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しおりを挟む「もう寝てしまっているかと思っていたよ」
清次が春信の隣に腰掛けると、石鹸の良い香りが漂う。
「ボクにも貰えるかな?」
春信はぎこちなく頷き、新しい湯飲みに水を注ぐ。清次に手渡すと、彼はゆっくりと口をつける。
「ボクはこれから君の望むことは、如何なる事でも叶えてあげたいと思っている。だから、一つだけ、君もボクと約束して貰いたい」
視線を茶碗に落とし、縁を親指でなぞりながら清次が告げる。
「約束?」
「簡単なことだよ。この敷地から外に出る時は、必ずボクに言うこと。いいね?」
口調は変わらず優しいが、有無を言わせぬ力があった。
春信は渋々ではあるが「分かった」と、了承をする。
清次から「ご馳走様」と空になった湯飲みを渡され、春信は卓上に置く。
「春信」
清次が名を呼び、春信の手を握る。熱を帯びたその手に、春信は肩を跳ね上げる。さっき潤したはずの喉が乾き、心臓が早鐘を打つ。
「ずっと君を想っていた。やっとその夢が叶う」
もう一方の手が、春信の頬に触れる。清次の方に向かされ、彼の熱を孕んだ瞳と目が合う。
「大丈夫だよ。君はただ、ボクに委ねていれば良い」
清次の顔が近づき、唇が重なり合う。固まったままの春信の唇を角度を変えては、ゆっくりと食む。
「口を開いて」
親指で顎を押され、春信が恐る恐る唇を開く。柔らかく濡れた舌が入り込み、口腔内を侵略する。
「んっ……」
決して激しくはないが、それでも情欲を煽るようなねっとりとした動きに春信は甘美な波に呑まれそうになる。
流れるようにして、春信の背が布団につく。舌を交えながら、清次の手が春信の身体を浴衣の上からなぞるように撫でる。一番過敏な所には触れず、太股を布越しに手が流れていく。
焦らすような動きに、春信は呼気を乱す。素肌に触れないもどかしさに、熱に浮かされた目を開く。
観察するような瞳が、春信を見下ろしている。さっきまでの柔和な雰囲気は消え去り、今は捕食者のような鋭い眼光を放っていた。
清次の指が布越しに、春信の胸の突起を見つける。撫でたり押されたりと嬲られたことで、身体が反応するように小さく跳ねる。だが、直接的ではないが故のもどかしさが悩ましかった。
その時、春信は察する。清次はわざと素肌に触れないのだ。彼は春信自ら求めてくることを待っているのだろう。
我慢比べの状態に、先に白旗を揚げたのは春信だった。自らの手で帯を解き、受け入れるように清次の首の後ろに手を回す。
それが正だったようだ。ようやく清次が唇を離し、口端に残る唾液を指で拭う。
「その気になってくれたみたいだね」
清次が低く妖艶な声で囁く。
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