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ローフェル編
帰国
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隣国の公爵が直々に私に会いたいと神殿にきた。
公爵ともなれば部下を寄越して話をすればいいのに、態々隣国まで足を運ぶなんて…
自分にそれ程の価値があるのだろうか?
訝しみながら、私は神殿にある応接室の扉を開けた。
一番最初に目に入ったのは公爵の見事な髪。薔薇を連想しそうな赤。若干白髪が混ざっているが見事な深紅。
公爵の顔を見て、何だか知っているこの人を……。
この人を超えたくて背中を追っていたようなそんな気がする。
「私を覚えているかね?記憶を失っていると聞いたが、何か思い出した事はないだろうか」
「分かりません。ただ、赤い髪の女性と子供の姿が頭に浮かぶのです」
「ああ、君は結婚していて、その女と子供は君の妻と娘だよ。本当はここへ連れてきてやりたかったのだが、生憎こちらにも事情があってね」
「そうですか。私も会ってみたいです。会えば何か思い出すかも知れません」
「そうだな。相談なんだが、君を公爵家の客人として招き入れたいんだが、いくら私達が君が私の娘婿だと言っても、実は君は既に死んだものとされている。それに……」
「何か不都合な事があるのでしょうか?」
「実は娘は再婚しているんだよ。相手は君の弟だ。オーウェンという名の……」
「お…オーウェン。だって……だ…ダメだ。あいつだけはダメなんだ。ああ…か…のじょは…しあ…わせにな…れな……い」
「な…何か思い出したのか?」
『オーウェン』という名前を聞いた途端、頭が痛みだす。
痛みで頭を抱え込みながら蹲っている私に、公爵は駆け寄り、抱きしめてくれた。
昔、こんな風に誰かに抱きしめられたことがある様なそんな気がする。
しかし、身元を証明する書類が無い以上、神殿側は引き渡しを拒否した。一度、公爵は出直すと言って国に帰って行った。
その間、私の郷愁の想いは深まっていく。
早く帰って大切な人を守らなければという思いで。
そんなもどかしい思いを抱えながら過ごしていた私の所に、再び侯爵は2か月後にやって来た。
今度は身分証明書を王家経由で、だが、その特徴もあの事故に遭った時に傷を負ったせいで、肩の痣もあやふやな状態になっていた。
傷まみれになっていて、痕跡が無くなっている。
もう、私を証明する物は、何もないのだろうかと絶望にも似た感覚で打ちひしがれる私に
「君に訊ねたい事があるんだが、君はもしかして今も持っているんじゃないか?これを」
公爵が見せたのはお守りで、隣国では『髪結び』と呼ばれるものだった。
夫婦や恋人、家族が昔、戦場に行く彼らの無事の帰還を願って、お互いの髪を結び合わせて作るお守り。
「持っています。それを同じものを」
私は慌てて自室に戻ってその『髪結び』をとって公爵に見せると、
「これには特殊な仕掛けがあってね」
そう言いながら、神殿の祭祀や神官・救護施設の院長らの前でばらばらに分解した。
自分の髪と相手の髪を解くと、中から公爵家の紋章が刺繍された布が現れた。
布の裏には
『ローフェルの無事をお祈りしています。アデライト・クロムウェル』
そう刺繍されていた。
全員が確認した後、神殿側も私がローフェル・クロムウェルだと認め、自国に帰ることを許された。
公爵と一緒に帰りたかったが、手続き等で2カ月程伸びてしまう。
結局、レイラン殿下が帰郷する時に同行させてもらう事になったのだ。
私が世話になった神殿や救護施設の人々と別れて、公爵家に戻ったのは、もう夏も終わりかけの頃。
公爵家の使用人らに出迎えられたが、記憶があやふやな私は何処か居心地が悪かった。
「若旦那様、奥様とお嬢様が中庭でお待ちです」
妻がいるとは聞かされていたが、出迎えないのは何故か不思議に思っていた私の心を見透かす様に、執事のセバスがそう教えてくれた。
中庭には色とりどりの花と料理がテーブルに並べられ、天気もいい事から私と外で昼食を摂るつもりだったらしい。
予定より早く着いてしまった私を出迎えに行くより、準備を優先したようだ。
「お母様、あちらに誰か知らない人がいます」
少女の声が聞こえてきた。髪は頭に浮かんだあの赤い髪。だがより鮮明な赤。
「知らない人ではないわ。彼は貴方のお父様『ローフェル』よ」
「え、『オーウェン』お父様?いつもここにはお出でにならないでしょう」
少女と母親の会話が噛みあわないのを疑問に思いながら、その笑顔につられて私も微笑んでいる。
「挨拶しましょう。アリスティア」
母親らしい女性の声でハッとする。
その赤い髪の美しい女性は、中庭の花々よりも美しく大輪の薔薇のように咲き誇っていた。
傍らの少女が
「初めましてお父様。アリスティアです」
そう告げた。彼女の顔を見て、自然と頬にキスをする。
ギュッと首に腕を回された時、頭の中の靄の一部が晴れた気がした。
ああ、この子を知っている。ずっと会いたかった私の娘。アリスティア。
「初めてではないよアリスティア。私の可愛いお姫様。愛しい娘」
「思い出したのですか?」
弾んだ声で、嬉しそうに私に手を刺しのばそうとする赤い髪の女性に
「思い出したのは娘だけだ。君の事はまだ分からない」
そう言うと、手は空を彷徨って、次第に下に垂れ下がった。自分の両腕で自らを守る様に抱きしめながら俯く。
双方の瞳は潤んでいた。唇を噛んでいるのが解るのは、私が彼女を拒絶したからだろう。
アリスティアを抱き上げながら、その美しい女性の悲しげな表情にゾクゾクと体中、甘い痺れが走るのを感じた。
この女が欲しい。
そう思っている私に気付いた時にはもう遅い。
二度目の恋に落ちていたのだ。
ーーーアデライト・クロムウェルに。
公爵ともなれば部下を寄越して話をすればいいのに、態々隣国まで足を運ぶなんて…
自分にそれ程の価値があるのだろうか?
訝しみながら、私は神殿にある応接室の扉を開けた。
一番最初に目に入ったのは公爵の見事な髪。薔薇を連想しそうな赤。若干白髪が混ざっているが見事な深紅。
公爵の顔を見て、何だか知っているこの人を……。
この人を超えたくて背中を追っていたようなそんな気がする。
「私を覚えているかね?記憶を失っていると聞いたが、何か思い出した事はないだろうか」
「分かりません。ただ、赤い髪の女性と子供の姿が頭に浮かぶのです」
「ああ、君は結婚していて、その女と子供は君の妻と娘だよ。本当はここへ連れてきてやりたかったのだが、生憎こちらにも事情があってね」
「そうですか。私も会ってみたいです。会えば何か思い出すかも知れません」
「そうだな。相談なんだが、君を公爵家の客人として招き入れたいんだが、いくら私達が君が私の娘婿だと言っても、実は君は既に死んだものとされている。それに……」
「何か不都合な事があるのでしょうか?」
「実は娘は再婚しているんだよ。相手は君の弟だ。オーウェンという名の……」
「お…オーウェン。だって……だ…ダメだ。あいつだけはダメなんだ。ああ…か…のじょは…しあ…わせにな…れな……い」
「な…何か思い出したのか?」
『オーウェン』という名前を聞いた途端、頭が痛みだす。
痛みで頭を抱え込みながら蹲っている私に、公爵は駆け寄り、抱きしめてくれた。
昔、こんな風に誰かに抱きしめられたことがある様なそんな気がする。
しかし、身元を証明する書類が無い以上、神殿側は引き渡しを拒否した。一度、公爵は出直すと言って国に帰って行った。
その間、私の郷愁の想いは深まっていく。
