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8・公爵家の愛娘、命を狙われる
養父は義娘を取り戻したい(ガンウ)・2
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(聖獣を大量に召喚させて人々を恐怖に陥れたならば、私はこの国の支配者となれる……!)
黒い思考で頭の中を満たした司祭は、彼女を虐げることで獣達を大量に生み出そうとした。
(なぜだ!? 神獣が召喚されないではないか!)
しかし、その計画は失敗に終わる。
神殿内ではアンゴラウサギを一体生み出したあと、何度同じ状況下を作り出しても聖獣は生まれなかったからだ。
(あの当時は、煮え湯を飲まされたが……)
公爵の攻撃を受けながらも命からがら難を逃れた下っ端の神官から、ガンウは面白い話を聞いた。
『聖女見習い様の危機を救うため、大型犬らしき純白の神々しい毛並みの獣が屋敷の中から突如として出現したのです……! あれは間違いなく、神獣でした!』
それが事実であれば、なんらかの条件を満たすことによってやはり彼女は聖獣を生み出せるのだろう。
(どうすれば獣達を召喚できるのかは、彼女が手元に来た際に時間をかけてゆっくりと実験すればいいだけのことだ)
――いかに己の手を汚すことなく、ロルティを神殿へと連れてくるか――。
(それがわかれば、苦労はせん……!)
回想を終えた司祭は苦虫を噛み潰した顔をして、不快感を露わにする。
そんな中、ガンウの部下である神官が静かな声を響かせた。
「――諦めるのですか」
「私の辞書に、そのような言葉は存在しない!」
長い年月をかけて、願いを叶えるために尽力してきたのだ。
やっと、手を伸ばせば届く距離まで舞台を整えたのだから――ここで黙って引き下がれるわけがなかった。
「司祭様。冷静さを欠けば、それだけ我々の夢が遠のいていくかと」
「しかし義娘は、公爵家の庇護下にある……。どうやって連れ出すのだ」
「強行突破しかないでしょう」
聖騎士達は、ガンウの目的を叶えるためだけにいる。
ここで有効活用しなければどこで使うのかと神官に言われた彼は、深く考え込む。
(例の一件で、随分と数が減った。この状態で勝負を挑んだところで、勝てるわけが……)
聖騎士達は命を賭けてまでガンウに従うほど、忠誠心が高くはない。
負傷した仲間達を目にした彼らがハリスドロア公爵に恐れを抱いた姿を目の当たりにしているからこそ、勝てる見込みのない勝負を仕掛けて貴重な戦力を削るのだけは避けたかった。
(――待てよ)
熟考の末、司祭はあることに閃く。
聖騎士として紛れ込んでいた優秀な若者が、公爵家の息がかかったスパイであったことを思い出したのだ。
(我々も、同じことをすればいい)
今から潜り込ませるのは難しいだろう。
あちらも聖女として覚醒した娘を守るべく、警備を強化するはずだ。
ならばすでに公爵家で働いている人々へ身辺調査を行えばいい。
弱みのある人間を脅せば――少ない人数で簡単に、聖女が手に入る。
「君もたまには、いいことを言うじゃないか」
「司祭様にお褒め頂き、大変光栄です」
この神官には、どうしてもあの儀式を行わなければならない理由がある。
そう簡単に裏切るような人間ではない。
(たとえ私が息絶えたとしても、我々の意志は彼が引き継いでくれるだろう)
たとえ自らの命を引き換えにしても、必ず聖女を手に入れてみせる。
そう決心した彼は、ガンウは最悪の場合を想定して行動すると決めた。
「我々神殿は、聖女見習いロルティを真の聖女として認める。洗礼の義を行うとでも言って、彼女を呼び出せ」
「はっ」
「応じないようなら……。次の段階に移行する」
「かしこまりました」
冷静さを取り戻した彼は、床に散らばった破片を踏みしめながら地下を出る。
――痛みなど感じなかった。
彼の頭の中は、初めて義娘を虐げた際に目にした奇跡でいっぱいだったからだ。
(今に見ていろ)
ガンウは歪な笑みを浮かべ、地下室から地上に繋がる階段を登り始めた。
黒い思考で頭の中を満たした司祭は、彼女を虐げることで獣達を大量に生み出そうとした。
(なぜだ!? 神獣が召喚されないではないか!)
しかし、その計画は失敗に終わる。
神殿内ではアンゴラウサギを一体生み出したあと、何度同じ状況下を作り出しても聖獣は生まれなかったからだ。
(あの当時は、煮え湯を飲まされたが……)
公爵の攻撃を受けながらも命からがら難を逃れた下っ端の神官から、ガンウは面白い話を聞いた。
『聖女見習い様の危機を救うため、大型犬らしき純白の神々しい毛並みの獣が屋敷の中から突如として出現したのです……! あれは間違いなく、神獣でした!』
それが事実であれば、なんらかの条件を満たすことによってやはり彼女は聖獣を生み出せるのだろう。
(どうすれば獣達を召喚できるのかは、彼女が手元に来た際に時間をかけてゆっくりと実験すればいいだけのことだ)
――いかに己の手を汚すことなく、ロルティを神殿へと連れてくるか――。
(それがわかれば、苦労はせん……!)
回想を終えた司祭は苦虫を噛み潰した顔をして、不快感を露わにする。
そんな中、ガンウの部下である神官が静かな声を響かせた。
「――諦めるのですか」
「私の辞書に、そのような言葉は存在しない!」
長い年月をかけて、願いを叶えるために尽力してきたのだ。
やっと、手を伸ばせば届く距離まで舞台を整えたのだから――ここで黙って引き下がれるわけがなかった。
「司祭様。冷静さを欠けば、それだけ我々の夢が遠のいていくかと」
「しかし義娘は、公爵家の庇護下にある……。どうやって連れ出すのだ」
「強行突破しかないでしょう」
聖騎士達は、ガンウの目的を叶えるためだけにいる。
ここで有効活用しなければどこで使うのかと神官に言われた彼は、深く考え込む。
(例の一件で、随分と数が減った。この状態で勝負を挑んだところで、勝てるわけが……)
聖騎士達は命を賭けてまでガンウに従うほど、忠誠心が高くはない。
負傷した仲間達を目にした彼らがハリスドロア公爵に恐れを抱いた姿を目の当たりにしているからこそ、勝てる見込みのない勝負を仕掛けて貴重な戦力を削るのだけは避けたかった。
(――待てよ)
熟考の末、司祭はあることに閃く。
聖騎士として紛れ込んでいた優秀な若者が、公爵家の息がかかったスパイであったことを思い出したのだ。
(我々も、同じことをすればいい)
今から潜り込ませるのは難しいだろう。
あちらも聖女として覚醒した娘を守るべく、警備を強化するはずだ。
ならばすでに公爵家で働いている人々へ身辺調査を行えばいい。
弱みのある人間を脅せば――少ない人数で簡単に、聖女が手に入る。
「君もたまには、いいことを言うじゃないか」
「司祭様にお褒め頂き、大変光栄です」
この神官には、どうしてもあの儀式を行わなければならない理由がある。
そう簡単に裏切るような人間ではない。
(たとえ私が息絶えたとしても、我々の意志は彼が引き継いでくれるだろう)
たとえ自らの命を引き換えにしても、必ず聖女を手に入れてみせる。
そう決心した彼は、ガンウは最悪の場合を想定して行動すると決めた。
「我々神殿は、聖女見習いロルティを真の聖女として認める。洗礼の義を行うとでも言って、彼女を呼び出せ」
「はっ」
「応じないようなら……。次の段階に移行する」
「かしこまりました」
冷静さを取り戻した彼は、床に散らばった破片を踏みしめながら地下を出る。
――痛みなど感じなかった。
彼の頭の中は、初めて義娘を虐げた際に目にした奇跡でいっぱいだったからだ。
(今に見ていろ)
ガンウは歪な笑みを浮かべ、地下室から地上に繋がる階段を登り始めた。
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