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最終章 黒い羽と青のそら
恋かどうかがわかりません 3
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サリーにカツラをつけてもらって、変装中。
存外、カツラというのは、つけるのが難しいのだ。
思えば、現代日本の「ウィッグ」というのは、よく出来た代物だった。
多少のコツは必要だが、このカツラほどではない。
学生の頃、よく知らない美容院に行って、大変な有り様にされてしまったことがある。
髪がある程度「復元」されるまで、ウィッグを使っていた。
たいしてファッションに興味はないレティシアでさえ、ウィッグ着用を余儀なくされるくらい、大変な有り様だった。
今は、サリーに髪を結ってもらっているので、問題はない。
この世界は、前の世界と、なにかと体質が違う。
髪についても、ある一定の長さから伸びないらしかった。
今は、ホレスの中旬、12月半ばなので、正妃選びの儀から、10ヶ月ほどが、経っている。
個人差はあれど、髪は、1ヶ月に1センチ程度、延びるものなのだ。
大変な有り様にされてしまった時に、調べている。
つまり、本来なら、10センチくらいは伸びていても、おかしくない。
が、レティシアの髪は、正妃選びの儀の頃と同じ。
仮に、伸びていたとしても、ものすごくわずかだろう。
そういう具合だからか、女性は、たいていレティシアと似た髪の長さ。
ジョーのようなショートヘアは、とてもめずらしいのだ。
「外は、かなり寒いですからね。外套をお召しになられたほうが良いですわ」
「そっかぁ。ウチにいると、そのあたり、意識しないもんなぁ」
屋敷は、常に快適な温度で保たれている。
季節によって、それなりに「衣替え」はするものの、いわゆる、暑さ寒さを意識することはなかった。
サリーに外套を羽織らせてもらう。
今日は、無地の淡い緑色をしたワンピース。
十分、街に溶け込めるだろう、とサリーに言われていた。
「貴族であることはわかるでしょうけれど、階級が上とは、わからないでしょう」
「そういうもんなんだね」
「上級貴族の令嬢がたは、街に出る際も、派手に着飾りますし、護衛騎士も大勢、引き連れているものです」
そんな「大名行列」みたいなことはしたくない。
気軽なお出かけがしたかった。
ゾロゾロと大勢で街を練り歩くなんて、恥ずかしいし、なにより面倒くさそうに感じる。
あっちの店、こっちの店と、飛び込むわけにもいかないだろうし。
「レティシア様」
「ん? なに?」
サリーが、なにやら言いにくそうに、視線をさまよわせていた。
しばしの間のあと、レティシアに言う。
「ユージーンは……悪い人ではないと思います」
「え? うん。知ってるよ?」
ユージーンは、悪人ではない。
かなり面倒だし、厄介な人だが、いいところもあると知っていた。
サリーだって、そう言っていたはずなのだけれども。
「加減を知らないところはありますが、真面目ですし、何事にも熱心です」
「そうだね?」
それも知っている。
サリーの言葉に、反論する気はない。
「王太子だった頃とは、様子が違う、と言いましょうか……納得しているからかもしれませんが、身分を持ち出すこともありません」
「うん。そういうところは、いいトコだと思うよ」
これから、ユージーンと出かけることになっていた。
だから、サリーは心配しているのだろう。
レティシアは、なにせユージーンに怒ることが多い。
主に、ユージーンの思考が、レティシアの理解の範疇を、超えているからだ。
いまだにキャッチボールは、うまくいっていなかった。
ユージーンの投げたボールは「消える魔球」だし。
レティシアが投げると、ユージーンは明後日のほうに取りに行くし。
(喧嘩になっちゃうと思ってんのかな……有り得る……)
思うレティシアに、サリーが、ものすごく言いにくそうに言う。
「私は……その……ユージーンは、そう悪くないお相手だと……」
「へ……?」
「いえ……もちろんレティシア様の好みではないと、存じてはおります。ですが、彼は真面目で、一本気でございましょう? レティシア様だけを見ておりますし、不逞なことはせず、レティシア様に尽くしてくれるのではないでしょうか」
もしや、まさか。
「あ~……えーと……サリー……ユージーンのこと、勧めてる?」
おつきあいするのには、いい相手だ。
サリーの言いたいことは、そういうことなのではなかろうか。
いや、そういうことだろう。
「婚姻などはともかく……意識されてみてはどうか、とは思っております」
ふわぁ!と、叫びそうになった。
あのサリーが、あのサリーが、そんなことを言うなんて!とびっくりしている。
サリーはユージーン嫌いの筆頭だったからだ。
サリーのお相手のグレイだって、日々、ユージーンには悩まされている。
どこがどうなって「優良物件」扱いになったのか、想像がつかない。
「レティシア様も、ユージーンには気を遣わずにいられるのではないですか?」
「うん。まぁ、それは、あるね」
「最終的には、気楽な相手ほど長続きするものなのですよ」
