理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

文字の大きさ
249 / 304
最終章 黒い羽と青のそら

ウサちゃんの正体 1

しおりを挟む
 ユージーンの憂鬱そうな表情に、レティシアは、多少の同情を覚える。
 少し偏見が過ぎていたかもしれないと、反省もしていた。
 
(男の人でも、そーいうコトってあるんだなぁ……そりゃあ、そっか。自分で選べないっていうのも……)
 
 かなり微妙な感じがする。
 今まで、レティシアの中では、時代劇のお殿様的なイメージがあったのだ。
 大勢の女性がはべっていて、お殿様が気に入った女性を床に呼ぶ、という感じ。
 その時代の女性にとっては栄誉なことであり、否も応もない。
 選ぶのはお殿様で、女性に選択肢はないとの、印象を持っていた。
 
(嫌って言えないのは、ユージーンのほうだったのか……それで、割り切るようになっちゃったのかも……義務とか種馬とか言ってたもんなぁ)
 
 ユージーンの責任は、想像していたよりも重かったのかもしれない、と思う。
 レティシアは、王族なんていう高貴な出自とは、縁もゆかりもない。
 血統に対する「責任」だって、身近なものには感じられずにいた。
 
(与える者の血筋が途切れちゃったら、魔術師的に、大変なことになるもんね……養子を取ればいいってわけにはいかないんだから、ユージーンか、ザカリーくんが頑張るしかないのか……)
 
 レティシアは、ザカリーに、その血統がないことを知らない。
 だから、まだユージーンの差し迫った危機感は、わからずにいる。
 それでも、大変そうだというのは、なんとなく理解した。
 
「正妃選びの儀の際に、お前が言っていたことは、正しかったと、俺も思う。よく知りもせぬ相手と婚姻したところで、つまらんことになっていたであろうな」
「あ……うん……」
 
 ユージーンが、小さく笑うのを見て、戸惑う。
 どう答えればいいのか、わからなかった。
 なにしろ、ユージーンは、とても寂しそうだったので。
 
(……でもなぁ……ユージーンを、そういう意味で好きかっていうと……やっぱり違うんだよね……)
 
 今夜のユージーンが、いつもと違う様子なのには、気づいている。
 きっと、ものすごく気を遣っているに違いない。
 それは、特定の意味を持つアプローチなのだろう。
 レティシアも、完全に恋愛未経験ではないのだから、わからなくはない。
 現代日本にいた頃のレティシアだったら、おつきあい開始となっていた可能性もある。
 
 さりとて、少し前に「適当」な気持ちでいたことを、反省していた。
 この世界で、しかも、ユージーン相手となると「結婚を前提」にしなければならないのだ。
 適当な返事なんて、できない。
 少なくとも、今はユージーンに恋心をいだいてはいないのだし。
 
「えっとさ……」
 
 ユージーンを傷つけるかもしれないが、今の、正直な気持ちくらいは話しておくべきだろう。
 そう思って、口を開いたのだけれども。
 
「ああ! ここにいらしたのですね!」
 
 声に、話は中断。
 ユージーンともども、そちらに視線を向けた。
 
 挨拶に行くべきだった相手、トラヴィス・ウィリュアートンが立っている。
 腕には、赤ん坊が抱かれていた。
 歩み寄ってくるトラヴィスに、レティシアもユージーンも立ち上がる。
 
「大勢に囲まれておったのでな。後から挨拶に行こうと思っていたのだが」
「いえ、お気になさらず。実は、レティシア姫様に、少々、お話がございまして、人がいないところのほうが、私にとっても望ましかったのです」
 
 トラヴィスは、兄のレイモンドとは、まったく印象が異なっていた。
 落ち着いていて、人当たりも良さそうに感じる。
 ふわっとした淡い茶色の髪は、少し短めだが、おそらく天然の巻き毛だろう。
 ゆるく、くるんとしていた。
 瞳も同じ色で、やわらかみがある。
 
(お母さんが違うんだっけ……それにしても、似てなさ過ぎじゃない?)
 
 ユージーンとザカリーも似ていないが、どこか雰囲気に似たところはあった。
 血の繋がりがないと知らないので、単純に、やはり兄弟だなと思っていたのだけれど、それはともかく。
 
「レティシアにか?」
「そうなのです。不躾とは存じますが、お許し願えませんか?」
 
 ユージーンが、レティシアに視線を投げてくる。
 悪い人ではなさそうだし、会話を拒む理由はない。
 どの道、挨拶に行こうとは思っていたのだ。
 
「そちらで働いているメイド長の、出自についてです」
「サリーの?」
 
 予想外の質問に、レティシアは困ってしまう。
 身分を気にしたことがないので、みんなの出自も知らないからだ。
 グレイに聞けばわかるのだろうが、聞いたこともなかった。
 とはいえ、レティシアは、曲がりなりにも屋敷の主の娘。
 知らないというのは、まずいのではなかろうか。
 
