42 / 52
ローフェル編
隣国の王弟
しおりを挟む
一週間ほど前の事だった。急に院長から呼び出しを受けた私は
「隣国の王弟殿下がこの国の神殿で栽培している薬草園を視察に来られます。その対応をお願いします」
「私のような身元の怪しい者では問題になるのでは?」
「確かに貴方の言い分は解りますが、向こうも護衛を引連れてやってくるのです。それに7年も貴方を見てきましたが、悪い人間でない事は、私達救護施設の者が知っています。何より貴方自身が隣国の人間です。もしかしたら殿下から貴方の身元について何か情報が得られるかもしれませんよ」
確かに院長の言うとおりだ。
今まで平民だと思っていたが、貴族なら王族の手を借りれば自分の事がもっと早く分かるかもしれない。
私はこのチャンスに掛ける事にした。
もう7年もこのままの状態だ。医師が言うには何か思い出すきっかけがあればいいのだがと告げられた事がある。
隣国の王弟殿下と隣国の言葉で話せば、何か思い出せるかもしれない。藁にも縋る思いでその日を待っていた。
隣国の王弟殿下レイラン様は物静かな青年で、その佇まいは絵の様に美しかった。
話す時も何か言葉を選んでいるようなそんな慎重な仕種をしていた。
挨拶以外で時折、私を不思議そうに見つめる彼の視線が気になる。
それと同時に護衛達のざわざわ、ひそひそと、何か確認し合っているようなそんな囁きが聞こえてくるのもだ。
「失礼ですが、貴方のお名前を教えてもらっても良いだろうか?」
ふいに殿下に名を聞かれたが、答える名前が無かった。
「実は私は記憶がないのです。ここではアスベスと呼ばれています」
「そうですか。住んでいた所や家族に関することもですか?」
「はい、殿下の国の人間だという事は解っているのですが、それ以外は……」
私は記憶にある赤い女と少女の事を話すべきか躊躇した。見知らぬ王族にこんな事を話して良いのか判断しかねたのだ。
「思い出している事があれば言って頂ければ私が力になれることもあるかも知れません。話して下さい」
殿下は静かにそれでいて丁寧に伝えてきた。思い切って私は記憶の断片を殿下に話してみた。
「時々、赤い物を見ると赤い髪の女性と少女が見えるのです。頭に浮かぶのですが、顔と名前が思い出せません。隣国で赤い髪はよくある色なのでしょうか?」
「いいえ、赤い髪は限られた一族のみの特徴なのです。我が国には一つの公爵家の人間しか持っていない髪の色です。その公爵家はクロムウェルと言います」
「ク…クロムウェル公爵…家…う…ううっ」
クロムウェル公爵家の名前を聞いた途端、激しく頭が痛みだす。殿下は、護衛と近習に何か言伝を頼んだ様で私はそまま意識を失った。
隣国の王族の前でなんという失態を犯したのだろう。この施設におとがめが無ければいいのだが。
目覚めた私はベットの中で自分のした事を深く反省した。
だが、殿下から何のお咎めもなく反ってお見舞いの言葉を頂いたのには驚いた。
それからは、何事もなくいつも通りの日常が戻ったのだが、今度は隣国クロムウェル公爵自らの訪問を受ける事になったのだ。
一体私は何者で誰なのだろうか?こんな高位貴族が態々、隣の国まで足を延ばす程の人間なのだろうか?
