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番外 あるロンバート一家のその後
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アスタリアから戻った僕たちはルイージ君から一つの指令を受け取っていた。
これは何かというと、リコをルイージ君、つまり公爵令息(あの時点では)の従者に召し上げる際、さすがに王弟子である公爵令息の従者が平民位というわけにはいかず、とりあえずロデじいの養子ということで急場の体裁を整えていたのだが、それをいぶかしむ者が存在するので正式な手続きを取って欲しいというもの。
ロデじいもリコの養父になったりフェルたんの祖父になったりなかなか変幻自在だが、フェルたんの孫設定はあくまで名目上だけ、仮初である。
とにかく、忘れがちだがリコとエルモには一応両親が存在する。ついでに言うとそこそこリッチなね。覚えているかな?ロンバート、リコの父親は悪徳金貸し業だよ。
となればリコとロデじいを養子縁組するためには両親の同意が必要になる。
そこでアスタリアからサルディーニャへと戻った僕は、リコの両親、ロデじい、双方の署名が入った正式な書類を整えるため、リコの父親を訪ねることにした。
少し懐かしい話を少ししようか。
あれはもう二年以上も前になるのか…
庶民街でロンバートを営む金持ち、リコの父親メルクリオ氏は流行り病で妻を亡くし、二人の息子を養育するため早々に連れ子の居る女、グレタを後妻に迎えていた。
男性優位のサルディーニャ社会で、金持ち、それも善性でない男、ときたら家庭を顧みないのは自然の摂理、思いのほか不平不満の多い妻に彼はしだいに煩わしさを感じ、暮らしに困らないだけのお金を後妻に与えると、息子たちを含めた家内の全てを丸投げし、若いピチピチギャル(古い)と別邸で暮らし始めたのだ。
あ、ここで補足ね。オルトゥスの神は死別以外の離縁を許さないよ。だからこうやって離縁の代わりに放置されるんだね。
金持ちメルクリオ氏は後妻如きの尻に敷かれるタイプではない。後妻にとっては屈辱だっただろうが、放置される崩壊夫婦では生活費すらもらえない場合だってあるのだ。
そこへいくとメルクリオ氏はケチな男ではなかった。ぜいたくな生活が保障されているからか後妻も結局その生活を受け入れていた。
けど、後妻がリコとエルモを苛め抜いたのは、自分の息子(連れ子)の将来において邪魔になりそうだから、だけでなく、夫への不満を代わりにぶつけていた部分も多分あるのだろうと思っている。
そんな日々に耐え兼ねたリコが新天地に白羽の矢を立てたのが我がビアジョッティ家だったわけだが…
後妻はリコたちが家を出た翌日、夫への体裁もあり、二人の居場所に気付くや僕の留守中に早速連れ戻しに来たようだ。が、幸いと言うか何と言うか…、イヴァーノの名前を聞くと慌てふためき逃げ帰ったらしい。
これは初出しだが、実はその翌日、後妻からは大量のチーズとバターと小麦粉が届けられている。カードには〝お詫び”と書かれていたが、リコたちを頼む、という意味合いならば〝御礼”のほうが相応しいのではないだろうか?なんか釈然としない…
因みに付け届けがチーズとバターと小麦粉だったのは、僕が前日の商店街で乾物屋の店主と熾烈な値切り交渉をしていたのを耳にしたためだろう。
後日知ったことだが、フラヴィオが見つけた週刊冊子の記事によると、どうもイヴァーノと後妻にはちょっとした因縁があったらしい。…因縁があったというか、因縁付けたと言うか…
顧客に貴族も多いメルクリオ夫妻は、身分差があろうと通常貴族ごときに遜りはしないが、相手が名門コレッティ家ともなれば話は別だ。これは年収五千万クラスがビリオネアにケンカを売るような愚行である。
これはコレッティのお母様に確認した話だ。
イヴァーノの取り置きした真珠の美容サプリを、化粧品店の店主が制止するのを振り切り横から強引に買い取った愚か者、メルクリオ夫人をイヴァーノは決して許さなかった。
山ほどの品を持って謝罪に訪れた夫妻を屋敷最奥のもっとも狭い個室へ通すと
「お前如きの謝罪がこの僕に値すると?」
そう言ってどんな謝罪の言葉も聞かず
「この程度の品でこの僕への謝罪になるとでも?」
