【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる

春野オカリナ

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アデライト編

最期の願い

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 それは、夫ローフェルが帰って来て、記憶を取り戻した頃のことだった。

 新しい使用人を雇おうと募集したところ、伯爵家からの伝手で一人の男がやって来た。

 ところがセバスから挙動不審なこの男を他の使用人らで見張らせていたところ、私の食事や飲み物に薬の様な物を入れようとしていると報告があった。

 捕らえて本人を尋問すると、オーウェンの愛人のマリエルからある計画を持ちかけられたのだと白状した。

 それは私を殺して公爵家を乗っ取り、行く行くはアリスティアを隣国の男爵家に売り飛ばす計画を、この男に話していた。

 証拠はこの男に渡した毒薬と指示をしたマリエル自身の手紙があった。

 直ぐに処罰をしたかったが、私には一つ懸念がある。

 それはマリエルの娘のことだった。

 エリーゼがマリエルと同じ性質の持ち主ならば、きっとアリスティアを害するかもしれない。

 どこか確信に似た考えが浮かんだ。

 それは別邸から来ている報告の所為かもしれない。

 その容姿を最大限に使う事に長けている彼女は、ただ、上手く相手を焚き付けたり、唆すのが得意だと。

 別邸の使用人らはトーマスを皮切りにマリエル母子の事を注進した者は、全てオーウェンが解雇した。

 といっても私の元にやってきて、何が遭ったか聞かせてもらい、彼らには別の仕事を宛がった。

 その中にエリーゼ付きの侍女がいた。元侍女はエリーゼを天使の顔を被った悪魔の様な娘だと言う。
 
 部屋には人形がいくつもあるが、気に入らない事があると呪文でも唱えるように、人形の顔を針で刺していると言うのだ。

 その人形は赤い髪をしていると……

 「いずれあの子の持っている物を全てもらう」

 そう呟いているのを聞いたことがあると。

 マリエルの様に直接仕掛けてくればいいが、曖昧な態度や思わせぶりな言葉は人の猜疑心を煽り、興味を引くもの。

 これが成人前の子供なら容易く手駒となって、勝手に想像を膨らませて行動するだろう。

 私には時間がない。

 彼らを道連れにするだけの。

 オーウェンを公爵家から追い出したかったが、マリエルがそれを阻んだ。

 マリエルは最初に送った離縁届の手紙以降、嫌がらせの様に私に手紙を送って来た。怪文書を。

 しかも何度も離縁届を送ってもオーウェンの元には届かなかった。それはマリエルが子飼いの使用人らを使って、内容を確認して、オーウェンに見られない様にしていたからだ。

 彼女はオーウェンが公爵家から追い出されると困るから、手紙を見せない様にしていた。 

 ローフェル、父、レイラン殿下を枕元に呼んで、私は後の事を頼むことにした。

 「もし、私が死んだ後、アリスティアに危害を加えたり、何かしようと画策した場合、この手紙を読んで下さい」

 私は遺言に似た手紙を彼らに渡し、アリスティアに最後の記憶の糸口になるかもしれない封書の束を委ねた。

 


 私は排除できなかった。

 この事だけが心残り。

 ローフェル達に渡した手紙をローフェル達が開けることがない事を祈るばかり。


 どうか、神がこの世にいるのなら、ローフェル達があの手紙を実行しなくて済む様に、御慈悲を下さい。


 そして、アリスティアの未来が明るいものになる事を祈って、私は人生の幕を下ろした。


 

 だが、彼らは私の願いも虚しく愚かな過ちを繰り返したのだ。

 

 

 

 

  
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