早く帰って大切な人を守らなければという思いで。
そんなもどかしい思いを抱えながら過ごしていた私の所に、再び侯爵は2か月後にやって来た。
今度は身分証明書を王家経由で、だが、その特徴もあの事故に遭った時に傷を負ったせいで、肩の痣もあやふやな状態になっていた。
傷まみれになっていて、痕跡が無くなっている。
もう、私を証明する物は、何もないのだろうかと絶望にも似た感覚で打ちひしがれる私に
「君に訊ねたい事があるんだが、君はもしかして今も持っているんじゃないか?これを」
公爵が見せたのはお守りで、隣国では『髪結び』と呼ばれるものだった。
夫婦や恋人、家族が昔、戦場に行く彼らの無事の帰還を願って、お互いの髪を結び合わせて作るお守り。
「持っています。それを同じものを」
私は慌てて自室に戻ってその『髪結び』をとって公爵に見せると、
「これには特殊な仕掛けがあってね」
そう言いながら、神殿の祭祀や神官・救護施設の院長らの前でばらばらに分解した。
自分の髪と相手の髪を解くと、中から公爵家の紋章が刺繍された布が現れた。
布の裏には
『ローフェルの無事をお祈りしています。アデライト・クロムウェル』
そう刺繍されていた。
全員が確認した後、神殿側も私がローフェル・クロムウェルだと認め、自国に帰ることを許された。
公爵と一緒に帰りたかったが、手続き等で2カ月程伸びてしまう。
結局、レイラン殿下が帰郷する時に同行させてもらう事になったのだ。
私が世話になった神殿や救護施設の人々と別れて、公爵家に戻ったのは、もう夏も終わりかけの頃。
公爵家の使用人らに出迎えられたが、記憶があやふやな私は何処か居心地が悪かった。
「若旦那様、奥様とお嬢様が中庭でお待ちです」
妻がいるとは聞かされていたが、出迎えないのは何故か不思議に思っていた私の心を見透かす様に、執事のセバスがそう教えてくれた。
中庭には色とりどりの花と料理がテーブルに並べられ、天気もいい事から私と外で昼食を摂るつもりだったらしい。
予定より早く着いてしまった私を出迎えに行くより、準備を優先したようだ。
「お母様、あちらに誰か知らない人がいます」
少女の声が聞こえてきた。髪は頭に浮かんだあの赤い髪。だがより鮮明な赤。
「知らない人ではないわ。彼は貴方のお父様『ローフェル』よ」
「え、『オーウェン』お父様?いつもここにはお出でにならないでしょう」
少女と母親の会話が噛みあわないのを疑問に思いながら、その笑顔につられて私も微笑んでいる。
「挨拶しましょう。アリスティア」
母親らしい女性の声でハッとする。
その赤い髪の美しい女性は、中庭の花々よりも美しく大輪の薔薇のように咲き誇っていた。
傍らの少女が
「初めましてお父様。アリスティアです」
そう告げた。彼女の顔を見て、自然と頬にキスをする。
ギュッと首に腕を回された時、頭の中の靄の一部が晴れた気がした。
ああ、この子を知っている。ずっと会いたかった私の娘。アリスティア。
「初めてではないよアリスティア。私の可愛いお姫様。愛しい娘」
「思い出したのですか?」
弾んだ声で、嬉しそうに私に手を刺しのばそうとする赤い髪の女性に
「思い出したのは娘だけだ。君の事はまだ分からない」
そう言うと、手は空を彷徨って、次第に下に垂れ下がった。自分の両腕で自らを守る様に抱きしめながら俯く。
双方の瞳は潤んでいた。唇を噛んでいるのが解るのは、私が彼女を拒絶したからだろう。
アリスティアを抱き上げながら、その美しい女性の悲しげな表情にゾクゾクと体中、甘い痺れが走るのを感じた。
この女が欲しい。
そう思っている私に気付いた時にはもう遅い。
二度目の恋に落ちていたのだ。
ーーーアデライト・クロムウェルに。
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