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アリスティア編
母と云う人
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5才の誕生日から父は別邸で暮らし始めた。私の言葉がきっかけで祖父が私と顔を会わさない様に指示したらしい。
原因は、どうやら私の病に関係があるようで、あの一家に会うと病状が悪化する一方、だから会わせない方がいいと両家で決めたことの様だ。
あの後、魔女とエリーゼは先に帰されたが、父は話し合いの為、祖父母たちと一緒に祖父の執務室に行った。
ただ言える事は、私はあの事がきっかけで5才までの記憶が失われた。それも『愛されている』という真実だけが抜け落ちている。
そして、母はあることをし出したのだ。
それは私に男の子の格好をして過ごさせる事。
理由は、父の顔を思い出す事が出来なくなってしまったからだった。
「お願いよ。アリスティア。貴女の父親はオーウェンよ。オーウェン・クロムウェル。忘れてはダメよ。さあ、言ってみて」
「おー…オーウェン」
「そうよ。忘れないであげてね。とてもさびしがり屋の人だから。娘に忘れられると悲しむわ」
毎日、日課の様に母の執務室に呼ばれてはこう聞かされ、言わされ続けられた。優しい微笑みを浮かべながら、でも私の記憶は塗り替えられ、魔女と母が混同されたのだ。そして呪縛となって、私を更に苦しめる。
段々鬱病の様になっていく私を心配した王家が個人的に私達、母子をお茶会に招いた。その席には王子達以外にも本当はエミリーナ様達もいたのだ。
私は彼女達を覚えている事が出来ず、会うたびに
「初めまして、どなた様ですか?」
を連発していたように思う。
今考えれば、こんな面倒な子供を見捨てずに、親切で根気よく付き合ってくれた彼らに今更ながら感謝したい。
いつか記憶が定着すれば言葉にするつもりだ。
有難う。貴女方の支えがあったからこそ、生きて来れたのだと。
母の行動は奇妙な事ばかりで、毎日日記をつける様にさせられただけでなく。至る所に私の日々のスケジュールや今からやろうとしていた事をメモにして残す様に言われた。
それは悪化し続ける私の病状との戦いの日々でもあった。父を忘れなくなった頃、私は父と呼ぶようになっていく。
母はこの頃から体調を崩し、部屋に引き籠りがちになっていた。祖父は広大な領地、経営に私の病気までは手が回らなかった。全て母が一人で担っている。
母の部屋から聞こえてきた物音は、母が発作を起こして周りの物を落としたから。
侍女達の悲鳴は、母が倒れる度に慌てて声が大きくなっただけ。
時々、怪我をして出てきた侍女や従僕は、落ちた物を片付けようとして指を切ったり、倒れそうになる母を庇って痣ができたものだった。
その証拠に誰も屋敷を辞めていない。
傍に寄せ付けなくなったは、持病が悪化してやつれていく姿を見せたくなかったからだ。
おかしいのは私の記憶。病んでいたのは私の心だった。
勝手に見た物を真実だと記憶が塗り替えられ、忘れていっただけのこと。全ては誤解だった。
だって、私は母に愛されていた。他の子供よりも。
こんなに愛されていたのに愚かな私は、母を怖がり、恨んでいた。
最後の記憶も手に入れた。
母の葬儀の時に祖父が言ったあの言葉
「全てを終わらせ、始めるのはお前次第だよ。アリスティア。強く生きなさい。お前の母の様に。公爵令嬢として」
私は試されている。王家に公爵家に貴族にそして何より亡くなった母に……
もう変装はいらない。地味な姿ともさよならだ。私の心は晴れた空の様に澄んでいる。頭の中の靄もなく記憶が鮮明に蘇っている。
誰かに問われたら、今の私は答えられる
私は
ーーー公爵令嬢。アリスティア・クロムウェルーーーー
だと。胸を張ってそう言える。
原因は、どうやら私の病に関係があるようで、あの一家に会うと病状が悪化する一方、だから会わせない方がいいと両家で決めたことの様だ。
あの後、魔女とエリーゼは先に帰されたが、父は話し合いの為、祖父母たちと一緒に祖父の執務室に行った。
ただ言える事は、私はあの事がきっかけで5才までの記憶が失われた。それも『愛されている』という真実だけが抜け落ちている。
そして、母はあることをし出したのだ。
それは私に男の子の格好をして過ごさせる事。
理由は、父の顔を思い出す事が出来なくなってしまったからだった。
「お願いよ。アリスティア。貴女の父親はオーウェンよ。オーウェン・クロムウェル。忘れてはダメよ。さあ、言ってみて」
「おー…オーウェン」
「そうよ。忘れないであげてね。とてもさびしがり屋の人だから。娘に忘れられると悲しむわ」
毎日、日課の様に母の執務室に呼ばれてはこう聞かされ、言わされ続けられた。優しい微笑みを浮かべながら、でも私の記憶は塗り替えられ、魔女と母が混同されたのだ。そして呪縛となって、私を更に苦しめる。
段々鬱病の様になっていく私を心配した王家が個人的に私達、母子をお茶会に招いた。その席には王子達以外にも本当はエミリーナ様達もいたのだ。
私は彼女達を覚えている事が出来ず、会うたびに
「初めまして、どなた様ですか?」
を連発していたように思う。
今考えれば、こんな面倒な子供を見捨てずに、親切で根気よく付き合ってくれた彼らに今更ながら感謝したい。
いつか記憶が定着すれば言葉にするつもりだ。
有難う。貴女方の支えがあったからこそ、生きて来れたのだと。
母の行動は奇妙な事ばかりで、毎日日記をつける様にさせられただけでなく。至る所に私の日々のスケジュールや今からやろうとしていた事をメモにして残す様に言われた。
それは悪化し続ける私の病状との戦いの日々でもあった。父を忘れなくなった頃、私は父と呼ぶようになっていく。
母はこの頃から体調を崩し、部屋に引き籠りがちになっていた。祖父は広大な領地、経営に私の病気までは手が回らなかった。全て母が一人で担っている。
母の部屋から聞こえてきた物音は、母が発作を起こして周りの物を落としたから。
侍女達の悲鳴は、母が倒れる度に慌てて声が大きくなっただけ。
時々、怪我をして出てきた侍女や従僕は、落ちた物を片付けようとして指を切ったり、倒れそうになる母を庇って痣ができたものだった。
その証拠に誰も屋敷を辞めていない。
傍に寄せ付けなくなったは、持病が悪化してやつれていく姿を見せたくなかったからだ。
おかしいのは私の記憶。病んでいたのは私の心だった。
勝手に見た物を真実だと記憶が塗り替えられ、忘れていっただけのこと。全ては誤解だった。
だって、私は母に愛されていた。他の子供よりも。
こんなに愛されていたのに愚かな私は、母を怖がり、恨んでいた。
最後の記憶も手に入れた。
母の葬儀の時に祖父が言ったあの言葉
「全てを終わらせ、始めるのはお前次第だよ。アリスティア。強く生きなさい。お前の母の様に。公爵令嬢として」
私は試されている。王家に公爵家に貴族にそして何より亡くなった母に……
もう変装はいらない。地味な姿ともさよならだ。私の心は晴れた空の様に澄んでいる。頭の中の靄もなく記憶が鮮明に蘇っている。
誰かに問われたら、今の私は答えられる
私は
ーーー公爵令嬢。アリスティア・クロムウェルーーーー
だと。胸を張ってそう言える。
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