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最終章 黒い羽と青のそら
咎に鎮め 1
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大公がいなくなり、この場にはユージーンとザカリー、そしてレティシアが残っている。
大公に昏倒させられる以前、魔術師たちは、騎士を治癒していた。
(どうせ昏倒させるのなら、もっと早くさせておけばいいものを)
なにか意味はあったのかもしれない。
が、大公から説明されていないので、ユージーンは、その意味を、理解できずにいる。
なにしろ目の前には、十人ばかりも騎士が並んでいるのだ。
平たく言えば、さっきの倍。
「兄……」
「俺は、ただのユージーンだ」
ザカリーが「兄上」などと呼びかけたので、すぐに制する。
弟が、ここにいることは、なんとしても隠し通さなければならない。
即位前の王族に、下級魔術師程度の魔力があるのは周知の事実だ。
とはいえ、ザカリーの魔力量は、それを遥かに超えていた。
ユージーンに魔力感知の能力はないが、それでもわかるのだ。
使えないながらも、ユージーンは魔術について学んでいる。
大公に湖で「警告」を与えられた際、それがどこに繋がるか、知るためだった。
結果、姿映を覚えている。
同時に、魔術を3つも同時に扱うのが、どれほど難しいかも知った。
魔力も相応に消費する。
それができるということは、ザカリーの器が、かなり大きいということだ。
もとより、ザカリーの父は現魔術師長のジェスロであり、母親は女系であっても王族出。
器が大きいのも納得の血統と言える。
「ゆ、ユージーン様、補助の魔術をいくつか掛けました」
「そのようだな。体が軽く感じられる」
おそらく、あれだろうと推測できる魔術の名が、記憶にあった。
とはいえ、ユージーンに発動できる代物ではなかったため、使ったことはない。
剣の鍛錬で、魔術の補助は受けたこともなかった。
ユージーンは公平な状態で、近衛騎士と剣を交えてきた。
そうでなければ鍛錬の意味もない。
が、ここは、鍛錬の場ではないのだ。
相手を「敵」とし、戦う必要がある。
しかも、相手の数が圧倒的に多い。
公平さになどこだわっていては、命を落としかねなかった。
もちろんユージーンは、自分が狙われないことも、わかっている。
レイモンド・ウィリュアートンが寄越した騎士だとすれば、ユージーンに怪我をさせないよう言い含められているはずだ。
(そうか……レティシアが、俺に、そのままがいいと言ったのは、これも含めてのことだったのだな)
胸に、じーんと、くる。
そんな場合でもないのに。
(さっき、あれは、俺を好きだと言っていた。ならば、案ずるのも無理はない)
などと、レティシアの言葉を、非常に自分に都合良く受け止めていた。
大公の心配が的中しているわけだけれど、それはともかく。
「レティシア、下がっておれよ? すぐにカタをつけてやる」
「わかった。でも、無理しないようにね」
「心配せずともよい。俺は、怪我などせぬのでな」
「あ、うん。………うん……?」
ユージーンは、ものすごく機嫌が良くなっている。
相手が騎士だけなので、まったく不安もいだいていない。
大公の出したレイピアを、ひゅんと振った。
ザカリーの補助魔術の力を感じる。
腕が軽いし、動きも速い。
『良いですか、殿下。1人の勇者は、百人の凡庸な騎士にも勝るのですよ』
いつかサイラスの言っていた言葉を、思い出す。
その時、ユージーンは、その1人の勇者になりたい、と感じたのだ。
剣を習うのであれば、その領域に達しなければ、習得したことにはならない、とさえ思った。
「そちらからは、来ぬのだろ? では、こちらから行くまでだ」
とんっと、地面を蹴る。
その速度に、少し感動した。
補助の魔術は、攻撃系より難易度が高い。
代わりに、複数発動は、攻撃系より簡単なのだ。
知識が、ユージーンに、それを教えている。
