理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

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第1章 暗い闇と蒼い薔薇

お祖父さまと夜会 3

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 1曲だけダンスを踊った。
 もちろん「お祖父さま」とだ。
 
 スローな曲だったけれど、結奈はダンスなどしたことがない。
 祖父に恥をかかせるのではないかと心配をした。
 が、まるで体が覚えてでもいるかのように、スムーズに踊れている。
 
 ちょっと嫌な感じがしたものの、その感覚は無視するようにしていた。
 やはり、考えると、この世界が崩れてしまう気がするからだ。
 それよりも、祖父との夜会を楽しむことにする。
 
「お祖父さまって、なにやってもスマートだよね」
「そうかい?」
「うん。さっきの、王子様を断る時もスマートだった」
 
 あれから何人もの男性が結奈のそばにきたが、ほとんど話さずにすんでいた。
 軽い口調で笑いも交え、相手に恥をかかせず、その男性たちを祖父は追いはらっている。
 そのせいか、彼らもしつこくはしなかった。
 
「レティが新しい靴を履いているのは嘘ではないからね」
「それはそうなんだけど。とっさに、それしか思い浮かばなくて」
「本当のことを言っただけだろう? レティは正直で、いい子だよ」
 
 にっこりと微笑まれ、ううっとうめきそうになる。
 今は、ホールの外にあるテラステーブルに2人で座っていた。
 
(お祖父さま、超カッコいい! 素敵過ぎて心臓痛い!)
 
 まさに「理想」の男性。
 優しくて、自分に甘いのも嬉しかった。
 つくづく「孫娘」で良かったと思う。
 結奈の中で、身内に勝るポジションはない。
 
 恋愛的な下心がないため、無防備に身を任せていられた。
 ひたいに落とされるキスや頭を撫でてくれる手が心地いい。
 唇に落ちてくる恋のキスなど、結奈は必要としていないのだ。
 
「飲み物でも持って来るよ。それを飲んだら帰るとしよう」
「そうだね。早く帰って、おウチご飯にしたい」
「マルクがクリームシチューを作ると言っていたからだろう?」
 
 祖父の言葉に、うなずきながら笑った。
 結奈の好物は屋敷中に知れ渡っている。
 
「すぐに戻るからね」
 
 祖父が立ち上がり、テーブルを離れていった。
 見送りながら、見惚みとれる。
 
(なに着ても似合うって反則だよなー……てゆーか、お祖父さまって、絶対、モテると思うんだけど、言い寄られたりしてなかったなぁ)
 
 並みいる貴族令嬢たち。
 挨拶には来たが、短い会話だけで離れていく女性ばかりだった。
 グレイ曰く「大公様が敵兵を全滅させたことは秘匿されています」とのこと。
 
 それだけを聞くと恐ろしい人のように思えるかもしれない。
 けれど、ほとんどの貴族はそれを知らないのだ。
 にもかかわらず、祖父に言い寄る女性はいなかった。
 
(お祖父さまが、今でもお祖母さまだけだって知ってるからかも)
 
 他の男性たちが、自ら女性に声をかけているのを目にしている。
 女性から声をかけるのは挨拶ぐらいのもので、ダンスに誘うのも男性からというのが一般的らしい。
 夜会は合コンのようなものだと思っていたが、どちらかといえば「ナンパ」の場のようだ。
 
(お祖父さま、声かけなさそう。お祖母さまを2年がかりで口説いたって話だけど、そのくらい好きだったんだろうなぁ)
 
 祖父は、いわゆる「チャラ男」ではない。
 ユーモアと茶目っ気はあっても、芯は真面目で誠実なのだ。
 周りに女性がいるからといって、見境なしに口説くような真似はしなかったに違いない。
 
 若かりし頃の写真を見ても、そんな雰囲気が漂っていた。
 そういう祖父が、どんなふうに祖母を口説いたのかには興味がある。
 いずれ聞いてみようと思った。
 
「あ……」
 
 テーブルに影が落ちてくる。
 てっきり祖父だと思い、笑顔で振り返った。
 とたん、固まる。
 
(なんで王子様……?)
 
