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最終章 黒い羽と青のそら
目指せ皮むき職人 1
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朝食の席、レティシアは、フォークで野菜を突き刺し、もぐもぐ。
正面にいる「朝当番」のユージーンを、見ている。
(なんか、変……まぁ、いっつも変な人なんだけどさ……)
街に出た日から、半月と少し。
ユージーンが勤め人を始めて、ひと月余りが経っていた。
こうして一緒に食事をするのも、慣れてきている。
「あのさぁ、ユージーンって、サラダが嫌いなの?」
ぴくっと、ユージーンの手が止まった。
狼狽えている、というほどではないが、すぐに返答をしてこないのが怪しい。
「嫌いではない」
「なら、なんで、つつき回すだけで、なかなか食べないわけ?」
何度目だったかは覚えていなかったが、気づいたのだ。
ユージーンは、ナイフとフォークの扱いが見事。
それなのに、サラダに対しては、ノロノロもたくさしている。
フォークで突っついてはやめ、ほかの料理を口にして、また突っついて、というのを繰り返し、最後に、クタクタになった野菜を食べていた。
「生野菜というのは、あまり美味いと感じぬのでな」
「でもさ、見るからに、1種類だけ、避けたがってる気がするんだよね」
おそらくユージーンは、野菜が苦手なのではない。
その1種類が入っているがために、サラダを食べたくないだけのだ。
「ズバリ! ユージーン、ニンジンが嫌いなんでしょっ?」
「そのようなことはないと言っておろう。俺は大人だぞ? 好き嫌いなど……」
「ふーん、それなら、そのスライスのニンジン、ぱくっとしてみせてよ」
明らかに、ユージーンの顔色が変わる。
やっぱりと、レティシアは目を細めた。
「お前、ニンジンが食べられないのか?」
隣にいたグレイが、呆れ顔で、そう言う。
今日は朝当番なので、グレイとの組み合わせになっていた。
「た、食べられぬとは言っておらん」
「だったら、ぱくっといけるよね?」
ユージーンが認めれば、なにも無理に食べさせようとは思っていない。
ユージーンに、少しばかり「素直」さを学ばせようとしているだけだ。
思う、レティシアをユージーンが不穏な目で睨んでくる。
「では、お前は俺と手を繋げるのか?」
「は? ムリ」
「それと同じだ」
「私は、話が見えていないんだが?」
グレイが、首をかしげていた。
レティシアも首をかしげたくなる。
「俺は、人参に、とらうま、とやらがあるのだ」
「えっ? マジで?!」
「マジだ。あれは、酷いものだった……大きな心の傷になっている」
ユージーンが、クッと小さく呻いた。
そのトラウマ記憶が蘇っているのかもしれない。
ニンジンが、どんなトラウマになるのか、それはともかく。
「あ、あ~……ごめん、ごめん。それなら、しかたないね。無理して食べなくてもいいと思う」
「そういうわけにはいかん。食べ物を粗末にするなと、マルクに言われている」
ユージーンは、盛大に顔をしかめ、サラダを口にする。
そこまでのなにが?と、気にはなったが、思い出させるのも酷なことだ。
別の話題を、グレイに振ることにした。
「そう言えばね、式のことなんだけど」
「し、式……っ……」
「そう。いろいろゴタゴタしてるから、すぐには準備できないんだよ」
主に、目の前にいるユージーンのせいで。
彼がいる間は、落ち着くことなどなさそうだ。
父からは「最悪1年」と言われている。
もっとペースを上げたいところだが、ユージーンのこだわりが酷過ぎて、むしろ遅れている気すらしていた。
「待て。式とは、なんだ?」
「グレイとサリーの結……婚姻の儀式をする予定にしててさ」
ほかのみんなは、知っていることだ。
マルクなどは「遅過ぎだ」と言いながらも、祝福していた。
「そうか、2人は婚姻するのだな。良いことではないか」
「そうなんだよ。その儀式がね、1年後くらいになっちゃうかもしれないんだ」
「なぜだ?」
お前のせいだ。
とは言えないので、曖昧に笑う。
「わ、私もサリーも忙しいからな。なかなか時間が取れないんだ」
「せっかくの式なんだし、ササッとするようなのじゃ嫌だしなー」
「王族の婚姻の儀は、3日かけて行う。準備は、半年ほどだが、事前に備えていることも多い。今から始めるとなれば、1年かけてもおかしくはなかろう」
お、と思った。
ユージーンが、意外に、まともなことを言っている。
「しかし、貴族の婚姻は3日もかけてやらんだろ? 準備も、そこまで長くかけるとは聞いたことがないが」
「式自体は1日で、そのあと、お披露目会をするんだよね」
「1日……どのような式となるのだ?」
「ウチのみんなも列席して、誓いを立てるって感じ」
「俺は、貴族の式には列席したことがない。作法を教わっておかねば……」
ユージーンは、すっかり列席する気満々。
2人の結婚式は、ユージーンが王宮に帰ってから、と思っていたのだけれど。
(呼ばないと、うるさそうだなぁ……宰相になってたら、忙しくて無理……なんてことには、ならないんだろうね)
どんな何をしようと、列席しそうな気がする。
仲間外れだの、差別だのと騒ぐ姿が目に浮かんだ。
この話題も失敗だったかもしれない。
少なくともグレイとサリーには、申し訳ないことになってしまった。
「レ、レティシア様、し、式のことなのですが……」
グレイが、レティシアに話しかけてくる。
が、心ここにあらずといったふうに、視線を泳がせていた。
「や、やはり……少々……」
「なに言ってるんだよ、グレイ! 誓いの口づけなんだから、証人の前でしたって、ちっとも恥ずかしいことじゃないじゃん!」
「し、しかし……証人といっても、人前で口づけなどというのは……」
サリーが恥ずかしがるのなら、レティシアにも、わかる。
さりとて、恥ずかしがって腰が引けているのは、グレイだけなのだ。
実際、今もサリーは、呆れ顔をしている。
「けしからんッ!!」
だんっ!!
