コスプレ令息 王子を養う

kozzy

文字の大きさ
200 / 225

アスタリア再び!

しおりを挟む
「さあみんな!ここがアスタリアだよ!」

「わぁ!」
「空気が乾燥してる…」

「チームの中にアスタリアっ子はロシオだけだね?」
「はい」
「じゃ、ロシオとディエゴ、二人は荷物置いたらみんなを案内してあげてね」
「はい」
「え、でもエヴァさんは…」

「僕は公爵家にいるイヴァーノ様に挨拶してくるから」
「ああ…。わかりました」

ついにやって来たのは一年ぶりのアスタリア。
わーん、やっとルイルイに会える!

ファンクラブ会員はそれぞれ、マッティオ氏の手配した貴族街の宿泊先や、知り合いの知り合いの知り合い…みたいな知人宅に宿泊している。いつもの貴族互助会ね。

この遠征に関しイヴァーノは夫と先に来てることになっている。
なので僕はエヴァとしてホテルでチェックインを済ませてなんやかんやして…、その後フラヴィオの待つ公爵邸へ到着の報告に行って再度戻ってくる予定だ。
公演が終わるまで、それがまではエヴァのまんまで…



「エヴァちゃん!」
「よく来てくれたね!待ってたよ!」

「支配人…シェフ…会いたかった!」

「顔見知りの行商も何人か宿泊中でね」
「今夜は歓迎の宴だ!みんな集めとくからパーっとやろう!」

「わぁ嬉しい!」


ルイルイが手配してくれたのは以前と同じ庶民地区のホテル。
けど、あの時半分も可動してなかった客室は、現在全室開放のうえ満室である。

それに区画内の狭い路地には人が溢れ、トマト殺人現場になってたあの広場にもところ狭しと露店が並んでた。

「エ、エヴァさん…」
「なに?ロシオくん」

「こ、ここは僕の知ってる庶民地区じゃないです…なんか…賑やかです」
「そう?でもあの頃からポテンシャルは感じてたけどな」

まあ…物はレベチで増えたけど。

鮮度の必要なものはカステーラから。それ以外のものはサルディーニャからの支援物資なんだとか。
あ、あと商機を感じた他国の商会がいっぱい来たおかげね。

「ディエゴは出身外郭の向こうだったよね?王都は?」
「昔はよくお使いに来てたので多少は」

ディエゴは内乱が激化する少し前、すでに生活苦だった両親から「まだヨチヨチ歩きの弟を生かすためにお前は家を出ろ」と私設の孤児院に連れてこられたのだとか。

つまり…痩せた畑の働き手として残すより出ていく食い扶持のほうが負担だったってこと…

キツいな…

当時十一歳のディエゴが居たのは王都近くの孤児院。そこは成年前の子供に限り、働き口が見つかるまでの一時預かりみたいなことをしてたんだとか。
でもタイミング悪くその頃から内乱が激しくなって、結局働き口もないまま孤児院にくすぶってたみたい。

「ロシオ、街に出たら西からきた物売りの人に聞いてみよう」
「うん。ディエゴありがとう」

…いいもんだな、友情って。

「何か手掛かりあると良いな」
「うん…。でも…」
「でも何だよ」
「両親が見つかっても僕…」
「うん?」

「サルディーニャに居たいな、って思ってて」
「そりゃサルディーニャは町もキレイだし人も優しいし。暮らしやすいもんな」
「ううん。そーじゃなくて…、ディアゴが居るから」
「…あ、うん…」

……友情?


「エヴァさん?」

はっ!「あ、じ、じゃあみんなー?今から少し自由時間ね。外行くなり休むなり…リーダー!」

「はい!」
「パメラは十八…」
「先日十九になりました」
「最年長だね。みんなを任せたよ」
「はい」
「何かあったら僕かイヴァーノ様の名前を出して。みんな知り合いだから」
「わかりました」

「宴会は十七時から。それまでに戻ること。解散!」




入国の門から通達を受けたのだろう。ホテルの裏口には公爵邸の馬車がとっくにお待ちかねだ。

「おっ!エヴァちゃん、イヴァーノ様のとこに行くのかい?」
「良ければ宴に顔出してって伝えておくれよ」
「馬鹿かお前!イヴァーノ様は第三王子妃だぞ!無茶言うな!」

「あっ、でも帰りまでに一度は顔出すって言ってましたよ?」
「さすがはイヴァーノ様だ!」


エヴァはBKDの公演を見守って、終わり次第アスタリアにほど近い故郷に帰る、という筋書きになっている。
その後登場するのは、イヴァーノがアスタリアで見つけてきたやり手の女マネージャー、エビータ嬢だ。

この名前…実は命名フラヴィオである。

フラヴィオは〝スーパーアイドルエヴァ”が姿を消し、代わって”敏腕マネージャーエビータ”が登場することをとても喜んでいる。

「自分の妻が大衆に愛されている事実は嬉しくもあるが…それ以上に妬けてしまうのでね」

これがフラヴィオの言い分。テレテレ…
けどエヴァちゃんと違い、このエビータ嬢ではマニッシュなパンツスーツをはじめとした、かなり攻めのファッションを展開するつもりだ。
これは〝お姉さま”の男装というワンクッションあっての…思い切った挑戦ね。

女キャラのパンツスタイル…、そこをクリアーしないとコスプレの可能性は広がらない。女性の男性服…。アンチも多いだろうがこれは避けて通れない課題!エビータ頑張るもん!


