【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる

春野オカリナ

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ローフェル編

出会い

 初めて会ったのは12才の頃。

 彼女は赤い髪の美しい少女だった。

 しかし、その姿とは裏腹に彼女はとても内向的な少女。

 体が弱いことも関係していたのだろう。

 私には双子の弟オーウェンがいて、彼は活発で人懐っこい表情で他人を魅了した。

 ブリュッセル伯爵家は兄のウォルドが継ぐ。私は跡継ぎの替えとして教育だけは施されているだけの存在。

 甘やかされて育てられているオーウェンとは違い。厳しくされていた。母の愛情は兄と弟にだけ注がれている。

 いつしか感情を表に表さなくなって、冷たい氷のようだと言われ続けた。

 だが、そんな私にも執着するものはあった。

 それが公爵令嬢アデライト・クロムウェル。

 彼女の見かけとかけ離れた性格は私の庇護心を煽っていく。

 彼女の婚約者候補として父から告げられた時は、胸が高鳴った。

 あんな美しい薔薇の様な少女がいつか私のものになることを考えただけでゾクゾクする。

 それに時々、オーウェンと間違えて私の服の袖を引っ張って、私を怯えて見るあの碧の瞳がたまらない。

 男の嗜虐心を煽っている事に彼女は気づいていない。

 その存在が既に多くの男を虜にするのだという事に。

 だからオーウェンも夢中になっている。自分でも気づかない程に。

 その誤った子供じみた執着がアデライトの心を更に遠ざけている事に気づきもしないで。

 彼女が発作を起こしそうな時は、決まってオーウェンが傍についている。

 だが、傍にいるだけでは解決にならない事を知っている私は、大人を呼んで医師を連れてこさせた。

 今はまだ彼女を抱き上げる体や力がないが、何時か私が彼女をこの胸に抱き上げ、包み込んでみせる。

 そう決めて、先ずは父親の公爵に気に入られる様に努力した。

 彼女を手に入れるためには、王家の許可がないと婚姻できない。他の貴族と違って、公爵家は第二の王家と呼ばれる王家の婿入り、降嫁先なのだから。

 いくら伯爵家がその昔、クロムウェル公爵家の娘と婚姻した親類だとしても、そんな家は他にもいる。

 伯爵家の教育とは別に、公爵家の事業も手伝い。次第に公爵の信用を勝ち取っていく。

 アデライトが参加する夜会の情報も密かに入手して、彼女の様子を静かに見守っている。

 相も変わらずオーウェンに、幼い恋心を隠さず曝け出している彼女は哀れで愚かな女。そんな彼女に愛されたいと願う私も愚かなのだろう。

 オーウェンは年頃になると、自分の容姿が人より優れて人目を引くことが嬉しくて、ついついいろいろな令嬢や未亡人らと浮名を流していた。

 その噂を聞くたびに、アデライトがどんな気持ちでいるのか考えた事もないのだろう。

 だが、オーウェンが愚行を繰り返せば繰り返すほど、私に機会は訪れるというもの。

 夜会の度にアデライトを公爵家に送る。まるで決まっているかのように、私はアデライトの傍に常にいる。

 他の誰にも付け入るすきがないように。密かに他の候補者に圧を掛けながら、じわじわと彼女の外堀を埋めていく。

 早く、この手に落ちて欲しい。

 そんな願いを込めながら、私は彼女に偶然を装って近づいていく。

 彼女は知らない。私がどれほど、愛しているか。求めているか。

 狂おしい程、愛している彼女を手に入れられる瞬間に、オーウェンは彼女を汚した。

 新婚初夜の夜、彼女と初めて枕を共にして気づいた。彼女が処女を喪失している事に。

 事情は乳母のベラから聞いた。別邸は限られた使用人しかおらず、その日は古参使用人らが会合で出払っていた。

 新しく来た使用人が公爵家に連絡したのだ。

 私も公爵も出かけてたが、それをオーウェンは知らなかったはず。知っているのは母ヴェロニカだけだった。

 母がオーウェンを公爵家に婿入りさせたがっていたのは知っているがこんな悪質な事をやってのけるとは思わなかった。

 そもそも、オーウェンもオーウェンだ。自分がアデライトをさんざん振り回していて今更だ。

 あの平民の女に「失恋の痛手を慰めてやる」と言われて、アデライトと同じ赤い髪をつけさせ、睦あったと本人から聞いた時は、頭が怒りで沸騰しそうになった。

 あの女と一緒の時は必ず赤い髪を付ける事が条件で付き合ってやっている。等と平然というオーウェンは既に狂っているとしか思えない。

 自分で手に入れる努力もしないで、アデライトに執着し続ける弟がまさかこんな大それたことをしでかすなんて思いもよらなかった。

 大声で怒鳴った声で目を覚ましたのか、アデライトは震えて怯えながら懇願してくる。

 ああ、この女はどこまで私を虜にすれば気が済むのだろう。

 体がゾクゾクと疼くのを感じながら、この腕に一生閉じ込めて逃がさない事を心に誓いながら、

 早く、私の種で身籠って、他の誰の物にもならない証を産んでほしい。

 そう願いながら、彼女を腕に抱いて眠ったのだ。



 

 

 
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