ユージーンが、フォークを持った右手をテーブルに叩きつけていた。
レティシアのフォークから、またレタスが、ぱた…と。
「見損なったぞ、グレイ! 貴様が、そのような不逞な輩であっとはな!」
「ちょ……ゆ、ユージーン……?」
「不逞とは、どういう意味だ! 聞き捨てならないぞっ!!」
「ちょ、ちょ……ぐ、グレイも……」
男性2人が立ち上がり、隣同士で睨み合う。
なんだか、おかしなことになってしまった。
ユージーンが絡むと、たいていは「おかしな」ことになるのだけれども。
「不逞な輩だから、そう言ったまでだ!」
「私は、不逞なことなどしていない!」
「言い訳とは、見苦しいぞ、グレイ!」
「なんだと! 私が、いつ言い訳をしたというんだ!」
グレイが、ユージーンに掴みかからんばかりの勢いになっている。
が、ユージーンは、サッと身を翻した。
そして、後ろに控えていたサリーのほうに、歩み寄る。
「サリー、あのような不逞な男との婚姻など、やめてしまえ! お前は、良い女だ。しっかりしておるし、見目も良い。あんな黒縁より、もっと良い男が、いくらでもおろう。近くにおらぬなら、俺が紹介してやる」
突然のことに、レティシアは茫然とした。
レティシアにとって、グレイとサリーは、お似合いの2人だからだ。
サリーもサリーで、唖然としている。
「貴様……っ……どういうつもりだ!」
グレイが怒るのも無理はない。
ようやく結ばれた2人なのだ。
なにも知らないユージーンに、破局を迫られる理由などなかった。
(き、急に……なに言い出してんの、この人……頭、大丈夫なの?)
なにをどうすれば、そうなるのか、さっぱりわからない。
ユージーンがいる限り、屋敷に平穏は訪れそうにない、と思った。
正面にいる「朝当番」のユージーンを、見ている。
(なんか、変……まぁ、いっつも変な人なんだけどさ……)
街に出た日から、半月と少し。
ユージーンが勤め人を始めて、ひと月余りが経っていた。
こうして一緒に食事をするのも、慣れてきている。
「あのさぁ、ユージーンって、サラダが嫌いなの?」
ぴくっと、ユージーンの手が止まった。
狼狽えている、というほどではないが、すぐに返答をしてこないのが怪しい。
「嫌いではない」
「なら、なんで、つつき回すだけで、なかなか食べないわけ?」
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それなのに、サラダに対しては、ノロノロもたくさしている。
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「生野菜というのは、あまり美味いと感じぬのでな」
「でもさ、見るからに、1種類だけ、避けたがってる気がするんだよね」
おそらくユージーンは、野菜が苦手なのではない。
その1種類が入っているがために、サラダを食べたくないだけのだ。
「ズバリ! ユージーン、ニンジンが嫌いなんでしょっ?」
「そのようなことはないと言っておろう。俺は大人だぞ? 好き嫌いなど……」
「ふーん、それなら、そのスライスのニンジン、ぱくっとしてみせてよ」
明らかに、ユージーンの顔色が変わる。
やっぱりと、レティシアは目を細めた。
「お前、ニンジンが食べられないのか?」
隣にいたグレイが、呆れ顔で、そう言う。
今日は朝当番なので、グレイとの組み合わせになっていた。
「た、食べられぬとは言っておらん」
「だったら、ぱくっといけるよね?」
ユージーンが認めれば、なにも無理に食べさせようとは思っていない。
ユージーンに、少しばかり「素直」さを学ばせようとしているだけだ。
思う、レティシアをユージーンが不穏な目で睨んでくる。
「では、お前は俺と手を繋げるのか?」
「は? ムリ」
「それと同じだ」
「私は、話が見えていないんだが?」
グレイが、首をかしげていた。
レティシアも首をかしげたくなる。
「俺は、人参に、とらうま、とやらがあるのだ」
「えっ? マジで?!」
「マジだ。あれは、酷いものだった……大きな心の傷になっている」
ユージーンが、クッと小さく呻いた。
そのトラウマ記憶が蘇っているのかもしれない。
ニンジンが、どんなトラウマになるのか、それはともかく。
「あ、あ~……ごめん、ごめん。それなら、しかたないね。無理して食べなくてもいいと思う」
「そういうわけにはいかん。食べ物を粗末にするなと、マルクに言われている」
ユージーンは、盛大に顔をしかめ、サラダを口にする。
