理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

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最終章 黒い羽と青のそら

咎に鎮め 3

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 ジークは、時々、軽く、女魔術師の足元に、雷を落とす。
 雷と言っても、小さな火花が散り、当たれば火傷をするくらいのものだ。
 
 女魔術師が引き連れていた魔術師は、合計で8人。
 
 上空からの魔力感知で、魔力の大きさの違いには、気づいていた。
 彼が、魔力痕を紛らわせるため、息子の裏庭などで、大きさの違う魔力を散らしているのと、たいして理由は、違わない。
 ただ、彼とは違い、実際の「人間」を、目くらましに使っている。
 ジークは、その8人を各個撃破。
 いかにも複数の魔術師がいるかのように、いくつもの攻撃魔法を取り交ぜて「始末」していった。
 
 彼には、属性というものがない。
 その彼の力を宿したジークにも、属性はない。
 得手不得手がなく、どれも等しく扱える。
 
(あの人のこと、そんだけ怖がってんなら、逃げりゃよかったのにサ)
 
 女魔術師は、それなりに腕が立つ。
 攻撃系統の魔術の同時発動は、防御や補助系統より難しいからだ。
 それでも、たった2つ。
 
(あいつは、3つだったな。けど、攻撃するだけなら、もっとやれたてたはずだ)
 
 サイラスは、彼に3つの攻撃を同時に加えた。
 さりとて、その前には魔力を奪う魔術を使っていたし、その後は星を落としさえしたのだ。
 魂と体を分離させた状態で。
 相手が、彼でさえなければ、あんなことにはならなかっただろう、と思える。
 
(欲をかくと、ろくなことにはなんねーんだよ)
 
 女魔術師も、似たようなものだ。
 逃げればすんだのに、逃げなかった。
 それどころか、最悪なことに、彼の孫娘だけを的にしている。
 背後にウィリュアートンがいるので、ユージーンは狙えなかったのだろう。
 
(この辺りで、いっか)
 
 ジークは、上空から一気に降下を始める。
 変転して烏姿であっても、魔術の発動はできた。
 女魔術師に向けて、えいやっと両手を合わせるように両羽を前面に持ってくる。
 鳥が地面に降り立つ時の動きに似ていた。
 それにより、降下が急減速した。
 実際、ジークは、今は「鳥」なので。
 
(どうせ動けやしねえんだ。ゆっくり降りてくかな)
 
 ひゅるんと速度を落とし、地面に倒れている女魔術師のほうへと降りて行く。
 近づくにつれ、どうなっているかが目視できた。
 仰向けに倒れた体は、地面から伸びた蔓で縛られている。
 両手、両足首と腰を中心に、細い蔦が、ぐるぐると巻き付いているのだ。
 
 植物の性質を用いて相手を捕らえる「植束しょくたば」という魔術を使った。
 動きを封じるだけなら十分だし、レスターに使った「刹檻せつかん」だと、相手の声が聞こえないので、都合が悪い。
 
「ジーク」
「あいよ」
 
 ひゅるりをやめ、すぐに転移して、女魔術師を見下ろす彼の横に立つ。
 姿を消しておく必要は、もうなかった。
 
「きみは、私の言づてを、正しく伝えなかったようだ」
 
 女魔術師は、わずかにも体を動かせずにいる。
 ジークの使った蔦は、刃物でも切るのが困難なくらい強度があった。
 しかも、細くて、何重にも絡まり合っている。
 魔術で焼き切ろうとしているようだったが、それは効かないのだ。
 
(お前は、氷系統が使えねーんだろ? 炎じゃ切れねーんだなぁ)
 
 植物には、水がたっぷりと含まれている。
 おまけに魔術で強化されているため、炎は効かない。
 氷で内部の水分を凍らせれば、割と簡単に切れるのだけれど。
 
 彼の孫娘への攻撃からすると、女魔術師は、炎と土系統が得手なのだ。
 対極の、氷や雷系統が不得手だとわかっている。
 
「わ、私は……レ、レイモンドに、伝えました……」
「ならば、彼が騎士まで寄越したのは、どうしてだろうね」
「そ、それは……レイモンドが……私は、レイモンドの指示に……従っただけですわ……た、大公様……」
 
 女魔術師は、孫娘の横にいたのが、彼だと気づいていなかったらしい。
 その事実に気づいて、すっかり怯え切っている。
 彼は、魔力を隠すのが上手うま過ぎるのだ。
 
(あらら。あんなのに引っ掛かるなんてサ。油断し過ぎじゃねーの?)
 
