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闘牛に秘めた可能性
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「エヴァさん、そんなところに居ないで向こうで話しましょうよ!」
「そうそう!エヴァちゃん、サルディーニャの話聞かせておくれよ!」
「ええ…でも…」
「行っておいで。私たちはここで話しているよ」
「じゃあちょっと行ってきます」
今や路地裏の人気者となったエヴァ。彼女は住人たちに囲まれ華やかなる大国の話を次から次へとせがまれているようだ。
「お兄様、私たちもエヴァさんに負けずこの国を盛り上げねばなりませんね」
そう言いながら椅子を引いたのはロデオとリコを従えたルイージ。
「黒眼鏡…なんと不審な…」
「馬鹿かミケーレ!フラヴィオ様、このお方はもしや…」
「しっ!ここでその名を口にしてはならないよ」
私とロデオは今夜にでもモンテシノーシス公爵邸を確認に出向きたいと考えている。そして屋敷がルイージを出迎える準備を整え終えれば、…その時こそが彼の素性を明かす時だ。
「何事も無く薔薇は配り終えたのかい」
「ええもちろん。ビアジョッティ伯爵夫妻はサルディーニャの貴族ですからね。皆敬意を払ってくださいます」
今もこうして人々を避け、少し離れて一つテーブルを囲む私たちの周りに住民の姿はない。彼らはあくまで〝庶民のエヴァ” を通して私たちと交流を図っているのだ。
「それにしてもすごいものですね、あのエヴァ嬢、いえ、イヴァーノ様は」
「そうだろう?彼のあの底知れぬ力に何も持たぬ私たちがどれほど助けられてきたことか」
「ふふ、初めて出会ったあの日…私は叱責されて肩を落とすお兄様を始めてみました」
「叱責…フラヴィオ殿下を…」
「私が悪かったのだよ。どうか誤解しないでほしい。優しいのだよ彼は。誰よりもね」
「愛し合っておられるのですね…」
初めて目にする私の同性婚による妻が女性姿のエヴァだったこと、それはマヌエル、ミケーレの違和感を少なからず遠ざけている。
彼らはごく自然に、男のイヴが私の妻であること、その事実を受け入れたようだ。
「ところで皆さま、何をお話しだったのです?」
「え?あ、ああ。イヴが騎馬闘牛について意見をくれてね」
「騎馬闘牛…」
「その中身はともかく、ルイージ!彼は大きな糸口をくれた!」
「糸口ですか?」
「イヴはこう言ったのだ。「海外からお客さん呼びたくないですか」と」
「お客さん…」
このアスタリアは自国に資源を持たぬ国だ。だからこそ他国はこの小さな国を見逃し、それは現状を維持するに有効であったが代わりに発展も無い。
そうしてアスタリアは内乱が起こるたびにじわりじわりと国力を失い、…ついには破滅を迎えたのだ。
「ルイージ、私たちは話し合ったね。サルディーニャ、カステーラに依存した国づくりをしてはならないと」
「ええ。サルディーニャは宗主国ではありますが面倒だと思えばいつでもアスタリアを切り捨てるでしょう」
サルディーニャとはそういう国だ。彼らは明朗で闊達だが最優先すべきは自身だと考える。それがこの一年で感じたことだ。
「だが今や王家が保有する財も資源も多くはない。使いどころを間違えてはならない。であればどうするか…そこでイヴの言葉だ」
「…! そういうことですか!外貨を集めるのですね!」
「その通り」
「ですがどうやって…」
「イヴは騎馬闘牛を他国の人々にも受け入れられる洗練された競技へ手直ししろと言ったのだよ」
「観光資材にするのですね!」
「もちろんそれだけで国を立て直すに十全な外貨は得られぬだろう。だが資源が無いなら作ればいい。今私たちが持つ物で元手をかけず他国から人を呼べるもの…それを考えるのだよルイージ!」
私とルイージは今も覚えている。
あの何も無い埃にまみれた屋敷で、それでもイヴは裏庭から食材となるハーブを探しだしあれだけ美味なる夕餉を揃えたではないか。
「あるものを使う。必要なのは手間と工夫だ。それがイヴの元で私たちが学んだことだろう?」
「その通りですお兄様」
イメージを形にするため無ければ作る。それがイヴの行動原理だ。
「あと十日ほどすればカタリーナ様も到着なさいます。きっと彼女も喜んで知恵をお貸しくださるでしょう」
「であれば私たちはイヴァーノ様の提唱される新しい闘牛を形にすべく貴族たちに働きかけましょう」
「そしてまずは彼ら『黄金の剣』に観覧していただけるよう準備をすすめましょう」
「頼んだよ」
カタリーナ様、アレクサ様の帰国を待って、彼ら『黄金の剣』はこの長きにわたる遠征を終え、ようやく自国へと帰還なされる。