おそらく、素早さと力、回避の3つは掛かっているだろう。
相手の動きが、いつも以上に、よく見えた。
(む。殺してはいかんのだったな)
レティシアの視線を意識する。
魔術効果なのか、見えていなくても、ありありと気配を感じられた。
少し引き気味になっている騎士の中に突っ込む。
あっという間に、3人の剣を弾き飛ばした。
「立ち向かっても来ぬとは、騎士とは名ばかりか!」
レイピアの剣先で叩いただけだったが、騎士たちの持つロングソードは、簡単に宙を舞っている。
剣を手放した騎士のそれぞれに、腹、顎、頬と、剣の柄で殴り飛ばした。
殺してはいけないので、少し手加減をしている。
それでも、騎士たちが血を吹いて地面に転がった。
(いかんな。なかなかに、力の調整が難しいものだ)
うっかりすると、殴っただけでも殺してしまいそうだ。
同じ補助の魔術でも、術者の腕により、強化具合が変わる。
大公が、ザカリーの腕を褒めた理由を実感した。
さりとて、だ。
(ザカリーは気の優しいところがある。攻撃はさせぬほうがよかろうな)
補助魔術ですら、これほどの腕があるのだから、きっと攻撃系の魔術も使える。
前に、ラペルの三男にやられるだけやられてしまったのは、魔術を使えなかったからに過ぎない。
街での魔術使用が禁じられていることや、身分を隠していたためもあるのだろうが、なにより心根の優しさが原因に思えた。
(この程度の者どもなら、俺だけで片づけられる)
ようやくと言うべきか、騎士たちも覚悟を決めたらしい。
少しくらいは傷つけてもやむをえない、と判断したのだろう。
わらわらと、ユージーンの周りに集まってくる。
取り囲まれても、ユージーンは慌てなかった。
迫ってくる剣を、次々に避ける。
(本当に、よく見える……奴らの動きが、遅く見えるほどではないか)
そして、ユージーンの素早さは上がっていた。
避けながらも、逆にレイピアを右に左にと持ち替え、相手の手ばかりを狙う。
ロングソードの最も大きな弱点は、握りに親指を添えているところだ。
その親指を殴りつけられるだけで、剣を取り落とすことになる。
レイピアはしなりは悪いが、剣先が細い。
今のユージーンにとって、親指を狙い打ちで突きさすなど、造作もなかった。
剣を取り落とせば、蹴りを入れ、相手を地面に転がす。
蹴りにしたのは、足のほうが手加減がし易かったからだ。
剣の柄だと、そこに力が乗ってしまい、手加減しにくい。
最初に殴った騎士のものだろう、血に白いものが混じっていた。
間違いなく、折れた歯だ。
(頬骨を砕くくらいならばともかく、頭蓋は割らぬようにせねば)
倒れていた騎士ともども、騎士たちが、いきなりザッと退いた。
ユージーンは、ここで片づけてしまおうと、前に出る。
瞬間、ひどい違和感を覚えた。
急停止をかけたが、間に合わない。
補助魔術が効き過ぎている。
ザザッと足が地面を滑った。
「矢が行くぞっ! 俺はよいから、レティシアに防御をっ!」
騎士たちが下がった、そのずっと後方に、数人の騎士が見えたのだ。
騎士ではあるもののの、通常の騎士とは身なりが違う。
近衛騎士など剣を扱う騎士は、弓を使わない。
ユージーンも、弓だけは覚えていなかった。
それほどに騎士と弓兵は役割が違っている。
騎士であって騎士でない者、それが弓兵だった。
ひゅん、ひゅん。
軽い擦過音を立て、矢がユージーンの頭上を越えて行く。
狙いがレティシアなのは明白だった。
「ご安心を! こちらは問題ございません!」
矢が空中で折れ曲がり、地面に落ちている。
ザカリーが防御の魔術で防いだのだ。
「ゆ、ユージーン! こっちはいいからっ! 気をつけてッ!」
レティシアは、己の身の心配をより、ユージーンを気遣っている。
嬉しくなるのと併せて、怒りが湧いてきた。
「俺の好いた女に手出しするとは……許してはおかんぞッ!!」
ユージーンとレティシアの距離は、かなり離れている。
レティシアは声を張り上げていたが、ユージーンの言葉の前半は、怒りで低く、くぐもっていた。