 そこには祖父ではなく、王子様が立っていた。
 と、思ったら、さっきまで祖父が座っていた席に座ってきた。
 
(なんで勝手に座る……っ?! 聞けよ、おいぃ!!)
 
 さも当然とばかりの態度に唖然とする。
 礼儀作法に、さほどうるさくない現代日本でもありえない。
 
 立ち食い蕎麦屋のカウンターでもあるまいし。
 
 相席だって、もう少し気を遣うものだ。
 なにかしら、ひと言くらいあってもおかしくはないはずなのだけれど。
 
「大公は、しばらく戻れないようなのでな。俺が相手をしてやろう」
 
 ざわざわざわっと、結奈の心に波が立つ。
 正妃選びの儀の際と同じく、なんだコイツ、と思った。
 
(してやろうって……してくれなくていいわ! 余計なお世話だわ! てゆーか邪魔だわ! 偉そうにして、何様……って、王子様なんですケド!!)
 
 心の中で罵詈雑言を浴びせる。
 言ってやっても良かったのだが、ちらりと殺人鬼のことが頭に浮かんだのだ。
 もしかしたら一緒に来ているかもしれない。
 祖父が近くにいないことで、少しだけ弱気になっている。
 
 王子様を怒らせると、あの殺人鬼がやってきて殺されるのではないか。
 そんな不安があった。
 
「あの時とは……ずいぶん様子が変わったな」
「ええ……まぁ、そうかもしれません」
「良い感じに太ったように見える」
 
 ぐっと奥歯を噛みしめて、自分を抑える。
 なんてことを言うのか、この王子様は、と腹が立っていた。
 
(女性に向かって、太ったとか言う?! 無神経過ぎだろ! これで褒めてるつもりなら、この王子様、ナンパの才能皆無だよ!!)
 
 相変わらず金髪は目に痛いし、失礼極まりないし、偉そうだし。
 今のところ、いい点がひとつも見当たらない。
 
「それは……良く食べて、良く眠れているからじゃないでしょうか」
「体が丈夫なのは喜ばしいことだ」
 
 丈夫?と頭にハテナが浮かぶ。
 どうもアスリート的な意味合いではない気がする。
 結奈は気になって、自分の肩や腕を見てみた。
 
(そんなに、ぽっちゃりしてる? 全然、運動してないから、ガッチリしたってことはないよね)
 
 思った時、不意に、頭にある言葉が浮かぶ。
 と、同時に、イラっとした。
 
「安産型になったってことですか?」
「あんざん……?」
「子供を産み易そうな体型ってことです」
 
 じろじろと、王子様が結奈の体を眺め回す。
 ものすごくイライラした。
 本当に失礼な男だ。
 ここまでの者は、職場にもなかなかいなかった。
 
「いや……俺にはわからん。まだ子を産ませたことがないのでな」
 
 カチーンと頭に来る。
 どういう言い草か、と思った。
 
「女性は子供を産むためにいるのではありません」
「だが、女にしか子は産めぬだろう」
 
 たしかにそうだけれど。
 
 絶対的に、認識が違うのだ。
 王子様ともなれば世継ぎが必要なことくらいはわかる。
 国を背負う者としての義務だか責任だかがあるのも、わかってはいる。
 が、たとえそうでも、愛がなくていいことにはならない。
 この王子様はあまりに「愛情」を無視し過ぎているから腹が立つのだ。
 
 そこに愛はないのか。
 
 彼にとっては子供だけが必要で、妻はその道具に過ぎないのだろう。
 殺されるとわかっていても、いつも殺人鬼に闘いを挑んできた結奈だ。
 もう怒った、とばかりに自制の糸を切る。
 
「はっきり申し上げてよろしいですか?」
「許す。言ってみろ」
 
 この上から目線も癇に障った。
 なんだコイツ、から「なんだ、お前」に変わる。
 
「あなたは、私の好みではありません」
「は……? 好み、だと?」
「ええ。好みではないんです。だから、お断りしたんですよ、王子様」
 
 あの時に言った3つの理由も嘘ではなかった。
 が、本当の理由を言えて、少しだけスッキリする。
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