コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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二人に拓ける可能性

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予想だにしない意外な提案。まあ待て!話は全部聞いてからだ。

「どういうこと?」
「現在のこのやり方では思うようにイヴァーノ様は儲からぬでしょう。せっかくの才能…これではいかにも勿体ない!なればそこも含めてお力になれればと考える次第でございます」
「…聞かせてくれる?」

やり手の商会主、マッティオ氏の説明は貴族的なまわりくどさの無い分かりやすいものだ。

貴族の服は全てが屋敷のお針子に縫わせる一点物。お針子が常駐でいない家は、貴族ご用達洋装店へ外注にだす形になる。いずれにしても布…人件費…一着一着全てがベラボーにお高い。
 だからこそ貴族にとって衣装をたくさん新調することは栄華の象徴にもなるわけだ。

そこで元手を持たない僕は、ファッション利益のおこぼれにあずかろうと、デザイン自体を商業ギルドに登録して売り出そうとしているのだが、彼曰くトップオブ貴族はともかく下位貴族がそれほどたくさんの衣装を新調するのは難しい、と。

確かに…現にファーストデザインはぼちぼち売れたと言っても期待ほどではなかった。

「下位貴族の多くが裏では驚くほどつましやかに暮らしております。月末の勘定に困るものも多く…いやはや、つけ払いを使わぬイヴァーノ様は賢明にございます」

まーね。いつもニコニコ現金払い、がモットーの僕だが、本来貴族とはキャッシュで買い物しない生き物だ。現金持ち歩かない主義とか現代社会の富裕層みたい。

「そんな彼らがいくら欲しくとも次から次へと新調は出来ますまい」
「僕もそう思ったからこの間フラヴィオに頼んで殿下と殿下のご友人に広めてもらったんだけど…」

「おお!あの時でございますな」
「その節は馬車の手配助かりました」
「いえいえ」

マッティオ氏の見解はこうだ。

「確かに彼らであれば潤沢に予算を使いましょう。ですがお考えいただきたい。そもそも貴族社会は階級が上がるほど数が少なくなるのですぞ」

「潜在顧客の問題ですね?だからすそ野を広げるためにもうすぐレディースに進出する予定でいます」
「そこなのです!イヴァーノ様、まさにそれこそが商機なのです!」

な、なにぃ!

「つ、続きを」

「貴方様にはイヴァーノ様の意匠を身に着ける…それが高位な方々の間、とくにご婦人方の間で威信となるまで価値を高めていただきたい。こういったものの購買力はご婦人の方が強いですからな」

「ブランドのステータスをあげろと…」
「今はこうしたお立場ですがイヴァーノ様はもともと公爵家とも縁談がもちあがる名門コレッティ家のご子息。性格はともかくその美貌と美的感覚には定評がございました。十分可能かと存じあげます」

「……」プク…「まあいいや。それで?」

「そのうえでやや安価な、ですが庶民には手の届かぬ高級既製服をイヴァーノ様自身の名を冠した服飾サロンでお売りになるのです!」

「…高級既製服?」
「我が商会であれば大量仕入れにより生地も糸も染料も、全ての値を抑える事が出来ましょう。針子を集めることも容易でございます」

…つまりえーと…はっ!これはあれだ!いわゆるオートクチュールとプレタポルテだ!

自作レイヤーである僕はファッションニュースにも精通している。
近代ハイブランドのデザイナーは完全受注生産の一点物であるオートクチュールと、店頭で買ってすぐ着れる既製服とを並立している。
ファッションウィークに開催されるミラノコレクションとかパリ・コレとかはこのプレタポルテのことだ。

オートクチュールデザイナーとして最大まで名前のステータスをあげておいて…そのうえでプチ富裕層ならギリ手の届く、〝イヴァーノの服” として十分自慢は出来るけど、でも一点物ほどはお高くない、かといってお安くないという、自尊心を保てる絶妙な価格帯の既製服を売り出す…

マッティオ氏…プレタポルテの概念なんか知らないだろうに…天才か?

