コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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二人が過ごすある一日

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夫夫として契りを交わした私たちはより一層歩調を合わせていかねばならない。
であればイヴには私の考えを伝える必要がある。考えとはほかでもないルイージのことだ。

私はコレッティ候に、いずれアスタリアへ戻るつもり、とは言ったが、帰国後何をするかは話していない。
イヴは何をどこまで推測しているのか…

だがアスタリア属国が現実になるやもしれぬ今、ルイージの教育は急を要する。
属国となった地にも仮初の王は必要だろう。それはアスタリアに生まれアスタリアの民を愛するルイージでなければならない。

ルイージの存命を知れば母である王弟妃アレクサ様も陰ながらご助力下さるだろう。そして二人の兄がサルディーニャに倒れるとき…モンテシーノス女公爵としてかの地にお戻りになるに違いない。ルイージを支える摂政となるために。

となると先ず真っ先にすべきはアレクサ様へ私たちの存命を伝えること。

アレクサ様はあの争いの中、王城の南門から王女を連れて母国へと向かわれた。
私の母と懇意であったアレクサ様ならば母が城内では隠していた事象、サルディーニャへが居ることも恐らくご存じだろう。
そして私の兄たちであれば、己の玉座を脅かす者は葬ったうえで公に知らしめる、とお考えになるはずだ。
つまり私たちの死が亡骸と共に宣言されない限り、あの聡明なアレクサ様のことだ。サルディーニャで私たちが無事生存しているとお信じ下さっていることだろう。これは息子であるルイージも同意見だ。

だがアレクサ様の母国カステーラ王国はここから更に遠いアスタリアの南東。どうやって文を出せばいいのか…

だがその機会は私の思案を余所に、思いがけない所から訪れたのだ。





-----------------------




「フラヴィオ。明日ここにマッティオさんが来るから一緒にお相手よろしくね」
「マッティオ殿が何故ここに?エヴァの居る病院でなく?」

「それが…なんか僕に、えっと、イヴァーノに用事があるんだって」
「エヴァでなくイヴに…」

「そう。なんでも衣装の件で話がしたいんだって」

マッティオ氏の営む貿易商だが、僕の見立てではかなり儲かっている。ってことはああ見えて相当なやり手なのだろう。
ならこの訪問も多分なんらかのビジネスに絡んでいる気がしてならない。



そして迎えた当日…

「ようこそお越しくださった。マッティオ殿」
「これはこれは、ご当主自ら出迎えとは恐縮ですな」

「何を仰るか。我が家は見ての通り使用人も持たぬ小さな屋敷。気楽にかまえていただきたい」
「では遠慮なく。これ、それらの贈り物をそこに」

後ろに控える使用人がマッティオ氏に言われるがまま多くの贈り物をホールに運び入れていく。

「これは…?」
「いやなに、これらは私からの手土産代わり、布織物はエヴァちゃんに頼まれたイヴァーノ様への贈答品にございます。従兄共々お世話になっているイヴァーノ様にぜひお礼がしたいと。それで僭越ながら色々運び込ませていただいたのです」

「お、お待ちくださいマッティオ殿!エ、エヴァ嬢のお礼をなにゆえ貴殿が…」
「いやいや誤解召されるな。あれはエヴァちゃんが自身で購入されたイヴァーノ様への贈り物です。まあ多少色はつけましたがね」

次々と運び込まれる〝エヴァ” から〝イヴ” へのギフト、異国風な布地の量にフラヴィオが目を白黒している。




じゃあここで種明かしね。

週に一度は必ず会ってる強火担マッティオ氏と、イヴァーノとして会うのは初めてである。
あのメルカートで会った時はほとんどエヴァの姿だったし、イヴに戻った時にはすでに彼らはハンカチ探しの最中だった。
そもそも悪評の高い貴族イヴァーノに、庶民層で馴れ馴れしく声をかける人は居ない。

そう。あのメルカートまでは。

以前も言ったが、メルカートにパニーニを広めたおかげで庶民街において僕の評判はかなり緩和している。

因みにイヴァーノの悪評と言っても中身は、以前の悪評とは噂に洩れ聞く高慢な態度ゆえに。僕になってからの悪評は買い物中の剛腕な値切りゆえに、だ。どうでもいいプチ情報ね。


そんな彼マッティオ氏から

「エヴァちゃん。イヴァーノ様に面会の約束を取り付けることは出来ないだろうか?」

そう頼まれた時、僕はその機に便乗してマッティオ氏に僕(エヴァ)からイヴァーノ様(僕)への贈り物を、彼の商会で見繕ってついでに届けてもらいたい、と、大銀貨を五枚ほど渡してお願いすることにした。

「僕も従兄もイヴァーノ様にはお世話になってばかりだし…、前も話したでしょう?この可愛いナース服もイヴァーノ様が考えてくれたんだって」

「もちろん覚えてるよ。エヴァちゃんとの会話は何一つ忘れないよ。イヴァーノ様が考案されてエヴァちゃんが縫ったんだったね」
「そうそう」
「外来の看護師全員分だったね?」
「そうなの。すごく大変だったけどいいお小遣い稼ぎになってね」

「…エヴァちゃん、お給料全部田舎に送ってるんだって聞いたよ。私で力になれることはあるかな?」
「うーん、食材はフランコが買ってくれるし(強奪)服や日用雑貨はイヴァーノ様がくれるから…平気!」ニコリ

僕はあのメルカート以来、ビアジョッティ家(特にイヴァーノ)にはとてもお世話になっている設定をつけている。いわゆる万が一の保険ね。

「だからお礼したくて…。マッティオさんのお店は輸入雑貨が多いんでしょ?イヴァーノ様外国のファブリックとか喜びそう。予算はこれだけしかないけど…きっと高いよね?足りるかな?」
「そうか…。うんうん。エヴァちゃんわかったよ。イヴァーノ様へお礼の贈り物だね。私に任せておきなさい」




その結果が、現在ホールに並べられたとても大銀貨五枚で買えるとは思えないたくさんのファブリックである。キラリン!想定通り!
これはおかあさんと買い物に行ったとき予算よりちょっと高いものが欲しい時の常とう手段だ。ポイントは支払う意思も姿勢も見せるところね。

高価な外国産の布地にニヤニヤするのは後にして…先ずは用件から。



「はじめましてマッティオさん。僕がビアジョッティ伯爵夫人、イヴァーノです」

「これはこれは…本日はお時間頂きありがとうございます。私は貿易商を営むマッティオと申します。どうぞお見知りおきを…」

性別♂で猫目のイヴァーノを性別♀でパッチリたれ目のエヴァだと看破など出来ようはずもない。商売人マッティオ氏は何事もなく本題を切り出し始めた。

「実はですな、病院での看護師服、メルカートでのエヴァちゃんの衣装、全てイヴァーノ様の考案と聞きまして…」
「そうですけど、それが何か…?」
「以前より貴族服の意匠も手掛けておられますな」
「…ええまあ少し…」
「実に素晴らしい才能!イヴァーノ様は流行りを先取る眼が優れておられるようだ」

ええいまどろっこしい!僕はせっかくの休日を一日接待に費やすつもりはない!

「お世辞はいいです。用件は何でしょうか?」
「いやいやお世辞でなく。では単刀直入にいきましょうか。実は当商会でイヴァーノ様の意匠で高級既製服を製造販売したいと考えておるのですがいかが思われる」

「え…」

ええーーー!!!



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