理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

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最終章 黒い羽と青のそら

ロケットの中身 3

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 ジークは、やはり面白くない気分でいる。
 烏姿で、なおかつ姿は消していた。
 会話が聞こえるくらい、2人との距離は近い。
 ユージーンは、ジークの気配を、察してはいるのだろう。
 視線で捉えられたわけではないが、ジークの側も察するところがあるのだ。
 
 気配に気づかれている、と、気づいている。
 
 さりとて、ジークは気にしていない。
 ユージーンだって、気にはしていない。
 それも、わかる。
 どうだっていいのだ、そんなことは。
 
 ユージーンは、ジークの味方ではないし、敵でもなかった。
 用があれば話しかけたり、手を貸したりもしなくはない。
 ただ、もし、また彼の孫娘にとって、危険な相手になることがあれば、いつでも始末をつけるつもりだ。
 仲間意識なんてものを、ジークは必要とせずにいる。
 
 彼の武器であり、相棒。
 
 それだけで良かった。
 もとより人は嫌いだし。
 
(ダンスだってサ)
 
 尾が、ピンッと上を向く。
 烏姿のジークが、顔をしかめた時に出る仕草だ。
 
 大ホールの中、2人が揃って入っていくのを見つめている。
 本当は、放っておきたいところだが、そうもいかない。
 渋々、2人を追って、中に入った。
 
 この城には、大勢の魔術師がいる。
 そのため、魔力感知も、あまり意味がない。
 彼ほどではないが、ジークも抑制くらいはできる。
 適当に抑えているため、ジーク本来の大きさの魔力は、感知されないはずだ。
 
 もちろん腕の立つ魔術師ならば、見抜くことはできる。
 あの女魔術師も、その程度の腕はあった。
 とはいえ、彼のほうが上手うわてに過ぎて、誤認させられてしまったのだけれど。
 
(ここには、もう王宮魔術師は、いねーな)
 
 城に入る前、上空から確認はしている。
 もっとも、彼が、ジークを孫娘につけたことで、そうだろうとは思っていた。
 あの女魔術師やサイラスのような魔術師がいたら、彼は、けして孫娘のそばを離れなかった。
 
 ジークを信頼していないということではなく、むしろ、逆だ。
 ジークという武器であり、相棒と一緒であれば、より安全を確保できる。
 彼が、そう考えていると、わかっていた。
 彼からの信頼は、ジークにとっての誇りであり、自分の存在価値そのものだ。
 
 それに、今夜、彼の孫娘には「個」の絶対防御が、かけられていない。
 見た目で判断できはしないが、ジークには、わかる。
 
 額への口づけと、頭ぽんぽん。

 彼が彼女の傍を離れる際に、よくする仕草。
 魔術発動に必要ではないのだろうが、癖になっているらしい。
 今夜は、別々に出ているので、それが、なかった。
 
 さりとて、すでに、彼は、レイモンド・ウィリュアートンと「話をつける」ため、城にいた。
 近くにはいるのだし、大層な魔術師もいないし。
 ユージーンとダンスもしなくちゃならないし。

 絶対防御がかかっていると、否応なく素力が上がる。
 うっかりユージーンを昏倒させてしまうかもしれないのだ。
 花瓶の時のように。

 だから、彼は、あえて孫娘に絶対防御をかけなかったのだろう。
 今夜は「選択肢」の夜だった。
 
(選択肢……あの間抜けがね)
 
 彼の孫娘が、ユージーンと、ダンスホールに移る。
 ジークは、全体がよく見えるように、シャンデリアの上に、とまった。
 見下ろした先にある、2人の姿が、どうしても気に食わない。
 
 彼の言う「選択肢」の意味はわかる。
 彼の孫娘には、日向ひなたが似合うのだ。
 影の暗さの中に、いるべきではない。
 ジークだって、ずっと彼女を見てきている。
 怒ったり、笑ったりする姿は、見ていて面白かった。
 
 ただし、泣き顔だけは、いただけない。
 
 街で、泣き声が聞こえてきた時は、どうしたのかと焦ったほどだ。
 彼が、戸惑いを隠しきれず、動揺していたのも感じている。
 ジークも、どうすればいいのか、わからなかった。
 ザカリーのことなど気にもめず、何があったのかと、彼女の足元で、ウロウロしていた。
 ウサギの耳がくっついて、笑顔を取り戻した姿に、ホッとしてもいる。
 
 彼の、たったひとつの、宝。
 
 そして、彼の孫娘は、そうであるに相応しい。
 日向にいてほしいと思いつつも、真逆の思いにもとらわれる。
 いたって「人」である彼の孫娘は「人ならざる者」の彼を、受け入れていた。
 
