元バスケ部員の少女が異世界に召喚?

王太白

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 夕方近くから雨になり始めた。最初はポツポツと降ってくるだけだったので、雨宿りできる場所にたどり着こうと早足で歩いていたが、行けども行けども道ばたには草原に木がまばらに生えているぐらいで、雨風をしのげそうな場所は無かった。そのうちに雨風はだんだん強くなってくる。ルイズは傘を二本取り出したが、風が強いため、あまり役に立たなかった。
「困りましたね。どこかに家でもあると良いのですが……」
 ルイズが途方にくれていたとき、遠くのほうで煙が立ち昇っているのが見えた。
「ご覧ください。あれはたぶん、食べ物を煮炊きする際の炊煙です。とにかく、火にあたらせてもらいに行きましょう。このままでは風邪をひいてしまいます」
 ルイズは九死に一生を得たように嬉しそうだった。有子もつられて嬉しくなってくる。一行は靴や服のすそがぬれるのも気にせずに、煙を目指して駆け出した。
 煙はだんだん鮮明に見えるようになってくる。「もう少しです。急ぎましょう」と励ますルイズの声に背中を押され、有子は力の限り走った。
 だが、近づいてきた煙は、何も無い地面から立ち上っていた。草むらに何かが埋められており、それが煙を吐き出しているだけで、肝心の火が見えない。有子はひざから崩れてしまった。ルイズはかろうじて立っていたが、表情には明らかに落胆の色が浮かんでいる。
 そこで、近くの木立から矢が飛んできた。有子めがけて飛んできたが、ルイズが「危ない!」と叫んで左手で有子をかばったため、矢はルイズの左手に命中する。ルイズは「ぐっ……」とうめきながら矢を抜いたが、傷口からは血が流れ出て、黒い服を染めていく。
「どうして、あたしなんかをかばったの? こんな傷まで負って……」
「能力を使えるあなたには、今死んでもらっては困るからです。この力は、必ずボルフガング元国王のお役に立ちますれば……。それに較べれば、私は剣と使い魔のパウしか使えない身です。私の命に代えても、あなたを無事に送り届けねばならないのです」
 ルイズの傷口に、パウがひっきりなしに口をつけて血をすっては、地面に吐き出している。ルイズは右手で懐から丸薬を取り出すと、飲んだ。その最中に周囲から矢が飛んできたので、パウは血をすうのを中断して、有子とルイズの周囲をへだてる壁に変身し、矢を防ぐ。血をすわれない間、ルイズは苦しそうに顔を歪める。有子はハッとした。
「まさか、さっきの矢に毒が塗ってあったんじゃ……?」
「……そうです。パウに毒の混じった血を吸い出してもらいながら、解毒剤を飲みましたが……このままでは毒が回って死んでしまいます……」
 ルイズは苦しそうに身を横たえる。そのとき、有子がルイズの傷口に口をつけると、血をすって地面に吐き出し始めた。ルイズは驚いて抵抗する。
「何をなさいますか! あなたがここで毒の血を一滴でも飲み込んで死んでしまっては、ボルフガング元国王のもとに送り届けられなってしまいます! 私が命にかえても血路を切り開きますから、あなた一人だけでも逃げ延びてもらわないと!」
「ダメ! あたしは、誰かを犠牲にして自分だけ生き延びるのは、まっぴらなの。皆で助かろう。ね」
 有子はルイズの血をすっては吐き出し続けた。抵抗していたルイズも、だんだんおとなしくなり、有子に身をゆだねる。
「ならば、まずは敵の人数と配置を知らないと。私が見る限り、矢を射てきている弓兵は十人。周辺の丈の長い草むらに身を潜めております。他にも伏兵が数人いるかと思われます。まずは弓兵から倒します。先ほどの農村で白い光を発した感覚を思い出してください。あれをより広範囲に再現すれば、弓兵は全部倒せるはずです」
 有子は白い光を発した感覚を思い出そうとしたが、なかなか上手くいかない。前回はとっさに出てしまっただけで、自分で制御してできる技ではないのだ。
「早くしてください! パウの変身できる時間は十五分が限度です。後三分で変身は解けてしまい、私たちは矢の的にされてしまいます!」
 ちょうど、矢が飛んできて、有子の目の前でパウの壁に当たる。パウの壁は半透明なので、有子には矢が飛んでくるのが直に見えた。壁が無ければ、矢は有子の顔面に突き刺さっていただろう。
「きゃ……きゃああああっ……!」
 有子は無我夢中で叫んだ。同時に白い光がほとばしり、周囲の弓兵たちを飲み込んでいく。弓兵たちは「あ、熱い……」だの「ぎゃあああっ……」だのと叫びながら消えていく。白い光が完全に消えた頃には、矢は一本も飛んでこなくなっていた。一方、パウも変身が解けて黒猫に戻り、ルイズの傷口の血をすい始める。
「まだ、油断なさらないでください。一度戦った敵にしては、手ごたえが無さ過ぎます。必ず次の攻撃を仕掛けてくるはずです」
 ルイズが言い終わると同時に、周囲から魔法によると思われる白い壁が押し寄せてきた。壁は前後上下左右の六面から迫ってきて、一行を押しつぶそうとする。
「さっきの毒矢の攻撃を防ぎきったことで、その黒猫の魔力は尽きた。同時に弓兵を倒したことで、その修道女の魔力も尽きた。つまり、今の貴様らは徒手空拳の状態だ。この六面体魔法を防ぎきる力は、残されていまい」
 しゃがれた声が、一行を嘲笑うかのように響き渡る。有子はもう一度、先ほどの白い光を発しようとしてみたが、徒労に終わった。そうこうするうちに、壁はますます周囲を圧迫してきて、一行は体を丸めなければならなくなる。
「まずいですね。このままでは押しつぶされて、ペシャンコになってしまいます。何とかしないと……」
 そのとき、ふとルイズは、自分の左手から抜いた毒矢が目に入った。毒矢の矢じりで、地面の側の壁に何かを彫り続ける。
「貴様……まさか、その魔法陣は……!」
「そのまさかですよ。床が矢じりで線を彫りやすい材質で、助かりましたわ。いかにも、この魔法陣は、巨木を召喚するためのものですわ」
 ルイズが言うが早いか、魔法陣の中には、根と枝のついた、十数メートルはあろうかという木が現れる。木はその幹や根で、前後上下左右の壁を壊してしまったため、一行は壁の中から出ることができた。雨の中、再び地面を踏んだ一行の前には、黒いローブを着た老婆が、同じく黒いローブを着た数人の魔法使いとともに、杖をかまえていた。
「おのれぇ……。まさか、こんな手で、我が奥義を撃ち破るとは……。どうしてくれよう」
「どうするもこうするも、おまえには、ここでくたばってもらうだけですよ。さあ、パウ、毒矢の毒を量産して吹きかけなさい!」
 パウは口から黒い霧を吐き出す。老婆を始め、三人の従者は「ぐ……苦しい……」とうめきながら、絶命していった。残った従者たちは、三々五々逃げ延びていったが、今のルイズに彼らを追う力は残されていない。ルイズ自身が、疲労のあまり、倒れてしまったからだ。
「……はぁ……はぁ……どうやら、危機は脱したようですね。あなたを始め、誰一人欠けることもなくて、一安心です……。とにかく、今は私の傷口から毒を吸い出してください……。後三十分も吸い出せば、一命はとりとめられます」
 ルイズは相かわらず苦しそうだが、顔には安堵感があった。パウも有子も、全身がぬれるのもかまわずに、ルイズの傷口をすい続けた。
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