元バスケ部員の少女が異世界に召喚?

王太白

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 朝陽が昇る頃には、一行は小さな村に着いた。かやぶき屋根の立ち並ぶ農村で、周囲には畑が広がっている。村人は畑仕事に出かける途中なので、ルイズは彼らのうち、年をとっていそうな者を見つけて、声をかけた。
「すみません。私たちは夜通し歩き続けたため、寝転がって休める所を探しています。納屋でも馬小屋でも良いので、寝させてくださいませんか? もちろん、お礼はさせていただきますから」
 懐から銀貨を差し出して、農夫の手に握らせる。
「そりゃ、わしらはかまわんが、夜通し都から歩き続けたというと、娘さんは最近の都の政変にかかわっているのではないのか? 畑が広い割に人口の少ない村だから、わしらが農作業に出た後に娘さんが来て、こっそり休んでいったとか何とか、口裏を合わせるのは簡単だが、娘さんは歩き続けて距離を稼いだほうが、追手に捕まらなくて良くないか?」
「私一人ならどうにでもなりますが、この子は足が丈夫ではないのです」
 ルイズは有子を指差した。
「この子はある上級官吏の令嬢で、私のように旅に慣れてはいません。夜通し歩いた後は、ゆっくり眠れる場所が欲しいのです。どうか、お願いします」
 ルイズはもう一枚の銀貨を農夫の手に握らせる。農夫はボロボロの帽子を脱いで頭をかくと、「わかったよ。皆で口裏を合わせておくから、夕方まで逗留すると良い」と言った。ルイズは「ありがとうございます」と深々と頭を下げる。農夫は一行を馬小屋まで案内し、ルイズは水を補給して、リュックの中のパンで朝食にした。
 夜通し歩きづめの有子は、馬小屋のわらの上に腰を下ろすと、早速パンをほおばる。疲れきった体に、パンの芳醇な味がしみわたる。ルイズの焼いたパンは時間がたっても美味かった。疲れきっていた有子は、そのまま眠ってしまい、ルイズが見張りに立つことにする。
 有子が目覚めたのは、陽が西に傾き始めてからだ。村の外が騒がしくなっているので、それで目が覚めてしまったのだ。「うわあっ!」とか「ぎゃああっ!」とかの悲鳴が響き渡り、「おらおら、国王陛下の偽物をかくまっている反逆者どもはどこだ?」とどなりちらす声が聞こえる。同時に、チリチリと火の粉がとんできたり、木がパチパチとはぜる音が聞こえてくる。驚いた有子が馬小屋から出てみると、村の多くの小屋に火が放たれ、鎧を着た兵士が、逃げまどう村人を襲っている最中だった。
「出てきてはいけません! 馬小屋に隠れていてください!」
 ルイズのどなる声が聞こえる。声のしたほうを見ると、ルイズは剣を抜いて、馬に乗った兵士と戦っていた。ルイズの動きは達人のようで、騎馬の兵士と互角に斬り合っていたが、もう一人の騎馬の兵士が増援に来たので、一気に形勢不利になる。
「ルイズーーッ!」
 有子は反射的に大声を出してしまうが、その声に徒歩の兵士たち数人が反応する。
「うえっへへへ……こんな所にも、若い女がいやがるぜ」
「どうする? ここで犯すか? それとも売り飛ばすか? 見たところ、修道女のほうは、良家の子女のように線が細くて可愛いな。日焼けしてて色黒なのが残念だが……。でも、こいつは高値で売れるぜ」
 兵士たちはそのまま、槍をかまえて、有子のほうに向かってくる。
「い……いやだ! こんな所で犯されて死ぬなんて、まっぴらだ……!」
 有子は後ずさりするが、すぐに壁にぶつかってしまう。これ以上はさがれない。兵士たちは、「誰からいくか?」などと相談しながら、距離をつめてくる。有子は恐怖のあまり、心臓が破裂しそうだった。
「いっ……いやああああっ!」
 思わず大声で叫んでしまう。すると、いきなり周囲は真っ白な光で包まれた。兵士たちは、「何だ、この光は?」だの「ぎゃあああっ!」だの「あ、熱い!」だのと叫ぶが、その声は光に吸い込まれるように、か細くなっていく。やがて、白い光が完全に消えた頃には、有子とルイズの周囲の兵士が十人ほど、初めからいなかったかのように消えうせていた。ルイズの周囲には、主を失った二頭の馬が歩いているだけだ。
 それを見た兵士たちは、「何だ? いったい、何が起こった?」とザワザワと騒ぎ始めた。ルイズはここぞとばかりに、「静まれ! このお方をどなたと心得る?」と大声で宣言した。
「このお方こそ、ベオグラード王国の内乱の危機に際し、天からつかわされた大天使ユウコなるぞ! 先ほどの白い光は、大天使の聖なる光だ! さあ、逆賊トログリムめに味方する輩は、消されたくなければ、早々に立ち去れ!」
 ルイズのたたみかけるような言葉に、すっかり度肝をぬかれた兵士たちは、「ひえええ……お許しを……」と言いながら、散り散りになって村から逃げ去っていく。
 だが、それを見届けたルイズの表情は、険しいままだった。それもそのはず。村人たちの視線は、ルイズと有子を白い目で見ていたからだ。
「おい、大天使様だが何だか知らないが、おらたちが攻撃されて、何人も殺されている最中に、眠りこけているやつがあるかよ」
「そうだ、そうだ。おめえらが来て馬小屋で寝さしてやったばかりに、わしの女房は殺されたんだ。本当に大天使様だって言うなら、奇跡の力で生き返らせてみろよ」
 村人たちは口々に有子を罵り始める。やがて、ルイズが早朝に銀貨を支払った、年をとった農夫が険しい顔で言った。
「すまんが、今すぐに村を出ていってくれ。もちろん、家族に早く先立たれて天涯孤独なわしは、娘さんが悪い人じゃないことはわかっておる。だが、他の村人は家族を殺されている以上、納得するまい。さあ、さっさと荷物をまとめてくれ」
 年をとった農夫は、きびすを返すと、村人を集め、「とにかく家々の火を消し、負傷者を手当てするのだ」と呼びかけ始めた。その一方で、有子とルイズは荷物をまとめると、さっさと出発する。
 道中、有子は泣きそうになっていた。
「どうしました? 先ほどの村人にされた仕打ちがこたえましたか?」
「いや……あたしは何も悪いことをしてないのに……むしろ、村を襲ったトログリム国王の兵士たちを追い払っただけなのに……なぜ悪口を言われなきゃならないの? 漫画の中の異世界なら、村人に感謝されてるはずなのに……」
 有子の目から、一筋、二筋と涙がこぼれる。
「作り話の世界と現実を一緒にしてはなりませんよ。現実には、人間は強い者、数の多い者に従ってしまうものです。特に村が被害を受け、村人が殺された場合は、そうなります。あなたがあの場面で、村人に味方になってほしかったのなら、もっと強くあるべきだったのです」
 ルイズの言葉に、有子はぐぅの音も出なかった。
「とにかく、今回、あなたが魔法を使う能力に目覚めた以上、次はトログリム国王は魔術師を差し向けてくるはずです。魔術師相手だと、普通の兵士のように簡単には倒せません。今のうちにボルフガング元国王のもとに急ぎましょう」
 一行は疲れた体に鞭打つようにして歩いていった。
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