転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠

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8・公爵家の愛娘、命を狙われる

養父は義娘を取り戻したい(ガンウ)・1

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「おのれ! ハリスドロア公爵め……!」

 ――神殿の最深部。
 光の届かない地下室で、男性の唸り声とともに勢いよくガラスが割れる音がする。

 怒り狂う男は、神殿の司祭。
 名を、ガンウ・ヘールと言う。

 彼は自身の計画をハリスドロア公爵のせいでめちゃくちゃにされたと激怒し、整理しきれない感情を物に当たることで消化しようとしていた。

「司祭様!」
「落ち着いてください……!」
「ええい! 落ち着いてなどいられるものか! 聖女を異世界から召喚するために、何10年費やしたと思っているのだ!?」
「さ、30年です……!」
「異世界と、翡翠の瞳を持って生まれた我が国の聖女……! 2人を意のままに操り、確固たる地位を築き上げる計画が台無しではないか!」

 ガンウは溶媒ポットの中で飼育していたはずの、ミルクティーブロンドと翡翠の瞳を持つ女性がいつの間にか消失していることに気づいて苛立ちを募らせる。

「誰だ! 私の計画を邪魔するために、聖女ルティアーナを連れ出した人間は……!」
「わ、わかりません!」
「内部の犯行に決まっているだろう! 今すぐ探し出せ!」
「そ、それが……っ」

 祭司に怒鳴りつけられた神官は、明らかに挙動不審な様子を見せる。
 それを目にしたガンウが鬼の形相で睨みつけてやれば、ある報告がなされた。

「聖女キララの護衛騎士、アカイム卿が行方不明になっておりまして……」
「く……っ! おのれ……! こんなことになるなら、もっと信頼のおける人間に護衛を任せるべきだったか……!」

 司祭は悔しそうに表情を歪め、苛立ちを募らせる。

 ――ここに至るまでガンウは思い通りに進んだことのほうが少ないくらいにさまざまな紆余曲折を経験してきた。

 翡翠の瞳を持つ聖女をようやく見つけたと思えば、公爵家でメイドをしており手が出せず――やっとそこから出てきたかと思えば、妊娠中ときた。
 それから数年の時をかけてようやく母娘ともども手中に収めたはいいが、あの女はけして自身が聖なる力を使うための条件を明かさず、口を噤み続けた。

『娘がどうなってもいいのか!』
『やめて……!』

 ガンウは娘のある異変に気づくまで、母親を脅すための道具としか思っていなかった。
 しかし、よくよく観察してみれば、幼子にも彼女の身体的特徴が遺伝しているとわかる。
 こうしてガンウは思い通りにならない聖女を眠らせ、幼子を躾けて言うことを聞かせるため行動に移した。

『今日から私が、貴様の養父だ』

 ロルティの父親を自称した司祭は邪魔な母親から聖女見習いを遠ざけ、年端もいかない子どもを虐げ始めた。

 ――その結果、ガンウは奇跡を目の当たりにする。
  
『私の言うことを聞け!』
『うわああーん!』

 両手を拘束され泣き叫ぶ幼子の涙が床に溜まり、小さな水溜りを作った。

  (今どきの子どもは、根性なしばかりだな……)

 想像力が逞しいと言うべきか。
 鞭で床を叩いただけなのに、その先端が自らの身体にぶつかるのではと怯えて泣き叫ぶのだから。

  (聖騎士見習いであれば、もっと違った光景になるのだろうが……)

 司祭が目の前にいる聖女見習いを廃棄するべきか悩んでいると、床の上にできた水溜りから、ぴょこんと純白の毛が生えた長い耳らしきものが生えてきたのだ。

『な……』
『むきゅ……!』

 長い毛に覆われているせいで、手足だけではなく、瞳すらも埋もれてどこについているのかわからない。
 アンゴラウサギのような獣は、甲高い鳴き声を上げるとロルティを守るようにブルブルと全身を震わせながらガンウの前に立ちはだかった。

『ふむ……』
『きゅう! きゅ、きゅー!』

 ガンウはふさふさの毛に埋もれる垂れ耳を掴むと、そのまま謎のウサギ身体検査を行う。

  (おお! やはり、翡翠の瞳を持つ聖女は特別なのだな……!)

 ――この獣は普通のアンゴラウサギではなかった。
 聖なる力を宿す、聖獣だったのだ。
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