コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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二人はまだまだ観光中

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その後祭りは夜中まで続けられたという。

そうして翌年から、新しい王様によってこれが〝フラメンコの秋祭り” として、この国の三大名物祭の一つになっていくのだが…当然そんなことその時の僕は知る由もなかった。


ってことで、ところ変わってここはホテルの部屋。

「イヴ様。これは大変貴重な経験でした」
「そう?ルイージ君が楽しかったなら良かった」

まあ…イベントや即売会慣れしてる僕と違って、貴族の生まれであるルイージ君にはバラの配布だけでも楽しかったのだろう。そのテンションのままに彼はこんなことを言いだした。

「イヴ様、よければ他の場所…つまり市井の様々な場所を見て回りたいのですが…」
「それは良いんだけどもしかしてその恰好で…?」

「ええ」

うーん、どうしたものか。さすがに室内でもずーっとサングラスではセレブを通り越して輩である。トップデザイナーイヴァーノとしてのイメージが悪い…

だが日本には『毒を食らわば皿まで』ということわざもある。ならばここはいっそのこと…

「じゃあこうしようか。ルイージ君ちょっとこっちへ」チョイチョイ

小部屋に入っておよそ三十分後…

「おお!なんと!」
「イヴ様が二人!」

「どうせならこれでいこう!」
「イヴ、一体どんな魔法を使ったのだい?」

そこに居るのは微妙に違うがかなりイヴァーノに寄せたルイージ君。

「イヴ様、眼がつり上がっています…」ペリ…
「ルイージ君、テープ剥がしちゃだめだよ」
「私がイヴ様に…不思議な感覚ですね」
「イヴだったら勇気百倍でしょ?」
「ふふ。何でも出来そうです」

違う誰かになりきって非日常を楽しむ!これこそがコスプレの醍醐味!ようこそルイルイ、コスプレ沼へ!

「驚いたな…」
「これは名付けて『ルイルイがそれほど僕を気に入ったなら(誤解)いっそもっとなりきってもらおう』作戦です」

どうせここは外国で、本物のイヴァーノを知るのはここに居るビアジョッティ家の面々しか居ないわけだし、全く別人…ではアレだが、数年後にもしこの国の人と再会することがあっても、これなら記憶の誤差で片付くだろう。

この作戦には大きなメリットがある。それは…

ルイルイがイヴァーノになるなら僕はエヴァになるわけで、ぶっちゃけ貴族のイヴでいるよりエヴァの方が行動が自由!

イヴでも好き勝手にやってるじゃないかって?違うよ?
例えばそうだね…イヴで居る時は、全力で走ったり通りの向こうから大声で呼びかけたりタメ語で話したり…さすがにしない。
実はこう見えてフラヴィオもロデじいも地味にうるさいんだよね…基本無視してるけど。

それにビューティホーじゃなくキュートなエヴァの方が初めての土地では受けがいい。ここ一番大事。

「ねね、これ言ってみて。「いいから座れ!」」
「いいから座れ」
「もっとドスを効かせて!」
「ドス…?」

「イヴ、ルイージ、少し待ちなさい」

「何」
「イヴ、ルイージを連れまわすのは…」
「これは家族旅行ですよ!ルイルイだけハブる気ですか?」
「そうではない。だがルイージは」
「観光にはみんなで行かなきゃ意味ないでしょ!」
「だがここはルイージにとって些か安全とは言い難い」
「過保護だって!」
「しかし…」

あーもう!

「フラヴィオ!これは今後に関わる視察です!文句ありますか!」

海外出店のマーケティングは必要でしょうが!

「イヴ様のいう通りです」
「ルイージ…」

えー?何々?フラヴィオのこの反応…はっ!もしかしてイヴちゃんズにハブられた気がして拗ねてるの?そういうこと?もー!…このかまちょめ!

「じゃあフラヴィオのお友だちも呼んだらいいじゃないですか!」
ハァ…「…そうしよう」

お楽しみはまだまだ続くよ!



