転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠

文字の大きさ
24 / 93
5・公爵家の愛娘、毛糸を作る

糸を紡ぐ・2

しおりを挟む
「面の部分に天日干しした綿を千切り、置いてください」
「ロルティ。できる?」
「もちろん! うさぎしゃんの毛、ふわふわー!」

 中庭に放置しておくことで水気を含んでいた毛から水分が消えたことに気づいたロルティは、その手触りに大喜びしながらローラーの面部分へ小さな手で掴んで乗せた。
  
「はい! できたよー!」
「お坊ちゃまはそのまま、ロルティ様は上から下へとカーラーの面を擦り合わせてください」
「する?」
「このように、勢いよく音を立てます」

 言葉だけでは理解しづらいからだろう。
 メイドはその場で、幼い兄妹に実演してくれた。

「わぁ! 魔法みたい!」

 左手に乗せた毛へカーラーを上から下へと擦り合わせれば、シャッと勢いよく音がして右手に移し替わる。
 その様子を目にしたロルティは、嬉しそうな声をあげて大喜びした。

「ロルティにも、できるかな……?」
「やるー!」

 彼女はキラキラと瞳を輝かせると両手を使って重みを増した器具をしっかり持ち、くるりと回転させると兄が持つ面に上から下へと毛を擦り合わせた。
  
「むむむむ……!」

 メイドが実践したように小気味のいい音を響かせることこそ、できなかったが……。
 ズシャシャシャと何かを引き摺るように、どうにかこうにか兄が持つ器具の上に毛を移し替える。
 ロルティは兄と協力して時折小気味のいい音を響かせながら、時折面の部分に浮かび上がる邪魔な不純物を取り除きつつ、作業を終えた。

「できたー!」
「カーディングを終えたら、次は紡ぎましょう」
「つむ?」
「細長い1本の糸にします」
「はーい!」

 メイドはカーダーの面の上に浮かび上がってきたけを小さな籠の中に収納すると、それを手に持って幼い兄妹達をある場所へと移動させた。
  
 こじんまりとした小さな部屋には、1台の紡ぎ車が置かれている。
 足でペダルを踏むとカラカラと滑車が周り、糸が紡がれるらしい。
 メイドは慣れた手つきでセッティングを行うと籠の中から毛を一玉分鷲掴み、ロルティへ手渡した。

「細長く丸めてください」
「むぅ……。こう、かな?」

 幼子は指示通りにニギニギと粘土を捏ねるように、くるくると毛を形作る。
 無事に形成を終えたそれの先端に触れたメイドは、滑車の上に備えつけられたフライヤーから伸びる導き糸へ結びつけた。

「お嬢様。これより脚を使って、糸を紡ぎます」
「うん!」
「まずはここに、お座りください」
「はーい!」

 ロルティは元気よく返事をしてから椅子の前に座ろうとしたが、座面が高すぎるせいか。
 どうやっても1人ではそこに腰を下ろせない。

「僕が乗せてあげるよ」
「わーい! ありがとう、おにいしゃま!」
「どういたしまして」

 見かねた兄が妹を抱きかかえ無事にそこへ座れば、紡ぎ車のペダルへ足が届く状態になった。
  
「丸めた毛を膝のあたりまで持ってきて、ピンと糸を張ってください」
「こう……?」
「お上手です。脚でゆっくりとペダルを踏み、毛を後方に引いてください」
「手と脚で、違うことするの?」
「はい」
「わたしにできるかなぁ……?」
「無理だったら、僕がペダルを踏むよ」
「うんっ!」

 まずは1人でやってみたらどうかと促されたロルティは、恐る恐るペダルを踏みながら毛をゆっくりと自身の方向へ引いた。
 すると滑車がくるくると周り、細い糸がフライヤーへ巻きつけられていくではないか。

「わぁ……! すごーい!」

 まるで魔法のような出来事に、幼子は目を丸くしながら大喜びした。
 メイドは先程までの無表情が嘘のように口元を緩めると、根気よく幼子に指導する。

「これを手元の毛がなくなるまで、何度も繰り返します」

 ロルティはカラコロと音を響かせながら交互にペダルを踏み、糸を紡ぐ。

「いっちに、いっちに!」

 足踏みをしながら手元は糸が切れないようにしっかりと毛の塊を持って押さえ、自分の方へ引くのはかなり気を張る。
 最初のうちは元気いっぱいだったロルティも、5分と経てばあっと言う間にバテてしまった。
 運動不足の幼子に、この体験はあまりにもハードだったようだ。

「むむぅ……。これ、すごく大変……!」
「ロルティ、無理をしないで。疲れたなら、あとのことはメイドに任せよう」
「うさぎしゃんと、お揃いのリボン……!」
「焦らなくても、逃げないよ」
「たくさん、待ったのに……」

 やっとアンゴラウサギとお揃いのリボンを作れると楽しみに待っていたロルティにとって、今日が糸を紡ぐだけで終わるのは我慢ならないのだろう。
 幼子はドレスの裾をギュッと掴んで、必死に涙を堪えた。

「無理をしてロルティに何かあったら、みんなが心配するよ」
「おにいしゃま……」
「父さんも、すごく怒るかもね」
「おとうしゃまが?」
「そうだよ。糸はちゃんと紡げたし、僕達は部屋に戻ろう」
「むぅ……」

 ロルティは不満な気持ちでいっぱいだったが、有無を言わさぬ兄に抱き上げられてしまえば抵抗のしようもない。
 幼子は強制的に、自室へ連行されてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。 そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。 ※コメディ寄りです。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

気弱令嬢の悪役令嬢化計画

みおな
ファンタジー
 事故で死んだ私が転生した先は、前世の小説の世界?  しかも、婚約者に不当に扱われても、家族から冷たくされても、反論ひとつ出来ない気弱令嬢?  いやいやいや。 そんなことだから、冤罪で処刑されるんでしょ!  せっかく生まれ変わったんだから、処刑ルートなんて真っ平ごめん。  屑な婚約者も冷たい家族も要らないと思っていたのに・・・?

処理中です...