36 / 55
36
しおりを挟む
数日経ってから、春信はチョコレートを使った餡子の開発に着手した。
先日のことが頭の中で渦巻いていたが、すぐにでも取り掛からなければ、秋までに間に合わないだろう。それに身体を動かしている方が、あまり考えなくて済みそうだった。
いつも通りの工程で餡を作っていく。どの段階でチョコレートを入れるべきか。それから砂糖の分量も大事になってくるはずだった。
粒餡よりこし餡の方が、まろやかな口溶けになりそうだと、色々と考えながら手探りで作業を進めていく。
こし餡の場合はさらし布を使って、皮を取る作業が必要となってくる。
取りあえず今回は粒餡で作ってみることにする。砂糖の量を変え、溶かしたチョコレートをそれぞれ合わせていく。
貴重な材料なだけに、何度も失敗を繰り返す訳にはいかなかった。
一度目はやはり、思ったような味が出ずに失敗に終わる。
日を改めて、再び別の方法を試すために、試行錯誤していく。作らない日であっても、書庫に籠もっては突破口を求めて彷徨った。
本格的な夏を迎え、残すところあと二ヶ月となった。
十月に舟に乗せる予定が決まり、時間はほとんど残されてはいない。にも関わらず、まだ思うような餡は完成していなかった。
粒餡とこし餡の両方を用意したいと考えていた春信には、時間がなかった。
開いている時間を見計らっては、台所へと足を踏み入れる。
棚から材料を取り出した所で、小豆が足りないことに気付く。
いつもなら倉田に頼むのだが、今日は珍しく体調が悪いと帰ってしまっていた。
清次も仕事でいない。一人だけの状況は初めてで、寂しいような解放感があるような、何とも不思議な心持ちだった。
小豆がなければ何も出来ないと、春信は困り果てる。諦めて明日まで待とうかとも思ったが、一日でも無駄にすれば間に合わなくなるかもしれないという焦りが大きかった。
春信は悩んだ末に、買いに出かける決意をする。清次に必ず言ってから出るようにと言われていたが、今回はやむを得ない事情がある。
それに小豆ぐらいだったら、近くの問屋で扱っている。すぐに帰って来れば問題は無いはずだ。
春信は必要なお金を持ち、玄関の外に出る。この家に来てから初めて一人で門を抜け、問屋に向かった。
小豆を買って家に戻り、玄関を開く。目の前に立っていた清次の姿に、春信は瞬時に硬直した。
「何処に行ってたんだい?」
口調は淡々としているが、明らかに冷めた瞳を前に春信はただ戦慄を覚える。小豆の入った袋に一瞥をくれるも、清次はそれには触れずに春信の腕を掴む。
「来なさい」
顔を歪めるほどに痛い力で引かれ、春信は玄関を上がる。力の入らない手から小豆の入った袋が落ちたが、構ってはいられなかった。
「一人だろうからと、心配して早く帰って来てみれば……まさかこんなことになるとはね」
こんな時間に帰って来ることは滅多にない。だからこそ、春信は油断してしまっていたのだ。軽率な行いをしたと、今更ながら後悔が募る。
先日のことが頭の中で渦巻いていたが、すぐにでも取り掛からなければ、秋までに間に合わないだろう。それに身体を動かしている方が、あまり考えなくて済みそうだった。
いつも通りの工程で餡を作っていく。どの段階でチョコレートを入れるべきか。それから砂糖の分量も大事になってくるはずだった。
粒餡よりこし餡の方が、まろやかな口溶けになりそうだと、色々と考えながら手探りで作業を進めていく。
こし餡の場合はさらし布を使って、皮を取る作業が必要となってくる。
取りあえず今回は粒餡で作ってみることにする。砂糖の量を変え、溶かしたチョコレートをそれぞれ合わせていく。
貴重な材料なだけに、何度も失敗を繰り返す訳にはいかなかった。
一度目はやはり、思ったような味が出ずに失敗に終わる。
日を改めて、再び別の方法を試すために、試行錯誤していく。作らない日であっても、書庫に籠もっては突破口を求めて彷徨った。
本格的な夏を迎え、残すところあと二ヶ月となった。
十月に舟に乗せる予定が決まり、時間はほとんど残されてはいない。にも関わらず、まだ思うような餡は完成していなかった。
粒餡とこし餡の両方を用意したいと考えていた春信には、時間がなかった。
開いている時間を見計らっては、台所へと足を踏み入れる。
