コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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第二のお祭り騒ぎ

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「こっちだよエヴァちゃん!席用意しといたよ!ビアジョッティ伯爵家の皆様もこちらへどうぞ!」
「あー、エンマおばちゃんありがとー!」

今日は僕のアドバイスによる、リニューアルした闘牛の日である。
ここは商店街とは別の一画。多分住宅街?

牛飼いたちはこの路地を使って庶民街の向こうにある闘技場へと牛を運ぶそうだ。
そこで住人たちはみんな牛を興奮させないよう、窓から、もしくは玄関先でその牛さんパレードを観覧、というのが今の状況である。

僕たち一家は、先日のお祭りに来ていたこの区画の住人であるエンマおばちゃんが、僕たちのためにとお家の窓際に席をつくってくれたのでありがたくおじゃましているところだ。

「三頭の牛さんがこの道を通るんだって」
「おや?ではエヴァはあちらで観ないのかい?」
「うーん、パスイチで」
「槍は使わない。角も保護したということだよ」
「それでも観なくていいかな…ここで牛さんだけ見れたらいいや」

僕は格闘技も心臓がキュっとなるので全般苦手だ。唯一見れるのは台本ありきのプロレスぐらいである。

「お兄様は以前の闘牛を観たことございますか?」
「まあ…ね。だがイヴが言うよう瀕死の牛を見るのはあまり気分の良いものではなかったよ」

ほらやっぱりね。


あの日僕は強固に主張した。勇敢さを示すだけなら何も無暗に牛を傷つける必要はないじゃないか!と。

正直…古代…まで遡ればずいぶんえげつない、人同士の564あいが娯楽になってたこともある。文化とか価値観とかそういう背景の違いはしょうがないのだろう…が!仮にもここが音楽の国であるならばだ!

音楽(とアニメ)(とマンガ)はラブアンドピース!国境の壁を越えて世界を一つにする懸け橋!なのに音楽を愛するこの国が前時代の価値観でいいわけない!

ときどき彼らが「音楽~」のくだりで「ん?」という顔をしていた気はするのだが、そんな些細な問題は置いといて、これからこの国の闘牛はスポーツとして文化を継いでいくべき!それが僕の提案だ。

だいたいにおいてスポーツ、と頭に付くとルールが明文化され暴力性はマイルドになる。

時間はひと試合二十分一本勝負、人は牛を傷つけないよう赤い布で煽りはするが武器は持たない。対して牛の角にはカバーをつける。これによってダイレクトアタックによる打撲、場合によっては骨折(イテテ…)ぐらいはあるだろうが、少なくとも即致命傷…にはならないだろう。
でもいきりたつ牛に立ち向かう勇敢さなら、これで十分ギャラリーには伝わるとはずだ!

ここまでをほぼ息継ぎなしで畳みかけるように語り倒したところ(オタクの十八番)、なんとこの布教活動は功を奏したらしい。彼ら、特にフラヴィオは深く頷いていた。

なんでも闘牛とは本来貴族の娯楽で(今は一般開放されてるらしい)その流れによりもろもろ決めるのは貴族院なんだとか。

その議員貴族が何かの騒動でかなり減ったとかで、そのおかげというかなんと言うか、沸点やや低めの家門ばかり残ったからその改定も言いようによっては通るだろう、というのがミケーレさんの見立てだった。



そんなこんなで闘牛の開催が急きょ決まったのは、何でも観覧希望の来賓がもうじき帰っちゃうからっていうのと、マヌエルさん、ミケーレさんが「今こそ庶民に娯楽を!」と、かなり頑張って説得してきたんだとか。

「エヴァ嬢が開いたあの祭りを見て気付かされたのですよ。今この国に必要なのはこれなのだと」
「民草の鬱憤をどこかで吐き出す必要がある。それが新しい明日への第一歩なのだとね」

ガス抜きってやつね。ストレス解消とも言う。

「あっ、来ました!牛さんだぁ!」
「エルモー!危ないから玄関でないようにね」
「はーい!」

細く入り組んだ路地に姿を現した三頭の牛。その角にはまあるいキャップが被されている。ホッと一安心…

と、その時だ!