「最上位の者たちは素材も縫製も目に見えて質の違うオリジナルの一点物に身を包むことで自尊心を満たしましょう。そしてその下の者たちは彼らに手は届かぬまでもそれに準ずる最新の意匠を手に入れ十分流行を享受し満足するでしょう」

「ああ。最上位種には妬みも僻みもわかないですもんね。でも僕…お父様の立場もありますしサロン店頭になんて出られませんよ」

「もちろんですとも。生地、針子、サロン、特許の申請と管理、全てはこの我が商会が承ります。おお、そうそう。一点物の縫製も代わって承りましょう。つまり…イヴァーノ様はこのお屋敷にて意匠を発案してくださるだけでいいのです」

マジか…

マッティオ氏の提案は僕に毎月固定の専属契約料と、僕の意匠で売れた服の利益から売り上げに応じてバック、というもの。

「これが王都で成功すれば、私はサロンを各領…いや、他国にも拡げるつもりでいます。そうなればイヴァーノ様に入る益も増えますなあ」
「…んー、じゃあ僕はマッティオさんの商売が上手くいくようじゃんじゃん協力しなければなりませんね」
「理解が早く助かります」

がっちり握手。

イヴ・サンロー〇ンならぬイヴ・ビアジョッティ…ここに爆誕!


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あれよあれよと決まっていくイヴとマッティオ殿の計画。私は口もはさめず感心しながらそれを眺めていた。

これが一代で父親から継いだ小さな商店を王都一の貿易商にまで発展させたやり手の商会主か…

なにはともあれ、話は終わりロデオがお茶と焼き菓子を用意する。
今日この場の焼き菓子とはもちろんエヴァが病院で差し入れられるものでなく、イヴが朝から準備し焼き上げたものだ。

「おや?これはパォン・デ・ローですかな?」
「パオンデロ…これ…カステラですけど?」
「ええ、ええ、ですのでカステーラ王国のパォン・デ・ローでございましょう」

カステーラ王国!この場面でなんという奇遇!

「そういえば本日持ち込んだあの品々の中には我が商会の取引先の一つであるカステーラ王国のお守り、ガロと呼ばれる幸運の雄鶏が入ってございますな」

今なんと!

「えー?見ていいですか?」
「どうぞどうぞ」

ホールに向かうイヴを見送りマッティオ殿に問いかける。

「もし、マッティオ殿。貴殿の商会はカステーラ王国と取引がおありになるのか」
「ええ。主要国ではございませんが」

「あの地はこのサルディーニャからはかなりの距離、一体どのようにして取引を…」
「なあに、かの国カステーラは海の国でしてな。船舶の発達が実に見覚ましい」
「あ、ああ、それは存じている」

「何を隠そう私の曾祖父はカステーラからの漂流者だったのですよ」

なんということか!カステーラの若き猟師であったマッティオ殿の曾祖父は、その昔漁に出たところ嵐にあい海に投げ出され、幸運にもサルディーニャの岸に流れ着いたのだという。

「結局曽祖父はサルディーニャに居つきましたが、カステーラには無事を知らせておりまして。おかげで私には今もカステーラに伝手があるのですよ」
「ふむ…」

カステーラとこのサルディーニャに国交は無い。そこで彼は貯めた儲けと、さらに莫大な借金をして、伝手を頼ってカステーラから古い小型の商船を一隻買い入れ、海路を使い販路を大きく拡げたのだとか。

「借金は五年ほどで返せましたが…いや、あの頃は大変でしたな」
「なんという慧眼…感服しますマッティオ殿」

サルディーニャからアスタリアまで山五つ超え二か月半、いや、編隊であれば三か月はかかるだろう。カステーラは更に遠い…。だが海路であれば話は別だ。マッティオ殿が言うにはカステーラまでほんの三週間ほどだとか。

「マッティオ殿、良ければ一つ頼みがあるのだが…」
「おや?なにか入り用ですかな?」


「いえ、手紙を一通届けて頂きたいのです」




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