-------------------



「お兄様、イヴ様が仰るようこれは視察です。なればこそ私は己の眼で確認したいのですよ」

イヴが湯浴みの隙を見て、懸念を隠せない私にルイージは尚も言い募る。

「王宮に入ればますます市井へ下りることは難しくなりましょう。下りたとして王となった私に彼らの本音が聞けるかどうか…これは願ってもない好機です」

ルイージの言う事は一理ある。
だが彼は替えの利かないこの国の王となる者。万に一つも危険があってはならないのだ。

「少なくともイヴ様の姿であれば私を王弟の子と知って近づく者はおりますまい。それだけでも安心ではございませんか?」

「そうだね…、ではマヌエルとミケーレ、彼らから決して離れないように。いいね」
「はい」

王族の警護を任務とするマヌエルたちは、『黄金の剣』が城を封鎖する現状において身を持て余している。
こうして彼らをルイージの護衛に付け、私たちは過去その足で歩くことの無かったアスタリア市街地を、己の目で見て歩くことになったのだ。



サルディーニャの王都に比べさして大きくはないアスタリアの王都だが、この国の主要な建物は王都東西を分断するように南から北にかけて中央に並び建つ。
王城、大教会、式典の執り行われる円形の闘技場もその一つだ。

それらを挟み、東に位置するのが貴族をはじめとした裕福なものが住まう地区、西に位置するのが庶民の住まう地区である。

庶民街の中はさらに細かく区画分けされ、住居ばかりが集まる一画、商店が並ぶ一画、食事処が並ぶ一画、と細かく分けられている。

「やはりどの区画も店は満足に開いていませんね…」
「開いてても商品がないね。残念…」

それでもイブは彼の扮装をしたルイージにまとまった金を持たせている。

「一店舗につき一商品買うようにして。で、代金と一緒にコレ渡してね」

「なんだいそれは?」
「販促用に持ってきてたイヴァーノ・モードのペーパーです」
「彼らには買えないだろうに…」

「いーんです。彼らは未来の顧客です。見て、これには可愛い服のイラストがついてるでしょ?これがモチベーションになるんですよ。憧れっていうの?いつかこんな服が着たい!彼女に着せたい!買えるようにがんばろう、って」

「なるほど…勉強になる」


その区画ごとを分けるのは馬車道だが、区画内の路地はこ勾配の急な坂道も多く馬車で入るにはいささか狭い。
そんな区画のひとつ、商業区画の中に私たちの宿泊するポサダはあり、あの祭りはその周辺路地を使って行われている。

こうして区画一つ一つを私たちは何日もかけ見て回った。

本来であれば一日で回りきってしまえるはずの庶民街だが、エヴァの行く先々には「エヴァさん、休んでお行きよ」「お茶はどうだいエヴァちゃん?」と常に人が集まり、一日に一区画が精いっぱいだったのだ。

エヴァに群がるのは意外にも若い娘たち。

「だからね、神様が肌見せNGなら赤ちゃんがマッパで産まれるのおかしいでしょ!赤ちゃんはみんな神様からの贈り物なのに」
「言われて見ればそうよね…」
「むしろ神様ならありのままの姿を歓迎すると思わない?」
「そう思えてきたわ!」
「服は自己表現!TPOは必要だけど誰かに制約されるものじゃない!」
「エヴァの言う通りね!」
「あたしたちは自由よ!」

エヴァはまるで伝道者のようだ。

そしてイヴに扮したルイージといえば…

「ここいらも昔は人の多い活気に溢れた商店街でな…」
「週末は大道芸人も来てそりゃあ賑やかだったんだよ」

「春の芽吹きはもうそこまで来ております。あなた方は辛い冬を耐え抜いた強靭な一握りの種。きっとそこに咲く花は誰もまだ見たことのないしなやかで美しい花となる事でしょう」
「イヴァーノ様…」

昔を知る老人たちの旧懐に耳を傾けている。

こうしてこの庶民街で新時代の伝道者エヴァとサルディーニャの賢夫人イヴァーノの名が人々に行き渡った頃、ようやく『黄金の剣』のために闘牛が開催されると知らせが入ったのだ。






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