「あっ!イヴ様のスカーフが!」

お祭りの思い出…とあれ以来赤いスカーフを気に入って首に巻いていたエルモが、よりにもよってその赤いスカーフを風に飛ばしたのだ!

「出ちゃダメエルモ!」
「エルモ!」

飛び出すエルモとそれを追うリコ。同時に赤いスカーフを目にした三頭の牛は、手綱を振り切り二人に向かって猛然と駆けだした!

「んなっ!リコー!エルモー!」ガバッ!ビリィ!
「エヴァ!」

フラヴィオの制止より早く窓から飛び出した僕は、スカートの裾が思いっきりもってかれたのも気付かずエルモを抱えるリコを向こう側へと突き飛ばした!
けど僕は忘れていた!今日のトップスが紅白の水玉だったってことを!ああーーー!!!

「ギャー!追いかけてくるー!」

「おいみんな!エヴァちゃんを助けに行くぞ!」
「おうっ!」
「エヴァちゃんは俺が守る!」

「誰か助けてー!」

「牛野郎!こっちだ!こっちにこい!」
「みんな!赤いスカーフを首に巻け!注意を惹きつけるんだ!」

「もう限界ー!」

「よしいいぞ!」
「このまま闘技場まで誘導しろ!」
「うぉぉぉぉおおお!!!」

「エヴァ嬢こっちだ!」グイッ!
「ひぇぇ!」ドタッ!

ドドドドドド…

目の横を通り過ぎるたぎった男たちの群れと三頭の牛…
なんかこんな感じのテレビで観たわ…あ、あれは神社で福男を選ぶやつか…

「大丈夫かエヴァ嬢!」
「な、なんとか…そうだ!リコとエルモ!」

「心配いらない、彼らは擦り傷と打ち身程度だ」
「フラヴィオ…」
「その前にこれをかけなさい」
「あ」

太もも露なミニスカ姿のエヴァ。男たちの興奮がこれのおかげとは思いたくないが…ううん!あれは勇ましい善意の救助に違いない!そう信じてる!

「無茶をする…、心配かけないでおくれ」

「ごめ…で、でも咄嗟のことで」
「分かってる。私は自分を責めているのだ。何故助けに出たのが私でなかったのかと…」
「でもあの窓は小柄な僕ぐらいしか飛び出せなかったんだからしょうがないよ」

転生のきっかけだってアレだし、もしかしたら僕は頭より先に身体が動くタイプなのかもしれない。おかしいな。人一倍考え深いはずなのに。階層レイヤーだけに。

「あ、イテテテテ」
「どうしたエヴァ!」
「なんかくじいたみたい…」

「す、すみません!私が力任せに引っ張ったせいで」
「いーの。助けてくれたんだし。それよりフラヴィオ様、抱っこ」

エヴァのままフラヴィオに抱っこなんて、すわ不倫か!ってとこだが足をくじいてたら話は別だ。今の僕には人の夫に堂々と抱っこされてもいい免罪符がある。これが役得か…。自分の夫だけど。


「エヴァちゃん大丈夫かい…?」
「エンマ夫人、見ての通り彼女は怪我をしたようなのでね。私たちはこれでお暇しよう」
「おばちゃん、みんなにお礼言っといてね。ありがとう、カッコよかった。みんなは僕のヒーローだって」

「ああ!必ず伝えとくよ!」

その伝言を聞いた男たちは誇らしく腕をあげ雄たけびをあげたという。

そうして翌年から、新しい王様によってこれが〝牛追われ祭り” としてその年一番の英雄を決める、この国の三大名物祭の一つになっていくのだが…当然そんなことその時の僕は知る由もなかった。






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