多くの疑問が頭の中を駆け巡る中、公爵と対面した時、僅かな希望が生まれたのだ。
そうだ、私には妻と娘がいた事を。
完全ではないが、娘の名前だけは思い出せたのだ。
私の大切な愛しい娘。
アリスティア・クロムウェルの事を。
「隣国の王弟殿下がこの国の神殿で栽培している薬草園を視察に来られます。その対応をお願いします」
「私のような身元の怪しい者では問題になるのでは?」
「確かに貴方の言い分は解りますが、向こうも護衛を引連れてやってくるのです。それに7年も貴方を見てきましたが、悪い人間でない事は、私達救護施設の者が知っています。何より貴方自身が隣国の人間です。もしかしたら殿下から貴方の身元について何か情報が得られるかもしれませんよ」
確かに院長の言うとおりだ。
今まで平民だと思っていたが、貴族なら王族の手を借りれば自分の事がもっと早く分かるかもしれない。
私はこのチャンスに掛ける事にした。
もう7年もこのままの状態だ。医師が言うには何か思い出すきっかけがあればいいのだがと告げられた事がある。
隣国の王弟殿下と隣国の言葉で話せば、何か思い出せるかもしれない。藁にも縋る思いでその日を待っていた。
隣国の王弟殿下レイラン様は物静かな青年で、その佇まいは絵の様に美しかった。
話す時も何か言葉を選んでいるようなそんな慎重な仕種をしていた。
挨拶以外で時折、私を不思議そうに見つめる彼の視線が気になる。
それと同時に護衛達のざわざわ、ひそひそと、何か確認し合っているようなそんな囁きが聞こえてくるのもだ。
「失礼ですが、貴方のお名前を教えてもらっても良いだろうか?」
ふいに殿下に名を聞かれたが、答える名前が無かった。
「実は私は記憶がないのです。ここではアスベスと呼ばれています」
「そうですか。住んでいた所や家族に関することもですか?」
「はい、殿下の国の人間だという事は解っているのですが、それ以外は……」
私は記憶にある赤い女と少女の事を話すべきか躊躇した。見知らぬ王族にこんな事を話して良いのか判断しかねたのだ。
「思い出している事があれば言って頂ければ私が力になれることもあるかも知れません。話して下さい」
殿下は静かにそれでいて丁寧に伝えてきた。思い切って私は記憶の断片を殿下に話してみた。
「時々、赤い物を見ると赤い髪の女性と少女が見えるのです。頭に浮かぶのですが、顔と名前が思い出せません。隣国で赤い髪はよくある色なのでしょうか?」
「いいえ、赤い髪は限られた一族のみの特徴なのです。我が国には一つの公爵家の人間しか持っていない髪の色です。その公爵家はクロムウェルと言います」
「ク…クロムウェル公爵…家…う…ううっ」
クロムウェル公爵家の名前を聞いた途端、激しく頭が痛みだす。殿下は、護衛と近習に何か言伝を頼んだ様で私はそまま意識を失った。
隣国の王族の前でなんという失態を犯したのだろう。この施設におとがめが無ければいいのだが。
目覚めた私はベットの中で自分のした事を深く反省した。
だが、殿下から何のお咎めもなく反ってお見舞いの言葉を頂いたのには驚いた。
それからは、何事もなくいつも通りの日常が戻ったのだが、今度は隣国クロムウェル公爵自らの訪問を受ける事になったのだ。
一体私は何者で誰なのだろうか?こんな高位貴族が態々、隣の国まで足を延ばす程の人間なのだろうか?
多くの疑問が頭の中を駆け巡る中、公爵と対面した時、僅かな希望が生まれたのだ。
そうだ、私には妻と娘がいた事を。
完全ではないが、娘の名前だけは思い出せたのだ。
私の大切な愛しい娘。
アリスティア・クロムウェルの事を。
15
あなたにおすすめの小説
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
嘘つきな貴方を捨てさせていただきます
梨丸
恋愛
断頭台に上がった公爵令嬢フレイアが最期に聞いた言葉は最愛の婚約者の残忍な言葉だった。
「さっさと死んでくれ」
フレイアを断頭台へと導いたのは最愛の婚約者だった。
愛していると言ってくれたのは嘘だったのね。
嘘つきな貴方なんて、要らない。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
11/27HOTランキング5位ありがとうございます。
※短編と長編の狭間のような長さになりそうなので、短編にするかもしれません。
1/2累計ポイント100万突破、ありがとうございます。
完結小説ランキング恋愛部門8位ありがとうございます。
【完結】祈りの果て、君を想う
とっくり
恋愛
華やかな美貌を持つ妹・ミレイア。
静かに咲く野花のような癒しを湛える姉・リリエル。
騎士の青年・ラズは、二人の姉妹の間で揺れる心に気づかぬまま、運命の選択を迫られていく。
そして、修道院に身を置いたリリエルの前に現れたのは、
ひょうひょうとした元軍人の旅人──実は王族の血を引く男・ユリアン。
愛するとは、選ばれることか。選ぶことか。
沈黙と祈りの果てに、誰の想いが届くのか。
運命ではなく、想いで人を愛するとき。
その愛は、誰のもとに届くのか──
※短編から長編に変更いたしました。
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]
風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが
王命により皇太子の元に嫁ぎ
無能と言われた夫を支えていた
ある日突然
皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を
第2夫人迎えたのだった
マルティナは初恋の人である
第2皇子であった彼を新皇帝にするべく
動き出したのだった
マルティナは時間をかけながら
じっくりと王家を牛耳り
自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け
理想の人生を作り上げていく
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる