見た瞬間、まるで時が止まったようだった。前世の記憶が一気によみがえってくる。容姿も名前も住む世界も違うというのに、確かに目の前にいるのは彼女だった。かつての自分の記憶の濁流に飲み込まれているのを、リーンに見惚れていると勘違いした母親から挨拶するよう促される。彼女の反応を気にする余裕などないくらい俺は動揺していた。
会わないほうがいいと思っていたのは事実だ。だが、巡り合ってしまったら離れることなんてできない。今世は家同士の確執も存在しない。何の効力も持たないとはいえ、実質婚約者のようなものだ。この機会を逃したくない。そうだというのに、結婚を約束した幼馴染がいる?相手がいないからこの話を受けたのではなかったのか。
幼い頃から一緒というだけあって、2人の話す様子は仲が良さそうに見える。親に伝えられないような関係ではないだろう。疑問は残るが、正式な婚約者ではないというのは好都合だ。リーンが正式に誰かと結婚するまでは諦めないと決めた。
彼女が王都で働きはじめたことで会いやすくなった。両家の関係を思ってか会うことは拒否されない。恋人のロクシーについて尋ねるとあまり会えていないようだ。以前別の女性と親しそうに歩いているところを見かけてしまったが、憶測で彼女を傷つけたくはない。もし2人が別れたら……他人の不幸を望むのはよくない。だがもしも…2人が上手くいかなかった場合どうするか。
婚約は拒否されたが、自分と話している時の表情はむしろ…これはうぬぼれてもいいだろうか。誠実な彼女がそんなはずはないと言い聞かせながら、わずかな可能性にかけたくなる。すれ違って気持ちが離れてしまった時に、1番近くにいる俺を選んではくれないだろうか。リーンには幸せになってもらいたいのに、不幸を願う自分に嫌気がさした。
そんな反省をしたのも一瞬で、またロクシーと例の女性が一緒にいるところを見かけた。親密な雰囲気は明らかにクロだと言える。俺が選ばれないとしても、不誠実な男に彼女を任せられない。リーンに伝えるタイミングをうかがっていると、ロクシーと2人でいるところに出くわした。
リーンと別れるよう告げると、そもそも2人は付き合っていないという。騙していたことを謝罪される。しかも、彼女も前世を覚えているというではないか。
「あなたはもしかしたら無意識で過去に引きずられているのかもしれない」
「私のことは忘れて、今のあなたとして幸せになってほしいんです」
また君は自分のためではなく誰かのために犠牲になろうとしているのではないか。頼むから本心を聞かせてほしい。立ち去ろうとするリーンを呼び止めた。
愛を誓い合った恋人は来世でも巡り合える。真偽不明の言い伝えのある丘に2人で出かけたこともあった。まっすぐにこちらに向けられる柔らかな微笑みに、胸がしめつけられるようだった。この世界に魔法なんて存在はない。言い伝えを信じるわけではないが、今世では会わないほうがいい。彼女が生まれ変わっているかさえわからないのにそう思った。
前世の記憶の影響もあり、誰かと付き合おうだなんて考えられず学生時代は勉学に励んだ。卒業後は立場の弱い人たちを救いたいと弁護士になった。仕事に明け暮れる息子を心配してか、両親からとある女性と会ってみないかと言われた。
家同士の古い口約束だから重く受け止めなくてもいいと何度も言われ、しぶしぶ了承する。前世の彼女を思って恋人を作ってこなかったわけではない。恋愛をしようという気が起きなかっただけで、どんな出会いの形であれ結婚するのも悪くはない。むしろこれくらい軽い気持ちで臨むくらいがちょうどいいのかもしれない。そんな風に考えていた。
―――相手の顔を見るまでは
待ち合わせ場所で家族と話しているリーンを見た瞬間、まるで時が止まったようだった。前世の記憶が一気によみがえってくる。容姿も名前も住む世界も違うというのに、確かに目の前にいるのは彼女だった。かつての自分の記憶の濁流に飲み込まれているのを、リーンに見惚れていると勘違いした母親から挨拶するよう促される。彼女の反応を気にする余裕などないくらい俺は動揺していた。
会わないほうがいいと思っていたのは事実だ。だが、巡り合ってしまったら離れることなんてできない。今世は家同士の確執も存在しない。何の効力も持たないとはいえ、実質婚約者のようなものだ。この機会を逃したくない。そうだというのに、結婚を約束した幼馴染がいる?相手がいないからこの話を受けたのではなかったのか。
幼い頃から一緒というだけあって、2人の話す様子は仲が良さそうに見える。親に伝えられないような関係ではないだろう。疑問は残るが、正式な婚約者ではないというのは好都合だ。リーンが正式に誰かと結婚するまでは諦めないと決めた。
彼女が王都で働きはじめたことで会いやすくなった。両家の関係を思ってか会うことは拒否されない。恋人のロクシーについて尋ねるとあまり会えていないようだ。以前別の女性と親しそうに歩いているところを見かけてしまったが、憶測で彼女を傷つけたくはない。もし2人が別れたら……他人の不幸を望むのはよくない。だがもしも…2人が上手くいかなかった場合どうするか。