そう言って一切の謝罪品を受け取らず
「お前たちが腰を曲げた程度でこの僕が満足するとでも?」
そう言って傾斜角10度すら頭も下げさせず…かといって帰宅も許さず
「店主の制止する声が夫人には聞こえなかったみたいだから」
と、リズムにシンバルを配し、トランペット、トロンボーン、チューバの管楽器奏者に、夫妻の隣で、それも耳のすぐ横で、大音響の演奏を半日続けさせたらしい…
イヴァーノ…それ迷惑なのは楽団員だから…
とまあ、そんな因縁の相手であるメルクリオ氏が僕の申し出、リコとロデじいの養子縁組に物言いをつける訳がない。
「お久しぶりですメルクリオ氏。その後ご商売はいかがですか?」
「は、お、おかげさまで順調にございます…」ダラダラ…
「あんまアコギなことしちゃいけませんよ」
「め、めめ、滅相もございません」ダラダラ…
「今日はその…夫人は?」
「妻のグレタは寝込んでおりまして」
「ああ!僕の名前聞いて寝込んじゃった?」
「…」ダラダラ…
図星か…
「今日は息子を養子にという話でしたな」
「ええ。夫フラヴィオの遠縁の男爵家に、ですけど」
「息子にとってはありがたき幸運にございますな」ダラダラ…
「書類は僕の方で貰ってきました」カサ
貴族街の教会で貰って来た縁組書類は二枚。一枚はインクこぼしたり破いたりした時の予備だ。
「ここにサインをお願いします。上の段が子の名、あ、旧姓ですそこ。そうそう。下の段があなたの名前です」
サラサラサラ「これでよろしいか」
「リコ・メルクリオ。はい大丈b…」んん?もう一枚にもなんか…「エルモ・メルクリオ…」
エルモ⁉
「ど、どうかなされたか。何か不愉快なことでもございましたか?」ダラダラ…
「い、いいえぇ↑」ササッ「さっ、もう行きますね。これ以上僕がここに居るとメルクリオ氏脱水して干からびちゃう」
「はっ、いえ、その」
バタン
「やれやれ。やっと縁が切れたか」
扉の向こうから聞こえた呟き。けどこのセリフは息子ではなく、イヴァーノと、と言う意味だろう。妙な確信がある。
「…」
ま、まあいいや。
そんなことより棚から特大のぼたもちが落ちてきた!急いでみんなに報告しなくっちゃ!
こうしてこの日、流れ玉でエルモは正式にロデじいんちの子になったのだが、それを一番喜んだのはロデじいだったと言う。
もう!長生きしてよね!
これは何かというと、リコをルイージ君、つまり公爵令息(あの時点では)の従者に召し上げる際、さすがに王弟子である公爵令息の従者が平民位というわけにはいかず、とりあえずロデじいの養子ということで急場の体裁を整えていたのだが、それをいぶかしむ者が存在するので正式な手続きを取って欲しいというもの。
ロデじいもリコの養父になったりフェルたんの祖父になったりなかなか変幻自在だが、フェルたんの孫設定はあくまで名目上だけ、仮初である。
とにかく、忘れがちだがリコとエルモには一応両親が存在する。ついでに言うとそこそこリッチなね。覚えているかな?ロンバート、リコの父親は悪徳金貸し業だよ。
となればリコとロデじいを養子縁組するためには両親の同意が必要になる。
そこでアスタリアからサルディーニャへと戻った僕は、リコの両親、ロデじい、双方の署名が入った正式な書類を整えるため、リコの父親を訪ねることにした。
少し懐かしい話を少ししようか。
あれはもう二年以上も前になるのか…
庶民街でロンバートを営む金持ち、リコの父親メルクリオ氏は流行り病で妻を亡くし、二人の息子を養育するため早々に連れ子の居る女、グレタを後妻に迎えていた。
男性優位のサルディーニャ社会で、金持ち、それも善性でない男、ときたら家庭を顧みないのは自然の摂理、思いのほか不平不満の多い妻に彼はしだいに煩わしさを感じ、暮らしに困らないだけのお金を後妻に与えると、息子たちを含めた家内の全てを丸投げし、若いピチピチギャル(古い)と別邸で暮らし始めたのだ。
あ、ここで補足ね。オルトゥスの神は死別以外の離縁を許さないよ。だからこうやって離縁の代わりに放置されるんだね。
金持ちメルクリオ氏は後妻如きの尻に敷かれるタイプではない。後妻にとっては屈辱だっただろうが、放置される崩壊夫婦では生活費すらもらえない場合だってあるのだ。
そこへいくとメルクリオ氏はケチな男ではなかった。ぜいたくな生活が保障されているからか後妻も結局その生活を受け入れていた。