そこまでのなにが?と、気にはなったが、思い出させるのも酷なことだ。
別の話題を、グレイに振ることにした。
「そう言えばね、式のことなんだけど」
「し、式……っ……」
「そう。いろいろゴタゴタしてるから、すぐには準備できないんだよ」
主に、目の前にいるユージーンのせいで。
彼がいる間は、落ち着くことなどなさそうだ。
父からは「最悪1年」と言われている。
もっとペースを上げたいところだが、ユージーンのこだわりが酷過ぎて、むしろ遅れている気すらしていた。
「待て。式とは、なんだ?」
「グレイとサリーの結……婚姻の儀式をする予定にしててさ」
ほかのみんなは、知っていることだ。
マルクなどは「遅過ぎだ」と言いながらも、祝福していた。
「そうか、2人は婚姻するのだな。良いことではないか」
「そうなんだよ。その儀式がね、1年後くらいになっちゃうかもしれないんだ」
「なぜだ?」
お前のせいだ。
とは言えないので、曖昧に笑う。
「わ、私もサリーも忙しいからな。なかなか時間が取れないんだ」
「せっかくの式なんだし、ササッとするようなのじゃ嫌だしなー」
「王族の婚姻の儀は、3日かけて行う。準備は、半年ほどだが、事前に備えていることも多い。今から始めるとなれば、1年かけてもおかしくはなかろう」
お、と思った。
ユージーンが、意外に、まともなことを言っている。
「しかし、貴族の婚姻は3日もかけてやらんだろ? 準備も、そこまで長くかけるとは聞いたことがないが」
「式自体は1日で、そのあと、お披露目会をするんだよね」
「1日……どのような式となるのだ?」
「ウチのみんなも列席して、誓いを立てるって感じ」
「俺は、貴族の式には列席したことがない。作法を教わっておかねば……」
ユージーンは、すっかり列席する気満々。
2人の結婚式は、ユージーンが王宮に帰ってから、と思っていたのだけれど。
(呼ばないと、うるさそうだなぁ……宰相になってたら、忙しくて無理……なんてことには、ならないんだろうね)
どんな何をしようと、列席しそうな気がする。
仲間外れだの、差別だのと騒ぐ姿が目に浮かんだ。
この話題も失敗だったかもしれない。
少なくともグレイとサリーには、申し訳ないことになってしまった。
「レ、レティシア様、し、式のことなのですが……」
グレイが、レティシアに話しかけてくる。
が、心ここにあらずといったふうに、視線を泳がせていた。
「や、やはり……少々……」
「なに言ってるんだよ、グレイ! 誓いの口づけなんだから、証人の前でしたって、ちっとも恥ずかしいことじゃないじゃん!」
「し、しかし……証人といっても、人前で口づけなどというのは……」
サリーが恥ずかしがるのなら、レティシアにも、わかる。
さりとて、恥ずかしがって腰が引けているのは、グレイだけなのだ。
実際、今もサリーは、呆れ顔をしている。
「けしからんッ!!」
だんっ!!
ユージーンが、フォークを持った右手をテーブルに叩きつけていた。
レティシアのフォークから、またレタスが、ぱた…と。
「見損なったぞ、グレイ! 貴様が、そのような不逞な輩であっとはな!」
「ちょ……ゆ、ユージーン……?」
「不逞とは、どういう意味だ! 聞き捨てならないぞっ!!」
「ちょ、ちょ……ぐ、グレイも……」
男性2人が立ち上がり、隣同士で睨み合う。
なんだか、おかしなことになってしまった。
ユージーンが絡むと、たいていは「おかしな」ことになるのだけれども。
「不逞な輩だから、そう言ったまでだ!」
「私は、不逞なことなどしていない!」
「言い訳とは、見苦しいぞ、グレイ!」
「なんだと! 私が、いつ言い訳をしたというんだ!」
グレイが、ユージーンに掴みかからんばかりの勢いになっている。
が、ユージーンは、サッと身を翻した。
そして、後ろに控えていたサリーのほうに、歩み寄る。
「サリー、あのような不逞な男との婚姻など、やめてしまえ! お前は、良い女だ。しっかりしておるし、見目も良い。あんな黒縁より、もっと良い男が、いくらでもおろう。近くにおらぬなら、俺が紹介してやる」
突然のことに、レティシアは茫然とした。
レティシアにとって、グレイとサリーは、お似合いの2人だからだ。
サリーもサリーで、唖然としている。
「貴様……っ……どういうつもりだ!」
グレイが怒るのも無理はない。
ようやく結ばれた2人なのだ。
なにも知らないユージーンに、破局を迫られる理由などなかった。
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