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8・公爵家の愛娘、命を狙われる
叫ぶ男・1
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――ある日の昼下がり。
ジュロドとベッドの上に座っていたロルティが、羊皮紙とペンを使ってお絵描きを楽しんでいる時のことだった。
「神聖なる聖獣の毛糸を、独り占めするなー!」
幼子は外から男性の叫び声が何度も聞こえてきていることに気づき、首を傾げる。
(あの声、なんだろう……?)
声が遠いおかげで、どうにか怯えずに済んでいるが……。
至近距離で怒声を響かせてくるようであれば、ロルティだってお絵かきに夢中ではいられなくなっていただろう。
「きゅう……」
その証拠に、人間の憎悪に敏感なアンゴラウサギは全身を震わせ、か細い声を上げて幼子に縋る。
「なんだか、外が騒がしいね」
兄の言葉に頷いた妹は、不安そうに窓の外を見た。
「男の人、毛糸って言ってた……」
「お茶会の時、みんなでお揃いのリボンを見せびらかしたからね。その噂が回ったのかな……」
「みんなに自慢すると、ああやって大騒ぎする人が出てくるの?」
「多分この子の毛が、とっても特別だからじゃないかな……?」
「特別って、凄い?」
「そんな感じだね」
「だからうさぎしゃんは、こんなに怯えているの……?」
「むきゅう……」
兄の言葉を耳にしたロルティは、神獣を安心させるように優しく抱きしめて不安がった。
「うさぎしゃんの毛……。悪いことに使いたい人が、いるのかなぁ……?」
「きゅう……!」
獣は「ロルティと引き離されるなんて、そんなの嫌だ」と鳴いている。
ロルティはすっかりフサフサに戻った毛を優しく撫でながら、神獣の気持ちに寄り添ったせいか。
今にも泣き出しそうな顔をした。
「ロルティ。大丈夫だよ」
「でも……」
「父さんが、なんとかしてくれるはずだ」
「おとうしゃま……?」
「そうだよ。あんまり騒がしいようなら、耳栓をもらおう」
「みみせー?」
「音を、聞こえなくするんだ」
「おにいしゃまの、声も……?」
「そうだね。僕は魔法が使えないから……」
都合よく周りの音を遮断し、ジュロドの声だけが聞こえるようにするのは魔法を使わぬ限り難しい。
兄の申し訳無さそうな声を耳にしたロルティは、さらに不安が増幅する。
(何が起きてるんだろう……?)
必死に泣かないように気をつけながら嗚咽を漏らしつつ、瞳に浮かんだ涙が溢れぬようにぐっと唇を噛み締めて堪えた。
「泣かないで……」
「でも、うさぎしゃんが……!」
「――ロルティ」
ジュロドに慰められながらも、不安でどうしようもない気持ちを爆発させかけた時のことだった。
兄妹の部屋へ久方ぶりに、父親が顔を出したのは。
「おとうしゃま……」
「妹を泣かせるなど、兄の風上にも置けないな」
「まさか。ロルティは、父さんのせいで不安になっているんだ」
「俺に罪をなすりつけるな」
2人は視線を合わせた瞬間、バチバチと火花を散らし始めた。
一度こうなってしまえば、どちらかが満足するまで父親と兄の罵り合いは止まらない。
(おとうしゃまとおにいしゃまったら……。わたしのことになると、すぐに喧嘩ばっかり……)
ロルティはぷっくりと頬を膨らませ不貞腐れながら、2人の冷戦状態をアンゴラウサギとともにじっと見守った。
――5分ほど誰も口を開かぬ、気まずい空気が流れる中。
ため息を溢したジュロドは父親から視線を逸らすと、妹が涙を瞳に浮かべていた理由を知った。
「大声で、騒いでる奴がいるだろ。そいつの声を聞いて、不安がってる……」
「そうか。その件で、ロルティに相談があって来た」
「わたしに?」
「ああ。外で騒ぎを起こしている奴らは、俺が胸元につけているリボンに目をつけた。高値で毛糸を卸してほしいそうだ」
「おろ?」
「売って欲しい。これなら、理解できるか」
「うん!」
つまり捨てる予定だった毛が商品となって売買され、お金に変わると言うことだ。
ロルティは先程まで悲しんでいたのが嘘のように瞳をキラキラと輝かせると、父親を見つめた。
(うさぎしゃんの毛が、お金になるんだ……!)