けど、後妻がリコとエルモを苛め抜いたのは、自分の息子(連れ子)の将来において邪魔になりそうだから、だけでなく、夫への不満を代わりにぶつけていた部分も多分あるのだろうと思っている。
そんな日々に耐え兼ねたリコが新天地に白羽の矢を立てたのが我がビアジョッティ家だったわけだが…
後妻はリコたちが家を出た翌日、夫への体裁もあり、二人の居場所に気付くや僕の留守中に早速連れ戻しに来たようだ。が、幸いと言うか何と言うか…、イヴァーノの名前を聞くと慌てふためき逃げ帰ったらしい。
これは初出しだが、実はその翌日、後妻からは大量のチーズとバターと小麦粉が届けられている。カードには〝お詫び”と書かれていたが、リコたちを頼む、という意味合いならば〝御礼”のほうが相応しいのではないだろうか?なんか釈然としない…
因みに付け届けがチーズとバターと小麦粉だったのは、僕が前日の商店街で乾物屋の店主と熾烈な値切り交渉をしていたのを耳にしたためだろう。
後日知ったことだが、フラヴィオが見つけた週刊冊子の記事によると、どうもイヴァーノと後妻にはちょっとした因縁があったらしい。…因縁があったというか、因縁付けたと言うか…
顧客に貴族も多いメルクリオ夫妻は、身分差があろうと通常貴族ごときに遜りはしないが、相手が名門コレッティ家ともなれば話は別だ。これは年収五千万クラスがビリオネアにケンカを売るような愚行である。
これはコレッティのお母様に確認した話だ。
イヴァーノの取り置きした真珠の美容サプリを、化粧品店の店主が制止するのを振り切り横から強引に買い取った愚か者、メルクリオ夫人をイヴァーノは決して許さなかった。
山ほどの品を持って謝罪に訪れた夫妻を屋敷最奥のもっとも狭い個室へ通すと
「お前如きの謝罪がこの僕に値すると?」
そう言ってどんな謝罪の言葉も聞かず
「この程度の品でこの僕への謝罪になるとでも?」
そう言って一切の謝罪品を受け取らず
「お前たちが腰を曲げた程度でこの僕が満足するとでも?」
そう言って傾斜角10度すら頭も下げさせず…かといって帰宅も許さず
「店主の制止する声が夫人には聞こえなかったみたいだから」
と、リズムにシンバルを配し、トランペット、トロンボーン、チューバの管楽器奏者に、夫妻の隣で、それも耳のすぐ横で、大音響の演奏を半日続けさせたらしい…
イヴァーノ…それ迷惑なのは楽団員だから…
とまあ、そんな因縁の相手であるメルクリオ氏が僕の申し出、リコとロデじいの養子縁組に物言いをつける訳がない。
「お久しぶりですメルクリオ氏。その後ご商売はいかがですか?」
「は、お、おかげさまで順調にございます…」ダラダラ…
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「め、めめ、滅相もございません」ダラダラ…
「今日はその…夫人は?」
「妻のグレタは寝込んでおりまして」
「ああ!僕の名前聞いて寝込んじゃった?」
「…」ダラダラ…
図星か…
「今日は息子を養子にという話でしたな」
「ええ。夫フラヴィオの遠縁の男爵家に、ですけど」
「息子にとってはありがたき幸運にございますな」ダラダラ…
「書類は僕の方で貰ってきました」カサ
貴族街の教会で貰って来た縁組書類は二枚。一枚はインクこぼしたり破いたりした時の予備だ。
「ここにサインをお願いします。上の段が子の名、あ、旧姓ですそこ。そうそう。下の段があなたの名前です」
サラサラサラ「これでよろしいか」
「リコ・メルクリオ。はい大丈b…」んん?もう一枚にもなんか…「エルモ・メルクリオ…」
エルモ⁉
「ど、どうかなされたか。何か不愉快なことでもございましたか?」ダラダラ…
「い、いいえぇ↑」ササッ「さっ、もう行きますね。これ以上僕がここに居るとメルクリオ氏脱水して干からびちゃう」
「はっ、いえ、その」
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扉の向こうから聞こえた呟き。けどこのセリフは息子ではなく、イヴァーノと、と言う意味だろう。妙な確信がある。
「…」
ま、まあいいや。
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