そのせいで、せっかくの渾身の告白も、レティシアの耳にはとどかなかった。
大公に昏倒させられる以前、魔術師たちは、騎士を治癒していた。
(どうせ昏倒させるのなら、もっと早くさせておけばいいものを)
なにか意味はあったのかもしれない。
が、大公から説明されていないので、ユージーンは、その意味を、理解できずにいる。
なにしろ目の前には、十人ばかりも騎士が並んでいるのだ。
平たく言えば、さっきの倍。
「兄……」
「俺は、ただのユージーンだ」
ザカリーが「兄上」などと呼びかけたので、すぐに制する。
弟が、ここにいることは、なんとしても隠し通さなければならない。
即位前の王族に、下級魔術師程度の魔力があるのは周知の事実だ。
とはいえ、ザカリーの魔力量は、それを遥かに超えていた。
ユージーンに魔力感知の能力はないが、それでもわかるのだ。
使えないながらも、ユージーンは魔術について学んでいる。
大公に湖で「警告」を与えられた際、それがどこに繋がるか、知るためだった。
結果、姿映を覚えている。
同時に、魔術を3つも同時に扱うのが、どれほど難しいかも知った。
魔力も相応に消費する。
それができるということは、ザカリーの器が、かなり大きいということだ。
もとより、ザカリーの父は現魔術師長のジェスロであり、母親は女系であっても王族出。
器が大きいのも納得の血統と言える。
「ゆ、ユージーン様、補助の魔術をいくつか掛けました」
「そのようだな。体が軽く感じられる」
おそらく、あれだろうと推測できる魔術の名が、記憶にあった。
とはいえ、ユージーンに発動できる代物ではなかったため、使ったことはない。
剣の鍛錬で、魔術の補助は受けたこともなかった。
ユージーンは公平な状態で、近衛騎士と剣を交えてきた。
そうでなければ鍛錬の意味もない。
が、ここは、鍛錬の場ではないのだ。
相手を「敵」とし、戦う必要がある。
しかも、相手の数が圧倒的に多い。
公平さになどこだわっていては、命を落としかねなかった。
もちろんユージーンは、自分が狙われないことも、わかっている。
レイモンド・ウィリュアートンが寄越した騎士だとすれば、ユージーンに怪我をさせないよう言い含められているはずだ。
(そうか……レティシアが、俺に、そのままがいいと言ったのは、これも含めてのことだったのだな)
胸に、じーんと、くる。
そんな場合でもないのに。
(さっき、あれは、俺を好きだと言っていた。ならば、案ずるのも無理はない)
などと、レティシアの言葉を、非常に自分に都合良く受け止めていた。
大公の心配が的中しているわけだけれど、それはともかく。
「レティシア、下がっておれよ? すぐにカタをつけてやる」
「わかった。でも、無理しないようにね」
「心配せずともよい。俺は、怪我などせぬのでな」
「あ、うん。………うん……?」
ユージーンは、ものすごく機嫌が良くなっている。
相手が騎士だけなので、まったく不安もいだいていない。
大公の出したレイピアを、ひゅんと振った。
ザカリーの補助魔術の力を感じる。
腕が軽いし、動きも速い。
『良いですか、殿下。1人の勇者は、百人の凡庸な騎士にも勝るのですよ』
いつかサイラスの言っていた言葉を、思い出す。
その時、ユージーンは、その1人の勇者になりたい、と感じたのだ。
剣を習うのであれば、その領域に達しなければ、習得したことにはならない、とさえ思った。
「そちらからは、来ぬのだろ? では、こちらから行くまでだ」
とんっと、地面を蹴る。
その速度に、少し感動した。
補助の魔術は、攻撃系より難易度が高い。
代わりに、複数発動は、攻撃系より簡単なのだ。
知識が、ユージーンに、それを教えている。
おそらく、素早さと力、回避の3つは掛かっているだろう。
相手の動きが、いつも以上に、よく見えた。
(む。殺してはいかんのだったな)
レティシアの視線を意識する。
魔術効果なのか、見えていなくても、ありありと気配を感じられた。
