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5・公爵家の愛娘、毛糸を作る
父は娘の為に(ジェナロ)・1
(ロルティが泣いた。それも、二度……)
ジェナロは己の不甲斐なさを反省し、すぐさま行動に移した。
彼女が神殿から見習い聖女の地位を剥奪された際、代わりに聖女として崇められた少女の名が、キララだと思い出したからだ。
(何か、わかればいいが……)
ある人物に手紙を認めた彼は雑務を済ませてから執務室を出ると、再び子ども達の暮らす部屋へと戻ったのだが……。
(ロルティがいない)
兄妹の部屋に足を運んだジェナロは愛娘と息子の姿が見えないのに気づき、露骨に顔を歪めた。
(こんなことになるんだったら、朝からそばを離れなければよかったか……)
彼は自らの行いを若干後悔しながら、部屋の隅で怯えている神獣に低い声で問いかけた。
「ロルティはどこだ」
「む、むきゅ……」
アンゴラウサギはぶんぶんと小さな身体を震わせながら「知らない」とか細く鳴くと、彼の問いかけに応えた。
それを耳にしたジェナロは、神獣の監視を担当しているメイドに視線で同じ質問を訴えかける。
青白い顔をした使用人もまた、これ以上彼を刺激しないように怯えながら言葉を紡いだ。
「お嬢様と坊っちゃまは、中庭で陰干ししている毛を回収しに向かいました……」
彼は不満そうに舌打ちすると、無言で2人の部屋を立ち去った。
――ジェナロ・ハリスドロアにとってロルティ・ハリスドロアは、自らの命を犠牲にしたとしても必ず守らなければならない愛娘である。
だからこそ、自身が会いたいと願った時に彼女が見当たらないと言うのは彼にとっては強いストレスを感じることであった。
(ジュロドと一緒なら、再びこの屋敷から姿を消すなどあり得ないとは思うが……)
ジェナロは恐れている。
せっかく再会できた愛娘が、再び神殿に奪われるのを。
(ロルティ……。俺の最も愛した女性の、忘れ形見……)
娘は母親に似てよく笑い、涙を堪える。
その姿は本当にそっくりで、なぜそばに彼女がいないのだろうかと悩むことも多かった。
(全て俺のせいだ……)
ジュロドの母親と愛のない政略結婚なんか、しなければよかったのだ。
そうすれば今もなお彼女は自分のそばにいて、家族3人神殿に茶々を入れられることなく幸せに過ごせていた。
彼は自身の過去を振り返りながら、廊下を歩き終え外に出る。
(ジュロドがいない生活、か……)
愛していない女性との間に生まれた息子。
彼が生まれて来なければよかったとは思わない。
子どもは親を選べないからだ。
(……それに……)
神殿から逃げてきたロルティがあっと言う間に自身を父親として受け入れ、この公爵邸こそが己の帰るべき場所だと受け入れられたのは、息子がずっとそばで娘に優しい言葉を投げかけ続けたからだろう。
(俺はジュロドに、感謝するべきだ)
迫害などできるがない。
娘を愛する気持ちは、彼だって同じなのだから。
――シャッ、シャッ、シャッ。
何かを擦り合わせるような、リズミカルな金属音が絶え間なく聞こえてくる。
(俺の許可なしに、不快な音を響かせている奴らは誰だ)
ジェナロは娘に会えない苛立ちを心の中で燃え上がらせながら、その音が聞こえる中庭へと顔を出した。
「だ、旦那様!?」
まさかふらふらとこの屋敷の主が1人で彷徨っているなど、思いもしなかったのだろう。
驚きの声を上げた使用人達は、作業を中止すると慌てて頭を下げた。
「ロルティとジュロドはどこだ」
「お嬢様とお坊ちゃんでしたら、倉庫で糸車を紡いでおります」
「そうか」
子ども達の行き先をこの場にいる使用人達が知っているあたり、兄妹の部屋にいたメイド達の言葉は嘘ではなかったようだが……。
本人達と顔を合わせて話ができないのであれば、なんの意味もない。
(当主である俺をたらい回しにするとは、いい度胸だな)
瞳に静かな怒りを讃えたジェナロは、彼女達を怒鳴りつけたところで何も変わらないと静かにその場を立ち去った。