サリーの言葉に、納得できる部分が、なくはなかった。
常に緊張し、気を張っていなければならない相手は、疲れる。
さりとて、ユージーンだって、別の意味で、疲れる相手だ。
「彼は、レティシア様の気を引こうと、一生懸命なのです」
う…と、胸に何かが突き刺さる。
さすがに、それだけは無視してはいけないと思った。
少なくとも、レティシアは、ユージーンの気持ちを知っているのだから。
「サリーの言いたいことは、わかったよ。できるだけ先入観ナシで過ごしてみる」
さっきまでは、単なる「お出かけ」くらいに考えていた。
けれど、一応は「デート」という括りに入れることにする。
それで、意識改革に繋がるかはともかく。
部屋を出て、階下に降りた。
すでに、ユージーンが玄関ホールで待っている。
隣には、祖父とグレイが立っていた。
「レティ、仕上げをしようか」
祖父が、レティシアの顎をクイっと持ち上げる。
うっかり、ドキドキしてしまった。
フッと息が、かけられる。
(なんかもう……倒れそうだよ……心臓バクバクだよ……)
カラーコンタクトをつけてくれただけなのは、わかっていた。
それでも、頭がグラグラする。
祖父の顔を間近で見るのは、心臓に悪い。
アイドルのファン顔負けに「キャー、カッコいー!」と叫びたくなるのだ。
(いやいや……そうじゃなくて……今日は、デート……一応……デートだし)
相手を放っぽって、祖父に、うかうかウットリしている場合ではない。
気恥ずかしくなり、レティシアは、そそっと祖父から離れた。
「じゃあ……行ってくるね……」
「楽しんでおいで、私の可愛い孫娘」
頭を軽く、ぽんぽんとされる。
なぜか、ちょっぴり不安になり、祖父を見上げた。
祖父は、穏やかな笑みを浮かべている。
(やっぱり……お祖父さまは、一緒じゃないんだ……)
どこに行くにも、たいていは祖父が一緒だった。
前回の夜会にだって、来てくれている。
長く離れたことはなく、ずっと傍にいてくれた。
だから、祖父のいない状態に、レティシアは慣れていない。
それこそ、ウチのみんなと4,5人で、わいわい出かけるのなら、不安にはならなかっただろう。
ウチにいるのと、たいして変わらないからだ。
「レティシア?」
ユージーンに声をかけられ、ハッとする。
祖父だって、いつも自分につきあえるわけではないのだ。
ユージーンに対しても、失礼だったなと、反省する。
「今日は、ユージーンの奢りだよね?」
「そうだ」
うむ、と、いつも通り、ユージーンが鷹揚にうなずいた。
その仕草に、ホッとする。
(ま、ユージーンは、ユージーンだしさ。気楽に行こう)
気負っても、しかたがない。
レティシアは、今日を楽しもうと、祖父に手を振り、屋敷を出る。
存外、カツラというのは、つけるのが難しいのだ。
思えば、現代日本の「ウィッグ」というのは、よく出来た代物だった。
多少のコツは必要だが、このカツラほどではない。
学生の頃、よく知らない美容院に行って、大変な有り様にされてしまったことがある。
髪がある程度「復元」されるまで、ウィッグを使っていた。
たいしてファッションに興味はないレティシアでさえ、ウィッグ着用を余儀なくされるくらい、大変な有り様だった。
今は、サリーに髪を結ってもらっているので、問題はない。
この世界は、前の世界と、なにかと体質が違う。
髪についても、ある一定の長さから伸びないらしかった。
今は、ホレスの中旬、12月半ばなので、正妃選びの儀から、10ヶ月ほどが、経っている。
個人差はあれど、髪は、1ヶ月に1センチ程度、延びるものなのだ。
大変な有り様にされてしまった時に、調べている。
つまり、本来なら、10センチくらいは伸びていても、おかしくない。
が、レティシアの髪は、正妃選びの儀の頃と同じ。
仮に、伸びていたとしても、ものすごくわずかだろう。
そういう具合だからか、女性は、たいていレティシアと似た髪の長さ。
ジョーのようなショートヘアは、とてもめずらしいのだ。
「外は、かなり寒いですからね。外套をお召しになられたほうが良いですわ」
「そっかぁ。ウチにいると、そのあたり、意識しないもんなぁ」
屋敷は、常に快適な温度で保たれている。
季節によって、それなりに「衣替え」はするものの、いわゆる、暑さ寒さを意識することはなかった。
サリーに外套を羽織らせてもらう。
今日は、無地の淡い緑色をしたワンピース。
十分、街に溶け込めるだろう、とサリーに言われていた。
「貴族であることはわかるでしょうけれど、階級が上とは、わからないでしょう」
「そういうもんなんだね」
「上級貴族の令嬢がたは、街に出る際も、派手に着飾りますし、護衛騎士も大勢、引き連れているものです」
そんな「大名行列」みたいなことはしたくない。
気軽なお出かけがしたかった。
ゾロゾロと大勢で街を練り歩くなんて、恥ずかしいし、なにより面倒くさそうに感じる。
あっちの店、こっちの店と、飛び込むわけにもいかないだろうし。
「レティシア様」
「ん? なに?」
サリーが、なにやら言いにくそうに、視線をさまよわせていた。
しばしの間のあと、レティシアに言う。