ロルティは自分の力でお金を稼いだことがない。
それは正式な聖女になるまでは難しいと、養父から何度も言い聞かせられてきたからだ。
ジュロドとベッドの上に座っていたロルティが、羊皮紙とペンを使ってお絵描きを楽しんでいる時のことだった。
「神聖なる聖獣の毛糸を、独り占めするなー!」
幼子は外から男性の叫び声が何度も聞こえてきていることに気づき、首を傾げる。
(あの声、なんだろう……?)
声が遠いおかげで、どうにか怯えずに済んでいるが……。
至近距離で怒声を響かせてくるようであれば、ロルティだってお絵かきに夢中ではいられなくなっていただろう。
「きゅう……」
その証拠に、人間の憎悪に敏感なアンゴラウサギは全身を震わせ、か細い声を上げて幼子に縋る。
「なんだか、外が騒がしいね」
兄の言葉に頷いた妹は、不安そうに窓の外を見た。
「男の人、毛糸って言ってた……」
「お茶会の時、みんなでお揃いのリボンを見せびらかしたからね。その噂が回ったのかな……」
「みんなに自慢すると、ああやって大騒ぎする人が出てくるの?」
「多分この子の毛が、とっても特別だからじゃないかな……?」
「特別って、凄い?」
「そんな感じだね」
「だからうさぎしゃんは、こんなに怯えているの……?」
「むきゅう……」
兄の言葉を耳にしたロルティは、神獣を安心させるように優しく抱きしめて不安がった。
「うさぎしゃんの毛……。悪いことに使いたい人が、いるのかなぁ……?」
「きゅう……!」
獣は「ロルティと引き離されるなんて、そんなの嫌だ」と鳴いている。
ロルティはすっかりフサフサに戻った毛を優しく撫でながら、神獣の気持ちに寄り添ったせいか。
今にも泣き出しそうな顔をした。
「ロルティ。大丈夫だよ」
「でも……」
「父さんが、なんとかしてくれるはずだ」
「おとうしゃま……?」
「そうだよ。あんまり騒がしいようなら、耳栓をもらおう」
「みみせー?」
「音を、聞こえなくするんだ」
「おにいしゃまの、声も……?」
「そうだね。僕は魔法が使えないから……」
都合よく周りの音を遮断し、ジュロドの声だけが聞こえるようにするのは魔法を使わぬ限り難しい。
兄の申し訳無さそうな声を耳にしたロルティは、さらに不安が増幅する。
(何が起きてるんだろう……?)
必死に泣かないように気をつけながら嗚咽を漏らしつつ、瞳に浮かんだ涙が溢れぬようにぐっと唇を噛み締めて堪えた。
「泣かないで……」
「でも、うさぎしゃんが……!」
「――ロルティ」
ジュロドに慰められながらも、不安でどうしようもない気持ちを爆発させかけた時のことだった。
兄妹の部屋へ久方ぶりに、父親が顔を出したのは。
「おとうしゃま……」
「妹を泣かせるなど、兄の風上にも置けないな」
「まさか。ロルティは、父さんのせいで不安になっているんだ」
「俺に罪をなすりつけるな」
2人は視線を合わせた瞬間、バチバチと火花を散らし始めた。
一度こうなってしまえば、どちらかが満足するまで父親と兄の罵り合いは止まらない。
(おとうしゃまとおにいしゃまったら……。わたしのことになると、すぐに喧嘩ばっかり……)
ロルティはぷっくりと頬を膨らませ不貞腐れながら、2人の冷戦状態をアンゴラウサギとともにじっと見守った。
――5分ほど誰も口を開かぬ、気まずい空気が流れる中。
ため息を溢したジュロドは父親から視線を逸らすと、妹が涙を瞳に浮かべていた理由を知った。
「大声で、騒いでる奴がいるだろ。そいつの声を聞いて、不安がってる……」
「そうか。その件で、ロルティに相談があって来た」
「わたしに?」
「ああ。外で騒ぎを起こしている奴らは、俺が胸元につけているリボンに目をつけた。高値で毛糸を卸してほしいそうだ」
「おろ?」
「売って欲しい。これなら、理解できるか」
「うん!」
つまり捨てる予定だった毛が商品となって売買され、お金に変わると言うことだ。
ロルティは先程まで悲しんでいたのが嘘のように瞳をキラキラと輝かせると、父親を見つめた。
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ロルティは自分の力でお金を稼いだことがない。
それは正式な聖女になるまでは難しいと、養父から何度も言い聞かせられてきたからだ。
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