ジェナロは己の不甲斐なさを反省し、すぐさま行動に移した。
彼女が神殿から見習い聖女の地位を剥奪された際、代わりに聖女として崇められた少女の名が、キララだと思い出したからだ。
(何か、わかればいいが……)
ある人物に手紙を認めた彼は雑務を済ませてから執務室を出ると、再び子ども達の暮らす部屋へと戻ったのだが……。
(ロルティがいない)
兄妹の部屋に足を運んだジェナロは愛娘と息子の姿が見えないのに気づき、露骨に顔を歪めた。
(こんなことになるんだったら、朝からそばを離れなければよかったか……)
彼は自らの行いを若干後悔しながら、部屋の隅で怯えている神獣に低い声で問いかけた。
「ロルティはどこだ」
「む、むきゅ……」
アンゴラウサギはぶんぶんと小さな身体を震わせながら「知らない」とか細く鳴くと、彼の問いかけに応えた。
それを耳にしたジェナロは、神獣の監視を担当しているメイドに視線で同じ質問を訴えかける。
青白い顔をした使用人もまた、これ以上彼を刺激しないように怯えながら言葉を紡いだ。
「お嬢様と坊っちゃまは、中庭で陰干ししている毛を回収しに向かいました……」
彼は不満そうに舌打ちすると、無言で2人の部屋を立ち去った。
――ジェナロ・ハリスドロアにとってロルティ・ハリスドロアは、自らの命を犠牲にしたとしても必ず守らなければならない愛娘である。
だからこそ、自身が会いたいと願った時に彼女が見当たらないと言うのは彼にとっては強いストレスを感じることであった。
(ジュロドと一緒なら、再びこの屋敷から姿を消すなどあり得ないとは思うが……)
ジェナロは恐れている。
せっかく再会できた愛娘が、再び神殿に奪われるのを。
(ロルティ……。俺の最も愛した女性の、忘れ形見……)
娘は母親に似てよく笑い、涙を堪える。
その姿は本当にそっくりで、なぜそばに彼女がいないのだろうかと悩むことも多かった。
(全て俺のせいだ……)
ジュロドの母親と愛のない政略結婚なんか、しなければよかったのだ。
そうすれば今もなお彼女は自分のそばにいて、家族3人神殿に茶々を入れられることなく幸せに過ごせていた。
彼は自身の過去を振り返りながら、廊下を歩き終え外に出る。
(ジュロドがいない生活、か……)
愛していない女性との間に生まれた息子。
彼が生まれて来なければよかったとは思わない。
子どもは親を選べないからだ。
(……それに……)
神殿から逃げてきたロルティがあっと言う間に自身を父親として受け入れ、この公爵邸こそが己の帰るべき場所だと受け入れられたのは、息子がずっとそばで娘に優しい言葉を投げかけ続けたからだろう。
(俺はジュロドに、感謝するべきだ)
迫害などできるがない。
娘を愛する気持ちは、彼だって同じなのだから。
――シャッ、シャッ、シャッ。
何かを擦り合わせるような、リズミカルな金属音が絶え間なく聞こえてくる。
(俺の許可なしに、不快な音を響かせている奴らは誰だ)
ジェナロは娘に会えない苛立ちを心の中で燃え上がらせながら、その音が聞こえる中庭へと顔を出した。
「だ、旦那様!?」
まさかふらふらとこの屋敷の主が1人で彷徨っているなど、思いもしなかったのだろう。
驚きの声を上げた使用人達は、作業を中止すると慌てて頭を下げた。
「ロルティとジュロドはどこだ」
「お嬢様とお坊ちゃんでしたら、倉庫で糸車を紡いでおります」
「そうか」
子ども達の行き先をこの場にいる使用人達が知っているあたり、兄妹の部屋にいたメイド達の言葉は嘘ではなかったようだが……。
本人達と顔を合わせて話ができないのであれば、なんの意味もない。
(当主である俺をたらい回しにするとは、いい度胸だな)
瞳に静かな怒りを讃えたジェナロは、彼女達を怒鳴りつけたところで何も変わらないと静かにその場を立ち去った。
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