(仮)婚約中!!

佐野三葉

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仮婚約の儀 その6

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全員が、最初の場所に座った。

父と母が床の間の前。
反対側に、楓と匠さん。
楓たちから見て、左側が、新兄さんと奈央子さん。
右側が、聡兄さんと朱音さん。

「楓も匠も、本当に試験を受けるんだな。それ見たら実感がわいてきたぞ。」
新兄さんが、楓と匠さんのクリスタルに目をやり、しみじみと言った。

「今からの儀式に使うから、2人とも座卓(和室で使う低いテーブル)の上に出しておくといいよ。」
と聡兄さんが教えてくれた。


「それでは、今から仮婚約の儀の契約を行う。」
父の言葉で、再びブレスレットが輝き始めた。今度は、楓と匠さんのクリスタルも輝いている。2人のにはまだ色はついていないので、白色が、体の周りで螺旋を描く。

「相原匠と瀬戸楓のための契約書をここに。」

父が言うと、A3サイズの紙すきの模様の分かる立派な和紙が、2枚現れた。
何もないところから和紙が現れるなんて、今日はマジック三昧のような気がする。

「我、仮婚約の儀を管理する者 瀬戸周作なり。」
「我、瀬戸周作を補佐する 瀬戸文乃なり。」
父と母がそう言うと、和紙に署名欄が自動で作成された。その横に、お札のフォログラムのようなキラキラしたものが、現れた。
楓のは、紅葉のフォログラムで、匠さんのは、柿のフォログラムだ。

兄さんたちががそれに続く。
「「「「我ら、仮婚約の儀を見守り導くもの。」」」」

「瀬戸聡」
どっしりとした木の模様が和紙の中央に、透かし模様として吸い込まれていった。

「瀬戸新」
自由に飛ぶトンボの模様が左下に、同じように吸い込まれていった。

「瀬戸朱音」
小鳥の模様が右上のにー。

「瀬戸奈央子」
ひらひらと飛ぶ蝶の模様が左下にー。


「「「「我ら、相原匠と瀬戸楓の力になることを誓う。」」」」

模様が和紙の中で、トンボ、小鳥、蝶が木の周りをゆっくり動き回っている。

「楓、匠君、ここに自分の名前をサインして、右側のフォログラムのところに、親指で押印して。」

名前を書いて、押印すると、紙が、クリスタルの中に吸い込まれて行った。

「これにて仮婚約の儀の始まりの儀の完了を宣言する。」
父の言葉で、ブレスレットとクリスタルの輝きは、静かに消えていった。

しばしの沈黙

「ふうー。無事に終わったな。」
新兄さんが、ほっとした声で言った。新兄さんなりに、楓と匠さんのことを心配してくれてたのがよく分かる。
最近残業続きだと言ってたのも本当みたい。目の下のクマがすごい。


「たぶん、気づいたと思うけど、僕たちが、2人のアドバイザーになったから、いつでも相談に乗るよ。」
聡兄さんが、儀式の中での言葉の意味の説明をしてくれた。兄さんたちと義姉さんたちに、相談していいんだ。
経験者だし、助かるなあ。

「でも、仕事で忙しいのに、悪いですよ。」
匠さんが、兄さんたちの仕事の忙しさを把握しているので、申し訳なさそうに言った。

「心配ないよー。新君、2人がお付き合いしているのを知ってから、「匠と楓の相談役には、自分がなるんだあ!」ってはりきってたもん。遠慮されて何にもできない方が、新君落ち込んで仕事に響くよ。」
奈央子さんが、のんびりした感じで返事をした。


「奈央子、口軽すぎ。」

「いひゃいよ。新君。」
奈央子さんの顔が面白いことになってる・・・。かわいい。

「ま。でも。あれだ。俺の中で2人の相談役をやりたかったのは、本当だから遠慮せずに頼ってくれ。」
新兄さんが、照れつつもそう言ってくれた。

「僕たちも楽しみにしてたから、気にしなくていいよ。」
聡兄さんの横で朱音さんも、うんうんと頷いてくれている。


「そうなんですね・・・。じゃあ、お願いします。」
匠さんが、ぺこりと頭を下げた。

匠さんの遠慮が小さくなったところで、楓は気になっていたことを聞いてみた。
「お兄ちゃんたち、あの、質問なんだけど、課題が分からないのだけど、どうすればいいのかな?」