棚から材料を取り出した所で、小豆が足りないことに気付く。
いつもなら倉田に頼むのだが、今日は珍しく体調が悪いと帰ってしまっていた。
清次も仕事でいない。一人だけの状況は初めてで、寂しいような解放感があるような、何とも不思議な心持ちだった。
小豆がなければ何も出来ないと、春信は困り果てる。諦めて明日まで待とうかとも思ったが、一日でも無駄にすれば間に合わなくなるかもしれないという焦りが大きかった。
春信は悩んだ末に、買いに出かける決意をする。清次に必ず言ってから出るようにと言われていたが、今回はやむを得ない事情がある。
それに小豆ぐらいだったら、近くの問屋で扱っている。すぐに帰って来れば問題は無いはずだ。
春信は必要なお金を持ち、玄関の外に出る。この家に来てから初めて一人で門を抜け、問屋に向かった。
小豆を買って家に戻り、玄関を開く。目の前に立っていた清次の姿に、春信は瞬時に硬直した。
「何処に行ってたんだい?」
口調は淡々としているが、明らかに冷めた瞳を前に春信はただ戦慄を覚える。小豆の入った袋に一瞥をくれるも、清次はそれには触れずに春信の腕を掴む。
「来なさい」
顔を歪めるほどに痛い力で引かれ、春信は玄関を上がる。力の入らない手から小豆の入った袋が落ちたが、構ってはいられなかった。
「一人だろうからと、心配して早く帰って来てみれば……まさかこんなことになるとはね」
こんな時間に帰って来ることは滅多にない。だからこそ、春信は油断してしまっていたのだ。軽率な行いをしたと、今更ながら後悔が募る。
12
あなたにおすすめの小説
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
稀代の英雄に求婚された少年が、嫌われたくなくて逃げ出すけどすぐ捕まる話
こぶじ
BL
聡明な魔女だった祖母を亡くした後も、孤独な少年ハバトはひとり森の中で慎ましく暮らしていた。ある日、魔女を探し訪ねてきた美貌の青年セブの治療を、祖母に代わってハバトが引き受ける。優しさにあふれたセブにハバトは次第に心惹かれていくが、ハバトは“自分が男”だということをいつまでもセブに言えないままでいた。このままでも、セブのそばにいられるならばそれでいいと思っていたからだ。しかし、功を立て英雄と呼ばれるようになったセブに求婚され、ハバトは喜びからついその求婚を受け入れてしまう。冷静になったハバトは絶望した。 “きっと、求婚した相手が醜い男だとわかれば、自分はセブに酷く嫌われてしまうだろう” そう考えた臆病で世間知らずなハバトは、愛おしくて堪らない英雄から逃げることを決めた。
【堅物な美貌の英雄セブ×不憫で世間知らずな少年ハバト】
※セブは普段堅物で実直攻めですが、本質は執着ヤンデレ攻めです。
※受け攻め共に、徹頭徹尾一途です。
※主要人物が死ぬことはありませんが、流血表現があります。
※本番行為までは至りませんが、受けがモブに襲われる表現があります。
陥落 ー おじさま達に病愛されて ー
ななな
BL
眉目秀麗、才ある青年が二人のおじさま達から変態的かつ病的に愛されるお話。全九話。
国一番の璃伴士(将棋士)であるリンユゥは、義父に温かい愛情を注がれ、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日、一人の紳士とリンユゥは対局することになり…。
「ねぇ、俺以外に触れられないように閉じ込めるしかないよね」最強不良美男子に平凡な僕が執着されてラブラブになる話
ちゃこ
BL
見た目も頭も平凡な男子高校生 佐藤夏樹。
運動神経は平凡以下。
考えていることが口に先に出ちゃったり、ぼうっとしてたりと天然な性格。
ひょんなことから、学校一、他校からも恐れられている不良でスパダリの美少年 御堂蓮と出会い、
なぜか気に入られ、なぜか執着され、あれよあれよのうちに両思い・・・
ヤンデレ攻めですが、受けは天然でヤンデレをするっと受け入れ、むしろラブラブモードで振り回します♡
超絶美形不良スパダリ✖️少し天然平凡男子
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる