【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる

春野オカリナ

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アリスティア編

失われた記憶

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 一週間後、再び先生のいる薬学教室を訪れた私を待っていたのはメイドのリンだった。

 「ご主人様からこちらを預かっています」

 それは私宛の手紙だった。手紙の中には暫く会えない事を記してあった。

 嫌われたかな。お礼も言わずにいたし。

 セバスに聞いた話ではあの時、私は大声で怒鳴ったらしいし、記憶がないけど気味が悪いよね。

 自分でもよく分からなかった。昔から記憶がとぶことはあったらしいのだが、この間は半日分の記憶が抜けている。


 【記憶欠乏症】


 医師の話ではストレスや恐ろしい目にあった人間が、防衛本能で記憶を閉じてしまう事があると言うことだ。私がその病に掛かったのは5才くらいの頃かららしい。

 私は5才と聞いて、母のあの行動と関係があるような気がする。祖父は何かを知っているが、「忘れてしまいなさい」と言ってくれている。

 私も怖い。5才の時に何があったのか。知るのは、知ってしまったら私はどうなるのだろう。

 よく、記憶喪失の患者は記憶を取り戻すとそれと引き換えに喪失時の事を忘れてしまう事があると言う。そんな事になったら、5才の私になったらどうすればいいのだろう。

 考えても仕方のないことが頭の中を支配していく。考え事をしていたら停留所に着いた。でもそこで待っていたのはケロイド様だった。

 「この前はよくも騙してくれたな。お前が『午前0時のシンデレラ』だったんだな。それならどうして俺がエリーゼといる事を咎めなかったんだ」

 「私が公爵令嬢だと貴方は知っていたでしょう。何を今更言っているの」
 
 「うるさい!お前のせいでエリーゼがどんな目にあっていると思っているんだ!」

 私の頭には疑問しかなかった。

 エリーゼって誰の事?そんな人知らないわ。

 一体、ケロイド様は何を言っているの?

 欠落した記憶を持つ私は、関わりたくない相手を自動的に削除していたのだ。

 私はあの一家を忘れている。顔も姿すらも思い出せない。

 ただ、頭に響くのは、母の呪いの言葉だけ。

ーーああ、貴女はなんてオーウェンに似ているのーー

 その言葉を思い出した時、私はあの男オーウェンが存在する事に気付いたのだ。

 そして、また頭が痛みだす。

 割れるような頭を抱えながら、蹲っていると、遠くから声が聞こえる。

 「全てを思い出すのはまだ早い」 

 早鐘のような鼓動を感じながら、声の主は直ぐ側まで来ていた。
 
 「大丈夫ですの?気分はどう?」
  
 心配そうに覗き込んでくれるのは、エミリーナ様。
 
  それに続いているのが、ルミエル様、アイリーン様、ローラン様……。

 でも、本当に駆けつけて欲しい人は今はいない。

 意識が混濁する中、記憶の扉が全て開いていく。全身が凍るよう様な寒さを感じて。

 ああ、私は5才の子供の記憶の底に身を沈めたのだった。


  そこで、見た光景とは……。





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