その彼らがサルディーニャへ帰国後、アスタリアで見た勇ましい娯楽〝闘牛” 、それを大きく触れ回るように。
「そうそう!エヴァちゃん、サルディーニャの話聞かせておくれよ!」
「ええ…でも…」
「行っておいで。私たちはここで話しているよ」
「じゃあちょっと行ってきます」
今や路地裏の人気者となったエヴァ。彼女は住人たちに囲まれ華やかなる大国の話を次から次へとせがまれているようだ。
「お兄様、私たちもエヴァさんに負けずこの国を盛り上げねばなりませんね」
そう言いながら椅子を引いたのはロデオとリコを従えたルイージ。
「黒眼鏡…なんと不審な…」
「馬鹿かミケーレ!フラヴィオ様、このお方はもしや…」
「しっ!ここでその名を口にしてはならないよ」
私とロデオは今夜にでもモンテシノーシス公爵邸を確認に出向きたいと考えている。そして屋敷がルイージを出迎える準備を整え終えれば、…その時こそが彼の素性を明かす時だ。
「何事も無く薔薇は配り終えたのかい」
「ええもちろん。ビアジョッティ伯爵夫妻はサルディーニャの貴族ですからね。皆敬意を払ってくださいます」
今もこうして人々を避け、少し離れて一つテーブルを囲む私たちの周りに住民の姿はない。彼らはあくまで〝庶民のエヴァ” を通して私たちと交流を図っているのだ。
「それにしてもすごいものですね、あのエヴァ嬢、いえ、イヴァーノ様は」
「そうだろう?彼のあの底知れぬ力に何も持たぬ私たちがどれほど助けられてきたことか」
「ふふ、初めて出会ったあの日…私は叱責されて肩を落とすお兄様を始めてみました」
「叱責…フラヴィオ殿下を…」
「私が悪かったのだよ。どうか誤解しないでほしい。優しいのだよ彼は。誰よりもね」
「愛し合っておられるのですね…」
初めて目にする私の同性婚による妻が女性姿のエヴァだったこと、それはマヌエル、ミケーレの違和感を少なからず遠ざけている。
彼らはごく自然に、男のイヴが私の妻であること、その事実を受け入れたようだ。
「ところで皆さま、何をお話しだったのです?」
「え?あ、ああ。イヴが騎馬闘牛について意見をくれてね」
「騎馬闘牛…」
「その中身はともかく、ルイージ!彼は大きな糸口をくれた!」
「糸口ですか?」
「イヴはこう言ったのだ。「海外からお客さん呼びたくないですか」と」
「お客さん…」
このアスタリアは自国に資源を持たぬ国だ。だからこそ他国はこの小さな国を見逃し、それは現状を維持するに有効であったが代わりに発展も無い。
そうしてアスタリアは内乱が起こるたびにじわりじわりと国力を失い、…ついには破滅を迎えたのだ。
「ルイージ、私たちは話し合ったね。サルディーニャ、カステーラに依存した国づくりをしてはならないと」
「ええ。サルディーニャは宗主国ではありますが面倒だと思えばいつでもアスタリアを切り捨てるでしょう」
サルディーニャとはそういう国だ。彼らは明朗で闊達だが最優先すべきは自身だと考える。それがこの一年で感じたことだ。
「だが今や王家が保有する財も資源も多くはない。使いどころを間違えてはならない。であればどうするか…そこでイヴの言葉だ」
「…! そういうことですか!外貨を集めるのですね!」
「その通り」
「ですがどうやって…」
「イヴは騎馬闘牛を他国の人々にも受け入れられる洗練された競技へ手直ししろと言ったのだよ」
「観光資材にするのですね!」
「もちろんそれだけで国を立て直すに十全な外貨は得られぬだろう。だが資源が無いなら作ればいい。今私たちが持つ物で元手をかけず他国から人を呼べるもの…それを考えるのだよルイージ!」
私とルイージは今も覚えている。
あの何も無い埃にまみれた屋敷で、それでもイヴは裏庭から食材となるハーブを探しだしあれだけ美味なる夕餉を揃えたではないか。
「あるものを使う。必要なのは手間と工夫だ。それがイヴの元で私たちが学んだことだろう?」
「その通りですお兄様」
イメージを形にするため無ければ作る。それがイヴの行動原理だ。
「あと十日ほどすればカタリーナ様も到着なさいます。きっと彼女も喜んで知恵をお貸しくださるでしょう」
「であれば私たちはイヴァーノ様の提唱される新しい闘牛を形にすべく貴族たちに働きかけましょう」
「そしてまずは彼ら『黄金の剣』に観覧していただけるよう準備をすすめましょう」
「頼んだよ」
カタリーナ様、アレクサ様の帰国を待って、彼ら『黄金の剣』はこの長きにわたる遠征を終え、ようやく自国へと帰還なされる。
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