「父さん、僕たちから2人に説明をしてもいいですか?」

「ああ。」
父が短く返事をした。何だか疲れているようだ。父は儀式でたくさん役割があったから、心身共に消耗したのかもしれない。後で、亭主関白スイッチが切れた頃に、肩もみでもしよう。


「課題については、僕から説明するね。課題は、明日の朝になれば契約書に書き込まれているはず。1つか2つ書いてあるから、それを1週間は、自分で考えて取り組むこと。相談役には1週間後から、聞きたいことや感想を言うことができる。1週間、自力で頑張るのは、匠君が少し前に気づいたように、手取り足取り教えては、仮婚約の儀を通して得られる絆が不安定なものになる可能性が、出てくるからだよ。」

「どうやって契約書をここから取り出せばいいの?」

「取り出したいときは、こんな風にブレスレットに触れて、「契約書。ここに」と言えば出てくるよ。2人ともやってごらん。」

「「契約書。ここに」」
2人が、聡の真似をしてみると、目の前に契約書が浮かん出た。まだ、課題の欄は、空白だ。

「契約書は、手に持っても大丈夫ですか。」
匠さんいい質問!そうだよねえ、触っちゃだめかもしれないよね。

「大丈夫だよ。ただ大事な書類だから、用事がすんだら必ずブレスレットに戻すんだよ。戻すときは、ブレスレットに触れて「契約書。元いた場所へ。」と言えば戻るから。」

「「契約書。元いた場所へ」」
2人は、また聡兄さんの真似をした。そうすると、契約書はクリスタルの中に吸い込まれていった。

「うん。それで、OKだよ。」

2番目に、朱音さんが説明してくれた。

「わたしからは、契約書の課題達成度合いはどうすれば分かるか説明するわね。課題に取り組んでいくと、楓ちゃんと匠くんの持っているクリスタルに変化がおこるわ。例を見せた方が分かりやすいわね。今から、わたしのクリスタルの変化の記録を見てもらうわね。」

「我のクリスタルの記録をここに映せ。」

映像が浮かび上がる。朱音さんのも最初は、楓たちのような6個のクリスタルだった。それが、徐々に色と模様がついていった。完成するのが早いのもあればゆっくり色がついていくのもある。最後には、すべてのクリスタルに色と模様がついて、その後に、クリスタルの形に変化が起きて、小鳥の形がメインのブレスレットが出来上がった。チェーンの所が、鉛丹色(えんたんいろ)をしている。夕焼けの中を小鳥が羽ばたいている印象だな。綺麗ー。

あ!これ!今、朱音さんが持っているブレスレットと同じだ。楓は、思わず朱音のブレスレットをじっと見た。

「ふふ。気がついた?そうよ。2人の持っているそのクリスタルが、試験をこなすことを通して、私たちみたいなブレスレットに完成していくの。1人1人違うものが完成するわ。」

「課題は大変なんだけど、クリスタルが変化していくのを見ているとね、やる気もでるし・・・癒されるのよ。」
朱音さんからは、自分のブレスレットをなで、思い出を振り返りながら言った。それに続いて、奈央子さんや兄さんたちも当時の気持ちを熱く語った。

「分かりますー。もう辞めたいって匙を投げたくなっても、クリスタルを見ると、あきらめて辞めるのが勿体なくて、頑張れたんですよね。」


「父さんたちのと、聡兄たちのと、相談役のおじさんたちの6個のブレスレットを見ちゃったからなあ。自分だけ逃げだすような恰好悪いことできないって思ったしな。」

「そうですよね。先祖代々、仮婚約の儀の試験に合格してきた証拠を見せられると、【逃げてたまるかあ】って気持ちになりましたね。」

クリスタルが変化するのは、すっごく楽しみだけど、皆が逃げ出したくなる課題が出るのか。私に果たせるだろうか。ちょっと不安だ。匠さんの方を見上げると、匠さんも複雑な顔をしている。