「ユージーンは……悪い人ではないと思います」
「え? うん。知ってるよ?」
ユージーンは、悪人ではない。
かなり面倒だし、厄介な人だが、いいところもあると知っていた。
サリーだって、そう言っていたはずなのだけれども。
「加減を知らないところはありますが、真面目ですし、何事にも熱心です」
「そうだね?」
それも知っている。
サリーの言葉に、反論する気はない。
「王太子だった頃とは、様子が違う、と言いましょうか……納得しているからかもしれませんが、身分を持ち出すこともありません」
「うん。そういうところは、いいトコだと思うよ」
これから、ユージーンと出かけることになっていた。
だから、サリーは心配しているのだろう。
レティシアは、なにせユージーンに怒ることが多い。
主に、ユージーンの思考が、レティシアの理解の範疇を、超えているからだ。
いまだにキャッチボールは、うまくいっていなかった。
ユージーンの投げたボールは「消える魔球」だし。
レティシアが投げると、ユージーンは明後日のほうに取りに行くし。
(喧嘩になっちゃうと思ってんのかな……有り得る……)
思うレティシアに、サリーが、ものすごく言いにくそうに言う。
「私は……その……ユージーンは、そう悪くないお相手だと……」
「へ……?」
「いえ……もちろんレティシア様の好みではないと、存じてはおります。ですが、彼は真面目で、一本気でございましょう? レティシア様だけを見ておりますし、不逞なことはせず、レティシア様に尽くしてくれるのではないでしょうか」
もしや、まさか。
「あ~……えーと……サリー……ユージーンのこと、勧めてる?」
おつきあいするのには、いい相手だ。
サリーの言いたいことは、そういうことなのではなかろうか。
いや、そういうことだろう。
「婚姻などはともかく……意識されてみてはどうか、とは思っております」
ふわぁ!と、叫びそうになった。
あのサリーが、あのサリーが、そんなことを言うなんて!とびっくりしている。
サリーはユージーン嫌いの筆頭だったからだ。
サリーのお相手のグレイだって、日々、ユージーンには悩まされている。
どこがどうなって「優良物件」扱いになったのか、想像がつかない。
「レティシア様も、ユージーンには気を遣わずにいられるのではないですか?」
「うん。まぁ、それは、あるね」
「最終的には、気楽な相手ほど長続きするものなのですよ」
サリーの言葉に、納得できる部分が、なくはなかった。
常に緊張し、気を張っていなければならない相手は、疲れる。
さりとて、ユージーンだって、別の意味で、疲れる相手だ。
「彼は、レティシア様の気を引こうと、一生懸命なのです」
う…と、胸に何かが突き刺さる。
さすがに、それだけは無視してはいけないと思った。
少なくとも、レティシアは、ユージーンの気持ちを知っているのだから。
「サリーの言いたいことは、わかったよ。できるだけ先入観ナシで過ごしてみる」
さっきまでは、単なる「お出かけ」くらいに考えていた。
けれど、一応は「デート」という括りに入れることにする。
それで、意識改革に繋がるかはともかく。
部屋を出て、階下に降りた。
すでに、ユージーンが玄関ホールで待っている。
隣には、祖父とグレイが立っていた。
「レティ、仕上げをしようか」
祖父が、レティシアの顎をクイっと持ち上げる。
うっかり、ドキドキしてしまった。
フッと息が、かけられる。
(なんかもう……倒れそうだよ……心臓バクバクだよ……)
カラーコンタクトをつけてくれただけなのは、わかっていた。
それでも、頭がグラグラする。
祖父の顔を間近で見るのは、心臓に悪い。
アイドルのファン顔負けに「キャー、カッコいー!」と叫びたくなるのだ。
(いやいや……そうじゃなくて……今日は、デート……一応……デートだし)
相手を放っぽって、祖父に、うかうかウットリしている場合ではない。
気恥ずかしくなり、レティシアは、そそっと祖父から離れた。
「じゃあ……行ってくるね……」
「楽しんでおいで、私の可愛い孫娘」
頭を軽く、ぽんぽんとされる。
なぜか、ちょっぴり不安になり、祖父を見上げた。
祖父は、穏やかな笑みを浮かべている。
(やっぱり……お祖父さまは、一緒じゃないんだ……)
どこに行くにも、たいていは祖父が一緒だった。
前回の夜会にだって、来てくれている。
長く離れたことはなく、ずっと傍にいてくれた。
だから、祖父のいない状態に、レティシアは慣れていない。
それこそ、ウチのみんなと4,5人で、わいわい出かけるのなら、不安にはならなかっただろう。
ウチにいるのと、たいして変わらないからだ。
「レティシア?」
ユージーンに声をかけられ、ハッとする。
祖父だって、いつも自分につきあえるわけではないのだ。
ユージーンに対しても、失礼だったなと、反省する。
「今日は、ユージーンの奢りだよね?」
「そうだ」
うむ、と、いつも通り、ユージーンが鷹揚にうなずいた。
その仕草に、ホッとする。
(ま、ユージーンは、ユージーンだしさ。気楽に行こう)
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