少し引き気味になっている騎士の中に突っ込む。
あっという間に、3人の剣を弾き飛ばした。
「立ち向かっても来ぬとは、騎士とは名ばかりか!」
レイピアの剣先で叩いただけだったが、騎士たちの持つロングソードは、簡単に宙を舞っている。
剣を手放した騎士のそれぞれに、腹、顎、頬と、剣の柄で殴り飛ばした。
殺してはいけないので、少し手加減をしている。
それでも、騎士たちが血を吹いて地面に転がった。
(いかんな。なかなかに、力の調整が難しいものだ)
うっかりすると、殴っただけでも殺してしまいそうだ。
同じ補助の魔術でも、術者の腕により、強化具合が変わる。
大公が、ザカリーの腕を褒めた理由を実感した。
さりとて、だ。
(ザカリーは気の優しいところがある。攻撃はさせぬほうがよかろうな)
補助魔術ですら、これほどの腕があるのだから、きっと攻撃系の魔術も使える。
前に、ラペルの三男にやられるだけやられてしまったのは、魔術を使えなかったからに過ぎない。
街での魔術使用が禁じられていることや、身分を隠していたためもあるのだろうが、なにより心根の優しさが原因に思えた。
(この程度の者どもなら、俺だけで片づけられる)
ようやくと言うべきか、騎士たちも覚悟を決めたらしい。
少しくらいは傷つけてもやむをえない、と判断したのだろう。
わらわらと、ユージーンの周りに集まってくる。
取り囲まれても、ユージーンは慌てなかった。
迫ってくる剣を、次々に避ける。
(本当に、よく見える……奴らの動きが、遅く見えるほどではないか)
そして、ユージーンの素早さは上がっていた。
避けながらも、逆にレイピアを右に左にと持ち替え、相手の手ばかりを狙う。
ロングソードの最も大きな弱点は、握りに親指を添えているところだ。
その親指を殴りつけられるだけで、剣を取り落とすことになる。
レイピアはしなりは悪いが、剣先が細い。
今のユージーンにとって、親指を狙い打ちで突きさすなど、造作もなかった。
剣を取り落とせば、蹴りを入れ、相手を地面に転がす。
蹴りにしたのは、足のほうが手加減がし易かったからだ。
剣の柄だと、そこに力が乗ってしまい、手加減しにくい。
最初に殴った騎士のものだろう、血に白いものが混じっていた。
間違いなく、折れた歯だ。
(頬骨を砕くくらいならばともかく、頭蓋は割らぬようにせねば)
倒れていた騎士ともども、騎士たちが、いきなりザッと退いた。
ユージーンは、ここで片づけてしまおうと、前に出る。
瞬間、ひどい違和感を覚えた。
急停止をかけたが、間に合わない。
補助魔術が効き過ぎている。
ザザッと足が地面を滑った。
「矢が行くぞっ! 俺はよいから、レティシアに防御をっ!」
騎士たちが下がった、そのずっと後方に、数人の騎士が見えたのだ。
騎士ではあるもののの、通常の騎士とは身なりが違う。
近衛騎士など剣を扱う騎士は、弓を使わない。
ユージーンも、弓だけは覚えていなかった。
それほどに騎士と弓兵は役割が違っている。
騎士であって騎士でない者、それが弓兵だった。
ひゅん、ひゅん。
軽い擦過音を立て、矢がユージーンの頭上を越えて行く。
狙いがレティシアなのは明白だった。
「ご安心を! こちらは問題ございません!」
矢が空中で折れ曲がり、地面に落ちている。
ザカリーが防御の魔術で防いだのだ。
「ゆ、ユージーン! こっちはいいからっ! 気をつけてッ!」
レティシアは、己の身の心配をより、ユージーンを気遣っている。
嬉しくなるのと併せて、怒りが湧いてきた。
「俺の好いた女に手出しするとは……許してはおかんぞッ!!」
ユージーンとレティシアの距離は、かなり離れている。
レティシアは声を張り上げていたが、ユージーンの言葉の前半は、怒りで低く、くぐもっていた。
そのせいで、せっかくの渾身の告白も、レティシアの耳にはとどかなかった。
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