さて、このコスサミだが、僕は概要と綿密な計画書だけをカタリーナ様に託し、全てをアスタリアへ丸投げしている。

って、仕方ないじゃん!そうそう簡単に出張なんて出来ないし、ましてやメールも電話もファックスもないんだから!
けど、僕の見聞きし体験した前世のイベント知識、その全てを計画書には注いでおいたからきっと大丈夫!

とは言え、本番の一週間も前に到着したのは色々打ち合わせがあるから。最後の詰めね。



「イヴァーノ!会いたかったわ」
「ペネロペ様?」

なんと!予想もしなかった公爵邸でのウェルカムコンパニオン!
宮殿への訪問を僕が嫌がると思って(良くお分かりで)フラヴィオと一緒に来てくれたんだとか。


「イヴ、彼らは何事もなくこの国に?」
「皆さんそれぞれ知人のお屋敷に向かいました。あっ、そうそう。アンドレア教授は新助教授ヴィットーレに新学期の準備全部任せて休暇取ってきたって」

「ははは、彼も大変だ」

一年で一番忙しい新学期早々に上司が二か月の休暇とは…、直属の部下となるヴィットーレもさぞ遣り甲斐があることだろう。

「それよりイベントの準備は?」
「万端だそうだ。何も問題ない」

「エントリーは?」
「大勢集まっているよ。それより優勝賞品は決まったかい?」

「えっと、トロフィーと来年のシード枠、今回に限ってはエヴァちゃん印の救急キット。それから…」

ここはやっぱり人の気持ちを爆上げするもっとも有効的なアレだ。

「優勝賞金百五十万リラです」
「これは…思い切ったものだ。ずいぶん振舞うのだね」
「今回成功したら来年はもっと上げたいと思ってます」

この金額は農民で月五から八金貨、王都の労働者でも平均して月十五金貨と考えれば、チームの人数で平等に割ったとしても、結構な金額である。

「他にも色々細かい賞を設定したから賞金合計は三百万リラです。これはサルディーニャの貴族家からクラファンで集めました」

クラファンの返礼品は次回コレクションの招待状。みんな快く寄付してくれたよ?

「それで君は何を着るのだい?」
「何…って?」
「君も仮装するのだろう?この〝コスサミ”に」
「フラヴィオ…?」

「私も仮装しよう。君のパートナーだからね」
「え」


愛する夫との…〝併せ”…だと? 







しおりを挟む
感想 609

あなたにおすすめの小説

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
「エステファニア・サラ・メレンデス――お前との婚約を破棄する」 婚約者であるクラウディオ王太子に、王妃の生誕祝いの夜会で言い渡された私。愛しているわけでもない男に婚約破棄され、断罪されるが……残念ですけど、私と結婚しない王太子殿下に価値はありませんのよ? 何を勘違いしたのか、淫らな恰好の女を伴った元婚約者の暴挙は彼自身へ跳ね返った。 ざまぁ要素あり。溺愛される主人公が無事婚約破棄を乗り越えて幸せを掴むお話。 表紙イラスト:リルドア様(https://coconala.com/users/791723) 【完結】本編63話+外伝11話、2021/01/19 【複数掲載】アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアップ+ 2021/12  異世界恋愛小説コンテスト 一次審査通過 2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過

婚約破棄された婚活オメガの憂鬱な日々

月歌(ツキウタ)
BL
運命の番と巡り合う確率はとても低い。なのに、俺の婚約者のアルファが運命の番と巡り合ってしまった。運命の番が出逢った場合、二人が結ばれる措置として婚約破棄や離婚することが認められている。これは国の法律で、婚約破棄または離婚された人物には一生一人で生きていけるだけの年金が支給される。ただし、運命の番となった二人に関わることは一生禁じられ、破れば投獄されることも。 俺は年金をもらい実家暮らししている。だが、一人で暮らすのは辛いので婚活を始めることにした。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。

キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。 ボクの名前は、クリストファー。 突然だけど、ボクには前世の記憶がある。 ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て 「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」 と思い出したのだ。 あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。 そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの! そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ! しかも、モブ。 繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ! ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。 どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ! ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。 その理由の第一は、ビジュアル! 夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。 涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!! イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー! ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ! 当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。 ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた! そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。 でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。 ジルベスターは優しい人なんだって。 あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの! なのに誰もそれを理解しようとしなかった。 そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!! ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。 なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。 でも何をしてもジルベスターは断罪された。 ボクはこの世界で大声で叫ぶ。 ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ! ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ! 最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ! ⭐︎⭐︎⭐︎ ご拝読頂きありがとうございます! コメント、エール、いいねお待ちしております♡ 「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中! 連載続いておりますので、そちらもぜひ♡

処理中です...