婚約は拒否されたが、自分と話している時の表情はむしろ…これはうぬぼれてもいいだろうか。誠実な彼女がそんなはずはないと言い聞かせながら、わずかな可能性にかけたくなる。すれ違って気持ちが離れてしまった時に、1番近くにいる俺を選んではくれないだろうか。リーンには幸せになってもらいたいのに、不幸を願う自分に嫌気がさした。
そんな反省をしたのも一瞬で、またロクシーと例の女性が一緒にいるところを見かけた。親密な雰囲気は明らかにクロだと言える。俺が選ばれないとしても、不誠実な男に彼女を任せられない。リーンに伝えるタイミングをうかがっていると、ロクシーと2人でいるところに出くわした。
リーンと別れるよう告げると、そもそも2人は付き合っていないという。騙していたことを謝罪される。しかも、彼女も前世を覚えているというではないか。
「あなたはもしかしたら無意識で過去に引きずられているのかもしれない」
「私のことは忘れて、今のあなたとして幸せになってほしいんです」
また君は自分のためではなく誰かのために犠牲になろうとしているのではないか。頼むから本心を聞かせてほしい。立ち去ろうとするリーンを呼び止めた。
あなたにおすすめの小説
「お前の座る席はない」と言われた令嬢ですが、夜会の席を決めたのは私です
さんご従五位
恋愛
両親を亡くし、伯母の家で肩身の狭い思いをして暮らす令嬢エリザベス。春の夜会に連れて行かれたものの、伯母からは「あなたに踊る資格はない」と言い渡され、壁際で大人しくしているよう命じられてしまう。
けれどその夜会の来客名簿も席順も贈答品の順番も、実はすべてエリザベスが裏で整えたものだった。伯母が自分の手柄にしようとして帳面を持ち出した結果、会場は大混乱。さすがに見かねたエリザベスが修正に乗り出すと……。
壁際に追いやられていた令嬢が、自分の力と居場所を取り戻すお話。
実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。
どうか私と別れてください
優未
恋愛
何故かすれ違う恋人・婚約者たちの短編集(随時追加予定)
・失恋相手と付き合いました
片思いしている蒼に好きな人がいることが分かり失恋する麻里。失恋して泣いているところを蒼に見られ、何故か付き合うことになって―――?
『愛が切なくて』- すれ違うほど哀しくて
設楽理沙
恋愛
砂央里と斎藤、こじれてしまった糸(すれ違い)がほどけていく様子を描いています。
◆都合上、[言う、云う]混合しています。うっかりミスではありません。
ご了承ください。
斉藤准一 税理士事務所勤務35才
斎藤紀子 娘 7才
毒妻: 斉藤淳子 専業主婦 33才 金遣いが荒い
高橋砂央里 会社員 27才
山本隆行 オートバックス社員 25才
西野秀行 薬剤師 22才
岡田とま子 主婦 54才
深田睦子 見合い相手 22才
―――――――――――――――――――――――
❧イラストはAI生成画像自作
2025.3.3 再☑済み😇
【完結/番外追加】恋ではなくなったとしても
ねるねわかば
恋愛
十一年前、彼女は納得して切り捨てられた。
没落した貴族家の令嬢アリーネは、王都の社交サロンで同伴者として生きる道を選んだ。
歳月は、すべてを思い出に変えたはずだった。
会うたびにかつての婚約者を目で追うのは、ただの癖。
今ある思いは、恋ではない。
名がつくことのない二人の関係は、依頼主と同伴者となり、またその形を変えていく。
2万字くらいのお話です。
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
私と彼の恋愛攻防戦
真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。
「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。
でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。
だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。
彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。
疑惑のタッセル
翠月 瑠々奈
恋愛
今、未婚の貴族の令嬢・令息の中で、王国の騎士たちにタッセルを渡すことが流行っていた。
目当ての相手に渡すタッセル。「房飾り」とも呼ばれ、糸や紐を束ねて作られた装飾品。様々な色やデザインで形作られている。
それは、騎士団炎の隊の隊長であるフリージアの剣にもついていた。
でもそれは──?