「次は、俺な。クリスタルは、風呂とかを除いて常に身に着けること。その方が、クリスタルも変化が早い。携帯のストラップにしておくのが、持ち運ぶには無難だな。それでストラップにする方法は、クリスタルに」

「新君、それはわたしに言わせて。お願い。」

「ああ。奈央子。クリスタルを変化させるの好きだもんな。」

「ありがとうー!えーと、クリスタルに手を置いて、イメージするの!こんなストラップになって欲しいって。やって見せるね。」

奈央子さんは、ブレスレットに手を置くと、目を閉じた。ブレスレットが、徐々にかわいい猫の足跡の携帯ストラップになった。奈央子さんのは、5個のクリスタルからできているようだ。

「かわいいー!」
自分の理想通りのストラップがイメージするだけで作れるなんて嬉しい。

「でね。戻すときは、ストラップに触れて、「クリスタル。元の姿を現せ」というと元に戻るんだよ。」
奈央子さんの持っていた携帯ストラップが、ブレスレットに戻った。

「じゃあ。やって見て。」


「後でも大丈夫ですか?いろいろ調べてから形を決めたいので。」
それが、いい。折角だからお気に入りのストラップに変化させたい。

「じゃあ、1週間後までの宿題な。」
新兄さんは楽しそうに、相談役っぽいコメントを言った。

「はい。」「うん!」


「じゃあ、みんなお待ちかねの夕飯よ。」
いつの間にか台所に移動したのだろう。母が、障子を開けて、声をかけてくれた。

時計を見ると、18時23分だった。兄さんたちに、「まだ14時だよ。」って言ったのを思い出し、もう4時間以上経っていたことに気づいた。

「グウーーーー。」「クルクルグウーーーーー。」
楓と奈央子さんのお腹が鳴った。

「ふふふ。たくさん作っておいたからさあ皆、リビングに移動しましょう。」
母が、笑いを堪えながら、みんなに呼びかけた。

リビングには、テーブルいっぱいに料理が並んでいた。
赤飯、茶わん蒸し、にゅう麺、ローストビーフ、カニクリームコロッケ
鯛のカルパッチョ、エビチリ、ポテトサラダ、ナスの田楽。


掃除もして、料理もして、儀式もあって、かなり忙しかったに違いないのに・・・。感謝の気持ちで、胸がいっぱいになる。

「お母さん。ありがとう!」
「僕たちのために、こんなに・・・・。ありがとうございます。」

「朱音ちゃんが、エビチリを。奈央子ちゃんがポテトサラダを持ってきてくれたのよ。」

「朱音さーん、奈央子さーん、ありがとう。」
楓は、嬉しくてお礼をいいつつ、2人を抱きしめた。

「喜んでくれて嬉しいわ。」
「私もうお腹ぺこぺこですー。食べながら、お話しましょう。」


「じゃあ、みんなグラスを持ったな。それでは、2人の儀式開始を祝ってカンパーイ!!!」
新兄さんが、音頭を取った。父は新兄さんの好きにさせているから、新兄さんが、事前に聞いてOKをもらってたんだろう。

「「「「「「「カンパーイ!」」」」」」」


夕飯は、兄さんたちの仮婚約の儀の時の驚きやわくわくした話を聞いて楽しい時を過ごした。

匠さんを見送って、片づけを手伝って、お風呂に入ってから、楓は、2階の自分の部屋にいった。
「楽しかったなあ。みんなともっと仲良くなれた感じがする。1年後に、仮婚約の儀の試験合格祝いにまたこんな風にお祝いできたらいいなあ。
それにしてもどんな課題なんだろう。簡単だといいな。お互いの課題について聞いていいか聞くのわすれちゃってたなあ。1週間したらお兄ちゃんたちに・・・。聞きたいことを・・・・・。メ・・・モに・・・。スーーー。スーーーー。スーーーーー。」
楓は、ベットの中で考えている内に、瞼(まぶた)が重くなり眠りに落ちた。








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