「レティシア。お前からは話しにくかろう。俺が話してもよいか?」
 
 そうだった。
 ユージーンは、自分を「念入り」に調べ上げている。
 ウチのみんなのことも、いろいろと知っているようだ。
 
「じゃ、じゃあ……お願い……」
 
 ユージーンの念入りさには、ちょっぴり引くけれども、ここは頼っておくことにする。
 同時に、どこまで知っているか、1度、はっきりさせておこうとは思った。
 
「ウチのメイド長、サリンダジェシカ・ファレルは、ファレル男爵家の四女で末の娘だ。上に4人の兄と3人の姉がいる。ファレルは知っての通り、そもそもナイト爵であったが、戦争の折に武勲を立て、男爵の爵位を与えられた。しかし、領地は狭く、夏場に雨が降らぬと、実りの悪い地質でもある。たしか、ラドホープ侯爵、ああ、これは、元々は辺境伯だったが、爵位換えで侯爵になった、このラドホープ侯爵家の下位貴族だな」
 
 引く。
 ドン引きする。
 サリーがいたら、倒れていたかもしれない。
 
(出自から、どんだけ情報出してくるんだよ! 領地がどうとか、元はどうとか、関係あるっ? 超コワイんデスけど!)
 
 絶対に、そう、絶対に、全員の詳細な個人情報をユージーンは握っている。
 今の説明だけでも、相当なものだが、もっと詳しく知っていそうな気がした。
 思った時、ユージーンが、ちらっと、レティシアに視線を向ける。
 が、何も言わず、トラヴィスに視線を戻した。
 
「やはり、そうでしたか。実は……」
「トラヴィス、俺も今、話していて気づいたのだが、お前の妻は、サリーの姪なのではないか?」
「仰る通りにございます」
 
 ユージーンは、あえてトラヴィスの言葉を遮ったように思える。
 なぜかは、わからない。
 ただ、そう感じたのだ。
 とはいえ、引っ掛かったのは、一瞬だけだった。
 
「えっ?! それなら、この子って……」
「サリーは、この赤子の大叔母にあたる」
 
 思わず、ササッと近づいて、トラヴィスの腕の中を覗き込む。
 まだ細いけれど、赤味がかった髪に、濃褐色の瞳。
 なんとなくサリーに似ていた。
 
 赤ちゃんは、たいてい可愛らしく感じるが、サリーの身内だと思うと、よけいに可愛く思える。
 元の世界では、レティシアに親族は多かった。
 身内の集まりに、赤ちゃん連れで来る親戚も少なくなかったのだ。
 つい頬に、つんつんと、ふれてみる。
 
「うわぁ……ふくふく……可愛いなぁ。もう首がすわってる? 4ヶ月くらいなのかな?」
「いえ、まだ生後2ヶ月です」
 
 ここでも体質の違いを感じた。
 赤ちゃんの成長速度も違っているのかもしれない。
 
「この赤毛は、サリーに似ておるな」
「名は、ルーナティアーナと申します。ルーナとお呼びください」
「ルーナか。月の……」
 
 いつものユージーンが戻ってきたのか、蘊蓄うんちくが始まりそうな気配。
 それを阻止したのは、ルーナだった。
 
「あいたっ! これ、なにをする!」
 
 ルーナが、前かがみになっていたユージーンの髪を掴んだのだ。
 どのくらい痛かったのかは、わからない。
 赤ん坊は手加減を知らないので、髪を引っ張られると、意外に痛い。
 だとしても。
 
「あっ! ちょ……っ……」
 
 止める間もない。
 ユージーンが、ルーナの手を軽く、ぺんっと、はたいてしまった。
 ルーナは驚いたのか、手を離した。
 たいした力でなかったのは、見ていたので、わかる。
 とはいえ、赤ん坊をはたくなんて、考えられない。
 
「あ……あ……ぁあああーんッ!」
 
 だろうね、と思った。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

初恋の還る路

みん
恋愛
女神によって異世界から2人の男女が召喚された。それによって、魔導師ミューの置き忘れた時間が動き出した。 初めて投稿します。メンタルが木綿豆腐以下なので、暖かい気持ちで読んでもらえるとうれしいです。 毎日更新できるように頑張ります。

【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

恋愛
「神に祈るだけで曖昧にしか治らない。そんなものは治療とは言わない」  男尊女卑が強い国で、女であることを隠し、独自の魔法を使いトップクラスの治療師となり治療をしていたクリス。  ある日、新人のルドがやってきて教育係を押し付けられる。ルドは魔法騎士団のエースだが治療魔法が一切使えない。しかも、女性恐怖症。  それでも治療魔法が使えるようになりたいと懇願するルドに根負けしたクリスは特別な治療魔法を教える。  クリスを男だと思い込み、純粋に師匠として慕ってくるルド。  そんなルドに振り回されるクリス。  こんな二人が無自覚両片思いになり、両思いになるまでの話。 ※最初の頃はガチ医療系、徐々に恋愛成分多めになっていきます ※主人公は現代に近い医学知識を使いますが、転生者ではありません ※一部変更&数話追加してます(11/24現在) ※※小説家になろうで完結まで掲載 改稿して投稿していきます

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

処理中です...