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ローフェル編
隣国の王弟
一週間ほど前の事だった。急に院長から呼び出しを受けた私は
「隣国の王弟殿下がこの国の神殿で栽培している薬草園を視察に来られます。その対応をお願いします」
「私のような身元の怪しい者では問題になるのでは?」
「確かに貴方の言い分は解りますが、向こうも護衛を引連れてやってくるのです。それに7年も貴方を見てきましたが、悪い人間でない事は、私達救護施設の者が知っています。何より貴方自身が隣国の人間です。もしかしたら殿下から貴方の身元について何か情報が得られるかもしれませんよ」
確かに院長の言うとおりだ。
今まで平民だと思っていたが、貴族なら王族の手を借りれば自分の事がもっと早く分かるかもしれない。
私はこのチャンスに掛ける事にした。
もう7年もこのままの状態だ。医師が言うには何か思い出すきっかけがあればいいのだがと告げられた事がある。
隣国の王弟殿下と隣国の言葉で話せば、何か思い出せるかもしれない。藁にも縋る思いでその日を待っていた。
隣国の王弟殿下レイラン様は物静かな青年で、その佇まいは絵の様に美しかった。
話す時も何か言葉を選んでいるようなそんな慎重な仕種をしていた。
挨拶以外で時折、私を不思議そうに見つめる彼の視線が気になる。
それと同時に護衛達のざわざわ、ひそひそと、何か確認し合っているようなそんな囁きが聞こえてくるのもだ。
「失礼ですが、貴方のお名前を教えてもらっても良いだろうか?」
ふいに殿下に名を聞かれたが、答える名前が無かった。
「実は私は記憶がないのです。ここではアスベスと呼ばれています」
「そうですか。住んでいた所や家族に関することもですか?」
「はい、殿下の国の人間だという事は解っているのですが、それ以外は……」
私は記憶にある赤い女と少女の事を話すべきか躊躇した。見知らぬ王族にこんな事を話して良いのか判断しかねたのだ。
「思い出している事があれば言って頂ければ私が力になれることもあるかも知れません。話して下さい」
殿下は静かにそれでいて丁寧に伝えてきた。思い切って私は記憶の断片を殿下に話してみた。
「時々、赤い物を見ると赤い髪の女性と少女が見えるのです。頭に浮かぶのですが、顔と名前が思い出せません。隣国で赤い髪はよくある色なのでしょうか?」
「いいえ、赤い髪は限られた一族のみの特徴なのです。我が国には一つの公爵家の人間しか持っていない髪の色です。その公爵家はクロムウェルと言います」
「ク…クロムウェル公爵…家…う…ううっ」
クロムウェル公爵家の名前を聞いた途端、激しく頭が痛みだす。殿下は、護衛と近習に何か言伝を頼んだ様で私はそまま意識を失った。
隣国の王族の前でなんという失態を犯したのだろう。この施設におとがめが無ければいいのだが。
目覚めた私はベットの中で自分のした事を深く反省した。
だが、殿下から何のお咎めもなく反ってお見舞いの言葉を頂いたのには驚いた。
それからは、何事もなくいつも通りの日常が戻ったのだが、今度は隣国クロムウェル公爵自らの訪問を受ける事になったのだ。
一体私は何者で誰なのだろうか?こんな高位貴族が態々、隣の国まで足を延ばす程の人間なのだろうか?
多くの疑問が頭の中を駆け巡る中、公爵と対面した時、僅かな希望が生まれたのだ。
そうだ、私には妻と娘がいた事を。
完全ではないが、娘の名前だけは思い出せたのだ。
私の大切な愛しい娘。
アリスティア・クロムウェルの事を。
「隣国の王弟殿下がこの国の神殿で栽培している薬草園を視察に来られます。その対応をお願いします」
「私のような身元の怪しい者では問題になるのでは?」
「確かに貴方の言い分は解りますが、向こうも護衛を引連れてやってくるのです。それに7年も貴方を見てきましたが、悪い人間でない事は、私達救護施設の者が知っています。何より貴方自身が隣国の人間です。もしかしたら殿下から貴方の身元について何か情報が得られるかもしれませんよ」
確かに院長の言うとおりだ。
今まで平民だと思っていたが、貴族なら王族の手を借りれば自分の事がもっと早く分かるかもしれない。
私はこのチャンスに掛ける事にした。
もう7年もこのままの状態だ。医師が言うには何か思い出すきっかけがあればいいのだがと告げられた事がある。
隣国の王弟殿下と隣国の言葉で話せば、何か思い出せるかもしれない。藁にも縋る思いでその日を待っていた。
隣国の王弟殿下レイラン様は物静かな青年で、その佇まいは絵の様に美しかった。
話す時も何か言葉を選んでいるようなそんな慎重な仕種をしていた。
挨拶以外で時折、私を不思議そうに見つめる彼の視線が気になる。
それと同時に護衛達のざわざわ、ひそひそと、何か確認し合っているようなそんな囁きが聞こえてくるのもだ。
「失礼ですが、貴方のお名前を教えてもらっても良いだろうか?」
ふいに殿下に名を聞かれたが、答える名前が無かった。
「実は私は記憶がないのです。ここではアスベスと呼ばれています」
「そうですか。住んでいた所や家族に関することもですか?」
「はい、殿下の国の人間だという事は解っているのですが、それ以外は……」
私は記憶にある赤い女と少女の事を話すべきか躊躇した。見知らぬ王族にこんな事を話して良いのか判断しかねたのだ。
「思い出している事があれば言って頂ければ私が力になれることもあるかも知れません。話して下さい」
殿下は静かにそれでいて丁寧に伝えてきた。思い切って私は記憶の断片を殿下に話してみた。
「時々、赤い物を見ると赤い髪の女性と少女が見えるのです。頭に浮かぶのですが、顔と名前が思い出せません。隣国で赤い髪はよくある色なのでしょうか?」
「いいえ、赤い髪は限られた一族のみの特徴なのです。我が国には一つの公爵家の人間しか持っていない髪の色です。その公爵家はクロムウェルと言います」
「ク…クロムウェル公爵…家…う…ううっ」
クロムウェル公爵家の名前を聞いた途端、激しく頭が痛みだす。殿下は、護衛と近習に何か言伝を頼んだ様で私はそまま意識を失った。
隣国の王族の前でなんという失態を犯したのだろう。この施設におとがめが無ければいいのだが。
目覚めた私はベットの中で自分のした事を深く反省した。
だが、殿下から何のお咎めもなく反ってお見舞いの言葉を頂いたのには驚いた。
それからは、何事もなくいつも通りの日常が戻ったのだが、今度は隣国クロムウェル公爵自らの訪問を受ける事になったのだ。
一体私は何者で誰なのだろうか?こんな高位貴族が態々、隣の国まで足を延ばす程の人間なのだろうか?
多くの疑問が頭の中を駆け巡る中、公爵と対面した時、僅かな希望が生まれたのだ。
そうだ、私には妻と娘がいた事を。
完全ではないが、娘の名前だけは思い出せたのだ。
私の大切な愛しい娘。
アリスティア・クロムウェルの事を。
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