 彼には、彼女だけなのだ。
 彼女だけが、彼に寄り添える。
 
 だからこそ、なぜ今のままではいけないのか、と思ってしまう。
 彼とジークが彼の孫娘を守り、穏やかな日々を続けていくこと。
 それが、ジークの思う最善だった。
 彼女が笑い、彼が笑えていれば、ジークも笑える。
 邪魔なんて入ってほしくない。
 
(ちぇっ……つまんねーの……)
 
 2人の踊っている様子に、ふんっと、そっぽを向いた。
 だいたい、ユージーンでは、彼の孫娘を守れやしないのだ。
 選択肢にもならない気がする。
 
(それにサ……理想の男って、あの人だったんじゃねーか)
 
 2人の会話を聞き、ジークも、それを知った。
 わざわざ彼に言うつもりはないが、ジークは納得している。
 そりゃそうだ、と思った。
 そして、少し良い気分になったのだけれども。
 
(血かぁ……やっぱ、よくわかんねーや……心配すんのは、わかるけど)
 
 彼の孫娘は、彼の血を受け継いでいる。
 彼が、選択肢を与えようとしているのも、結局のところ、血へのこだわりがあるからなのだ。
 
 確かに、彼女の魔力は、凄まじく大きい。
 ちょっとしたきっかけで、暴走しかねなかった。
 それに、大きな魔力を持っているということは、彼と同じ力を使えるようになる可能性もある。
 その2つが心配で、彼は、孫娘を見守り続けてきたのだ。
 
(そちらはどうだい、ジーク?)
 
 即言葉そくことばで、彼が話しかけてくる。
 きっとレイモンドを捕まえたのだ。
 
(ん~? 踊ってる)
(彼は、レティを怒らせも、泣かせもしなかったのだね)
(そーだな)
 
 ジークは、気のない返事をする。
 彼が「最も安全」と言っていたように、危険はなさそうだった。
 備えは必要だと、ジークも思う。
 だとしても、ちょっとくらいは、彼の様子を見に行きたかった。
 レイモンドに「話をつける」場面に関われないのが、残念だったのだ。
 
(こちらも、早々に話をつけて、そちらに行くよ)
(そうしてくれ。もう、オレ、寝ちまいそーなくらい退屈してんだぞ)
 
 彼が、小さく笑う。
 ジークの、気に食わなさを、わかっているのだろう。
 
(レティが、彼の足でも踏むといいね)
(そうならなくても、オレが代わりに踏んどいてやるよ)
(頼んだよ、ジーク)
(ああ)
 
 即言葉が切れ、また退屈な時間の始まりだ。
 ジークは、彼と話しながらも、2人から視線を外してはいない。
 ちょうどダンスが終わる。
 
(なんだ?)
 
 シャンデリアから、壁際の窓に移動した。
 2人に近い場所だったからだ。
 魔力感知は無意味だとしても、魔力の発動は、さすがにできない。
 寄聴よせぎきが使えない以上、声のとどくところにいる必要がある。
 
「落としたのか?」
「わかんない……気づいたら、なかったの……」
 
 彼の孫娘が、首元にさわっている。
 ジークも、すぐに気づいた。
 いつも、彼女の首に下げられているネックレスがない。
 踊っている最中さいちゅうに落としたのか。
 
(おい)
(む。ジークか?)
(このホールん中には、ないぜ?)
 
 ジークは「鼻」が利く。
 本来の意味の、鼻ではないが、それはともかく。
 
 彼の孫娘がつけていたネックレスだ。
 しかも、外したところを、ほとんど見たことがない。
 あのネックレスには、彼女の魔力がまとわりついている。
 落ちていれば、その魔力痕で、即座に見つけられた。
 それが、ダンスホール内の、どこにもないのだ。
 
(誰かが拾って、持って行ったのやもしれん)
 
 貴族であれば、見向きもしないようなネックレス。
 けれど、ホールには接客係も、大勢いる。
 拾って懐に入れてしまう者も、少なくはなさそうだった。
 貴族にとってはどうでもいい代物でも、平民にとっては違うのだ。
 
「レティシア、ここで待っていろ……いや、待っていてくれるか?」
「うん……」
「心配するな。すぐに探してきてやる」
 
 しょんぼりした風情で、彼の孫娘が、うなずく。
 レティシアの傍から、ユージーンが離れて行った。
 
 ジークは、少し迷う。
 一緒に探すべきかもしれない、と思ったのだ。
 ともあれ、彼女にとっては、大事なものなのだし。
 
(けど……やっぱり、探すのはあいつに任せるか……連絡はつくんだしな)
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