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ライスカレーが前に置かれ、思い出にあった見た目と変わらない姿に、春信は自然と頬が緩んでいた。
緊張しながら一口目を味わう。野菜の甘みとルーの辛さが口いっぱいに広がる。
「凄く美味しい」
「そうだね。コクのある上品な味だ」
もう一口食べたところで、春信は違和感を覚える。
「なんだか……昔と少し違うような」
こんなに甘かっただろうかと疑問を覚える。だが当時はまだ小さかったこともあり、もしかしたら舌が幼かったのかもしれない。
そんな疑問に答えるように、清次が「チョコレートが入っているね」と言った。
「チョコレート?」
「うん。最近はチョコレートの流通も増えてきているからね。隠し味として、取り入れる洋食店も増えているのだろう」
春信は皿に目を落とす。よくよく見ると少し黒みがかっているのは、チョコレートのせいなのだろう。
不意に春信は思い至る。勢いよく顔を上げると、「チョコレートを入れてみるのはどうだろう?」と切り出した。
「チョコレートと餡子だったら、意外と合うかもしれない。それに洋と和が混じり合うという意味では、今の時代に相応しいと思う」
目を輝かせ春信は訴える。上手くいくか分からないが、一つの道筋が生まれたようで心が高鳴っていた。
「ならば帰りにチョコレートを買っていこう。百貨店にならあるはずだ」
清次の提案に春信は歓喜しそうになる心を抑えて、「良いの?」とお伺いを立てる。
「駄目なんて言うはずないのは、君がよく分かっているはずだよ」
「甘やかしすぎだから。いつか破産してしまう」
「君が国を買いたいなんて、言い出さない限りは平気だよ」
「それは頼もしい限りだね」
二人で顔を見合わせて笑い合う。
最初こそは、清次に対して抵抗があった春信だったが、今は彼と近い感情が芽生え始めている。そのことを気付かぬふりを今はしていた。
太陽軒を出ると、巨大な縦長に聳え立つ百貨店へと向かう。動く階段を前に春信は戸惑ったが、そこは清次が上手く手を貸したことで切り抜ける。
吹き抜けた店内には、いくつも物が置かれていた。呉服から食品まで雑多に入り乱れる中で、目的のチョコレートを探しながら散策する。
数種類の板状のチョコレートを購入すると、一通り建物内を見て回る。
屋上には小さな遊園地があり、子ども達が楽しげに走り回っていた。
その光景を前に、春信の中で一抹の不安が襲う。
「……跡継ぎとか、君の家柄なら必要なんじゃないのか?」
自分はどう足掻いたって、子孫を残すことが出来ない。父親は納得していると清次は言っているが、そうもいかなくなる日が来るのではないのだろうか。
「気にする必要はないよ。次男もいるし、三男もいる。それに父は、愛人に子どもを産ませているんだ。どうにでも出来るさ」
冷めた口調で清次は、柵の向こう側の景色を見つめる。
「それに今はこうして、君が隣に居てくれている。それだけでボクは幸せなんだよ」
柵に置かれていた春信の手を清次が握る。辛い過去を知っているが故に、春信の胸は締め付けられたような苦しさを覚える。
「僕は君にしてもらってばかりで、何一つ恩を返せていない」
ここのところずっと、後ろめたさばかりが春信に積もっていた。
「君がボクを好きになってくれることが、このうえない恩返しだよ」
それならば、もう――
春信は口を開きかけたが、口を閉ざす。
自分はまだ明臣の事を忘れてはいない。その時点で、彼が望んでいる事を本当の意味では叶えられそうになかった。
「そろそろ行こう」
清次が柵を離れる。春信も倣うようにして、その場を離れる。
二人で百貨店を出たところで、「春信」と声が掛かった。
緊張しながら一口目を味わう。野菜の甘みとルーの辛さが口いっぱいに広がる。
「凄く美味しい」
「そうだね。コクのある上品な味だ」
もう一口食べたところで、春信は違和感を覚える。
「なんだか……昔と少し違うような」
こんなに甘かっただろうかと疑問を覚える。だが当時はまだ小さかったこともあり、もしかしたら舌が幼かったのかもしれない。
そんな疑問に答えるように、清次が「チョコレートが入っているね」と言った。
「チョコレート?」
「うん。最近はチョコレートの流通も増えてきているからね。隠し味として、取り入れる洋食店も増えているのだろう」
春信は皿に目を落とす。よくよく見ると少し黒みがかっているのは、チョコレートのせいなのだろう。
不意に春信は思い至る。勢いよく顔を上げると、「チョコレートを入れてみるのはどうだろう?」と切り出した。
「チョコレートと餡子だったら、意外と合うかもしれない。それに洋と和が混じり合うという意味では、今の時代に相応しいと思う」
目を輝かせ春信は訴える。上手くいくか分からないが、一つの道筋が生まれたようで心が高鳴っていた。
「ならば帰りにチョコレートを買っていこう。百貨店にならあるはずだ」
清次の提案に春信は歓喜しそうになる心を抑えて、「良いの?」とお伺いを立てる。
「駄目なんて言うはずないのは、君がよく分かっているはずだよ」
「甘やかしすぎだから。いつか破産してしまう」
「君が国を買いたいなんて、言い出さない限りは平気だよ」
「それは頼もしい限りだね」
二人で顔を見合わせて笑い合う。
最初こそは、清次に対して抵抗があった春信だったが、今は彼と近い感情が芽生え始めている。そのことを気付かぬふりを今はしていた。
太陽軒を出ると、巨大な縦長に聳え立つ百貨店へと向かう。動く階段を前に春信は戸惑ったが、そこは清次が上手く手を貸したことで切り抜ける。
吹き抜けた店内には、いくつも物が置かれていた。呉服から食品まで雑多に入り乱れる中で、目的のチョコレートを探しながら散策する。
数種類の板状のチョコレートを購入すると、一通り建物内を見て回る。
屋上には小さな遊園地があり、子ども達が楽しげに走り回っていた。
その光景を前に、春信の中で一抹の不安が襲う。
「……跡継ぎとか、君の家柄なら必要なんじゃないのか?」
自分はどう足掻いたって、子孫を残すことが出来ない。父親は納得していると清次は言っているが、そうもいかなくなる日が来るのではないのだろうか。
「気にする必要はないよ。次男もいるし、三男もいる。それに父は、愛人に子どもを産ませているんだ。どうにでも出来るさ」
冷めた口調で清次は、柵の向こう側の景色を見つめる。
「それに今はこうして、君が隣に居てくれている。それだけでボクは幸せなんだよ」
柵に置かれていた春信の手を清次が握る。辛い過去を知っているが故に、春信の胸は締め付けられたような苦しさを覚える。
「僕は君にしてもらってばかりで、何一つ恩を返せていない」
ここのところずっと、後ろめたさばかりが春信に積もっていた。
「君がボクを好きになってくれることが、このうえない恩返しだよ」
それならば、もう――
春信は口を開きかけたが、口を閉ざす。
自分はまだ明臣の事を忘れてはいない。その時点で、彼が望んでいる事を本当の意味では叶えられそうになかった。
「そろそろ行こう」
清次が柵を離れる。春信も倣うようにして、その場を離れる。
二人で百貨店を出たところで、「春信」と声が掛かった。
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