コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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オペラ座の仮装人

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「…四十万飛んで七千五百三十レラ」

ゴクリ…

この音は僕でなく、おひねり箱を集計する僕を見守る団員たちの喉音である。

ジャラリ…「発表します。今回アスタリア行きの切符をもぎ取ったのは…」

ダララララララララダン!

「ブルー!ロシオ率いるチームブルーです!」

「やったー!」
「悔しいっ!」

「代表でリーザさん挨拶を」

「はい!えっと、すごく嬉しいんですけど…今回のこれはチーブルーというよりロシオをアスタリアへ行かせようと頑張って下さった紳士様方の優しさだと思ってます。なので次の機会こそ実力で勝ってみせます。今回はBKDの恥にならないよう精一杯頑張ってくるのでどうかみんな、ここからエールを送ってください」

「いっぱいファン増やしてきてー!」
「お土産も期待してるー!」

「任せといて!」

ということでBKDの世界初お目見えはチームブルーに決定!


因みにこのチームカラーだが…

ロシオのチーム ブルー
ルキーナ(こう呼ばないと嫌がる)のチーム ピンク
ジーノのチーム イエロー
そして三つ子が
アマート レッド
ベニート グリーン
クレート オレンジ

である。

出発は来月。四月に入ってすぐの週である。
彼女らはマッティオ氏の厚意により船(常速)によってアスタリアに向かう。だがその船は…

今までなにくれとなくエヴァの力になってくれた極太客、最VIP顧客と言ってもいいマッティオ氏、そしてマッティオ氏の呼びかけにより集まった初期ファンクラブメンへの、エヴァから最後のお礼を兼ねた、これは最初で最後のファンクラブツアーと言うべき、貸し切り船旅なのである。

一般ファンクラブメンに先駆け知らされたエヴァの引退。
彼らはそれぞれに嘆き悲しみ…けれどエヴァの家族への愛情、ファンへの想いを知り「私たちは家族思いのエヴァちゃんが大好きだよ」と送り出してくれることになった。ホロリ…みんな…僕も大好きだよ!

なのでチームブルーと共に引率エヴァとして乗り込むのだ。二十日ほどの日程、僕はホスピタリティの鬼となる!

で、フラヴィオは外交事務の仕事も兼ねて王家の高速船で一足先に帰省を果たすってワケ。
そうそう。僕には正体を知ってるディエゴがサポートとして同行するよ。うん。フラヴィオの指示だね。

さすがに客室乗務員のような、サービスに従事する僕をフラヴィオに見せることは憚られるからね。
因みに僕はキュロットスカートの水兵さんになる予定だ。胸にスカーフをしばった可愛いコス。きっとお喜びいただけるだろう。


ってことでその前に。

今夜は約束のオペラ鑑賞。夫夫の熱々デートタイムだ。


「ええ!フラヴィオ!これ…真正面のVIP席じゃないですか!」
「もちろんだ。君を一番いい席に案内したくてね」

そ、そうか…。VIP席、ここは一ボックス百万ぐらいする(サルディーニャ価格)スウィート席。いくら宮廷からお手当てが出てたとはいえ、まだまだ薄給のフラヴィオ。オペラのチケットを買うのに時間がかかったのはそういうことか…。感動が天元突破…

「すごく嬉しい…」ギュゥゥゥ「僕…一分一秒も無駄にしないよういっぱい勉強して帰ります!」

「フラヴィオ様、コッポラ伯爵家のご当主が挨拶をと。従者が参っております」

無粋な声の主はロデじい。これはロデじいにとってもいい娯楽だろう。おかげでロデじいは隣家の執事に朝から自慢しまくっていた。今までが今までだったし…僕が許可する。やって良し!

「挨拶か…。このひと時は遠慮してほしいと、そう返事を。後日改めて屋敷へ伺おう」
「畏まりました」

「招待しよう」じゃないのは我が家の屋敷事情ね。へへ、申し訳ない…

開演までにお伺いがあったのは計七人ほど。さすが新進気鋭、次代のホープフラヴィオ!みんなひれ伏すがいい!

「イヴ様、本日イヴ様がお召しの衣装をオーダーしたいと五枚ほどカードが届いております」
「えー?明日連絡しますって連絡先聞いといて」
「畏まりました」

こんなのもある。



さて、社交界が舞台の第一幕はまるで一枚の絵画と見紛う豪華さで…、演出という意味でとても参考になる。
オペラの衣装は古典すぎて僕のコス的食指は動かないけど…でもとても見事で眩くて芸術的で…、パンクラツィオの気持ちも理解できるってもんだ。

幕間の休憩タイム…

「ねぇフラヴィオ。アスタリアから着てきた最初の貴族服…あれそのままとってありましたよね?」
「ああもちろん」
「今夜あれ着て見せて」
「ふふ、いいとも」

気分は何故か王子コスという。

「では君には何を着てもらおうか…」
「…コスをお望みで?お姫様?メイド服?何でも着ますよ?」

我が家には試作品のメイド服からナース服にシスター服、そしてカタリーナ様に貰ったお古のドレス等々、いつ不測の事態(どんな?)があってもいいよう様々な衣裳が常備してある。とは言え…
フラヴィオとのお戯れなら、どうせ最後は生まれたままの自然な姿に還るんだけどね☆

さあ。ここからは悲劇の後半である。

悲劇に次ぐ悲劇。悲劇の連鎖反応。まるで悲劇の宝石箱やー!

フラヴィオはあの貴公子を自業自得だと言ったけど、僕には薔薇の青年も同じくらい自業自得…とまではいわないけど、自己犠牲が過ぎると思う。

百歩譲って生活のために宝飾品を売った、…までは良いとしよう。

けど、そもそも父親の頼みなんて聞く必要無かったんだよ。玄関で追い返せばよかった。
「息子の将来…」って、まるで青年が誑かしたみたいに言うけど、むしろストーカーみたいに追いかけまわしたのは貴公子の方で、ましてや成人した一人前なら、もはや全ては自己責任。青年には何の罪もない。むしろこうやしてよってたかって甘やかすからこの貴公子は成長しないんでしょうが!

死期を悟って身を退くにしたって…あんなひどい罵倒された時点で僕なら百年の恋も冷める。つか、そもそも単語一つも言わせないよ?

最後の日々くらい好きなことして夢のように過ごせばよかったのに…バカだな、我慢は美徳…なんて僕は思わない。

神様だって言ったじゃないか。求めよ、さらば与えられんって。



パチパチパチ!!!
いつか見たよりすごいブラーヴォの嵐。

初めてのオペラだけど素晴らしい舞台だった。
けど丸パクリは良くない。あくまでリスペクトにとどめておこう。

「如何かな?お気に召していただけましたか?私の姫」

「…フラヴィオ。僕は何があろうと身を退いたりしませんからね」
「よく分かっている。イヴ、君の欲求はいつでも純粋なものだ。君に望まれる…私はそれが嬉しいのだよ」

純粋な欲求…それって強欲…ううん!ひたむきって言って!

「でもねフラヴィオ。僕は自分のコレクションをとても大事にする男です」
「おや?」
「もっと大事にしますね。価値あるビンテージになるまで」
「ふふ。イヴ、それを言うのであれば私は自分の美術品を愛でる男だ」
「うん?」
「愛でてあげよう。君がもっと輝けるように」

僕とフラヴィオ…、やっぱり似た者夫夫だ。





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