甘味食して、甘淫に沈む

箕田 はる

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 人混みに紛れてこちらに近づく配達員姿の明臣の姿に、春信は凍り付いたように立ち竦む。
「お前、どうして連絡をよこさないんだ? 心配したんだぞ」
 怖い顔で迫る明臣に、春信を庇うようにして清次が前に出る。明臣が怪訝な顔で、男の顔と春信を見比べる。
「久しぶりだね。明臣くん」
 明臣は最初誰だか分からなかったようだが、「もしかして……鳴宮清次か」と目を見開く。
「どこかで聞いたことある名字だとは思ってたが、まさかお前だったとはな」
 眉間に深い皺を刻み、明臣が清次をめ付ける。
「そんな怖い顔をしないでくれよ。春信君が怖がるだろ」
「どういうことなんだよ。春信」
 困惑した様子で、明臣が清次の後ろにいる春信に問う。どう答えたら良いか分からず、春信はただ視線を俯ける。
「端的にいうと、ボクたちは夫婦になったんだよ」
 春信に代わって、清次が淡々と答える。
「はぁ? 何を訳分からない事を――」
「そうだよね? 春信君」
 春信は血の気の引いた顔で顎を引く。
「では、我々は失礼するよ」
 清次が春信の背に手を置き、促すようにして歩き出す。
 明臣が追ってくるかと思ったが、想像に反してそのような事はなかった。
 大橋を渡った所でやっと、「大丈夫かい?」と清次が口を開いた。
「君と明臣君は、恋人同士だったんだろう?」
 春信は思わず清次を仰ぎ見る。少し眉尻を下げ、清次は微笑んでいた。
「分かるさ。引き離してしまって、済まないことをしたね」
「……そんな」
「でもね、ボクだって譲れないものがあるんだ」
 春信の肩を抱き、清次が自分の方に寄せる。皆が驚いた顔で、こちらを振り返る。それすらもお構いなしに、清次は手を離そうとはしなかった。
「ボクはどんな手を使ってでも、君を手放すつもりはないからね」
 執念を感じさせる声と共に、春信の肩を抱く手が強まる。
 春信はどうすることも出来ず、ただされるがままになる。さっき見た明臣の戸惑う顔が、頭から離れずにいた。
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