 それなりに魔術の腕はあるくせにと、ジークは呆れる。
 彼は魔力を完璧に隠せるが、同じくらい魔力の調整もできた。
 適度な大きさの魔力を身にまとい、女魔術師に誤認させたのだろう。
 そのせいで「彼ではない」と思ってしまったに違いない。
 だとしても、孫娘を無防備で街に出すなんておかしい、くらいは、思ってもよさそうなものだ。
 
「いいや、きみ自身が選んだのだよ」
 
 彼に容赦はない。
 もとより、そうだった。
 
 けれど、最近は少し変わってきている。
 彼の孫娘を守るためとはいえ、彼女はお人好しだ。
 彼が誰かに手をかけるたび、心を痛めているらしい。
 だから、彼は、先を見通しているにもかかわらず、より良い結果を出そうと試みている。
 サイラスの時も、今も。
 
「彼にお金を借りていて……脅されていたのですわ……」
「逃げることはできた」
 
 女魔術師の目が、見開かれた。
 彼の言わんとする「選択」の意味が、わかったのだろう。
 
「……レ、レイモンドから逃げるというのは……く、国を……」
「いずれ王宮魔術師としての立場は、剥奪されただろうがね」
 
 転移ができるうちに、国境に最も近い場所まで移動し、そこから国外に逃げれば良かったのだ。
 彼は、そういう「選択」もできたはずだ、と示唆している。
 
(でも、そっちじゃなくて、この人の孫娘を殺すほうを選んじまったんだ)
 
 国を捨てれば王宮魔術師としての地位も失い、魔力もいずれ尽きてしまう。
 女魔術師は、そこに、こだわった。
 欲をかくと碌なことにはならない、の見本。
 
「できたかい?」
「すっかりね。500メートルってトコ」
「おや? 案外、浅いね」
「飽きたんだよ」
 
 いつものごとく、何気のない会話だ。
 2人には、工程の確認に過ぎない。
 
「な、なにを……」
「私は孫娘に弱くてね。あのに、きみを遠くにやると言ってしまったのさ」
 
 彼が、指を、ぱちん、と鳴らす。
 蔦が、するりとほどけた。
 
「きみの名を覚える必要はなさそうだ」
「あ……………」
 
 間の抜けた声だ。
 女魔術師は、何が起こったのか気づかなかったのだろう。
 少ししてから悲鳴が聞こえてくる。
 さっきまで女魔術師がいた場所には、ぽっかりと穴が空いていた。
 彼が、足先を、とんっとすると、すぐに穴が塞がる。
 
「専用部屋だ。居心地がいいと良いね」
「空気穴まで作ってやったんだぜ? 居心地が悪いってことは……」
 
 言葉を途中でめる。
 穴のあった辺りが内側に向かって、崩れ始めていたからだ。
 
「あーあ」
「ほら。居心地が悪かったのじゃないかね?」
 
 500メートルほど地下に、女魔術師が体を伸ばして入れる空間を、ジークは、作っていた。
 面倒だったが、地上まで続く空気穴まで、つけてやってもいたのだ。
 呼吸可能な棺桶といったところ。
 
「あんなにすぐ、ぶっ壊すことねーじゃねーか」
 
 女魔術師は、馬鹿だ、と思う。
 魔力のある間に、空気穴をつたい、少しずつ地上を目指していれば、出られなくはなかったのだ。
 ぎりぎり命が尽きるかどうか、という賭けではあったにしても。
 いきなり大きな魔術で穴から出ようとしたせいで、むしろ生き埋めになった。
 
「せっかく手をかけたのに、残念だったね」
「試す価値なんてあんのかよ? いつだって結果は同じになるんじゃねーの?」
 
 彼は、ジークに肩をすくめてみせる。
 試す価値はなくても、試す必要はあるのだろう。
 彼の孫娘のために。
 
「まぁね。わかってんだけどね」
 
 とはいえ、これも女魔術師の選択だ。
 いくつかある道の中で選んだ結果でしかない。
 あえて助ける理由はなかった。
 彼には、同情も憐憫もない。
 
「あれ……っ? アンタの孫娘……」
 
 ジークが気づく前だったのだろう。
 すでに彼は姿を消している。
 彼の孫娘の泣き声が、遠くから聞こえていた。
 ジークも、すぐに烏姿になり、そこに向かって飛び立つ。
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