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誠也の煩悶
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帰宅した珠里は誠也の仕事部屋が網戸のままになっていることに気づき、戸締りしようと室内に入ったのだった。
窓の鍵を掛けてカーテンを引き、部屋を出ようと向きを変えた時に机の端に身体が触れ、卓上にあった紙袋が床に落ちた。拾おうとしたら袋からセクシーな女性用下着が滑り落ちてきたので、びっくりして固まってしまった。珠里は誠也にそう説明した。
誠也は柄にもなく慌てふためき、編集の野村からこのランジェリーを押し付けられた経緯を説明した。自分は決して「現物」を要求していないこと。次の作品の参考資料として使うだけで、用が済めば処分するつもりだということも。
珠里は一応納得したようだったが、下着を手にして頬を染めたままだった。
こういう時はむしろ、笑い飛ばすか呆れるか、いっそ分かりやすく嫌悪感を示してくれた方が気が楽かもしれない。だが珠里はなぜか少し考え込むような素振りを見せ、それから手に持った下着をまじまじと眺め、ちらっと誠也を見上げてからまた頬を赤くした。
誠也はその表情に腹の底が疼くのを感じ、ひどく後ろめたい気持ちになった。
頼むから、そんな恥じらう表情を見せるな。濡れたような瞳と染まった頬っぺたを見ているだけで、またおかしな感情が込み上げてくるではないか。
「ええと……まあ、そういうことだから、これについては忘れてくれ。悪かったな、びっくりさせて」
誠也は珠里の手から下着を奪い取ると、紙袋に入れ直して机の引き出しに突っ込んだ。珠里はその様子をじっと見ていたが、やがて気を取り直したように「うん」と笑顔を見せた。
「……さすがに腹減ったな。なんか食おうかな」
誠也はとりあえずホッとしながらキッチンへと足を向けた。夕飯を食べていないので、夜中だがカップラーメンでも啜ろうかと戸棚に手を伸ばす。
「あ、私も食べようかな」
「おまえ、飲み会で食ってきたんじゃないの?」
「それがね、飲み放題メインだったからお料理少なくてあんまり食べられなかったの。なんかお腹すいてきちゃった」
「どうせ安くて不味いチェーン店だったんだろう。お湯沸かしとくから、シャワー浴びてきちゃえよ」
「うん、そうする」
珠里はバッグを置きに自室に行き、ガサゴソ音を立てた後で着替えを持ってバスルームに消えた。
誠也は戸棚からシーフード味とトマト味のカップラーメンをひとつずつ取り出し、やかんに水を入れて火にかけた。
どうせ珠里は30分以上風呂場から出てこないだろうから、自分は先に食べてしまおう。エアコンのスイッチを入れ、冷蔵庫から出した麦茶をグラスに注ぐ。野村が「珠里ちゃんに」と言って持ってきたシュークリームがあることを思い出したが、これは明日でもいいだろう。
シーフードのヌードルをあっという間にたいらげ、二杯目の麦茶を飲みながら新聞を読んでいると、思ったより早く珠里が風呂場から出てきた。新聞から目を上げてチラリと見ると、淡いピンクのネグリジェタイプの寝間着を身に着け、濡れた髪をタオルで拭きながらキッチンに入って行く。
「あ、もう食べちゃったの?」
「なんも食ってなかったから腹ペコだったんだよ。野村さんが持ってきたシュークリームもあるぞ。俺食べようかな」
「えー、ラーメンとシュークリームって、お腹壊さない?足りないなら、誠ちゃんバナナ食べてよ。そろそろ食べないと悪くなっちゃうから」
珠里が果物かごからバナナを一本もいで、誠也に手渡してきた。キッチンカウンター越しに受け取ると、甘いボディクリームの香りが鼻腔をくすぐった。
やかんの湯を温めなおす珠里の後ろ姿にこっそり眼をやる。
珠里は子供の頃から夏はネグリジェを好んだ。涼しいから良いのだと言う。だが高校に入る頃から、誠也はだんだん眼のやり場に困るようになった。
本人は無自覚なのだろうが、子供の時とは当然身体つきが違う。コットン素材で胸元にギャザーが寄っているデザインなので胸の形が露骨に分かるわけではないが、それでも年頃の娘が身に着けると妙に扇情的に見える代物だった。
こういうことを気にする自分がまた嫌になる。
保護者である自分が、娘か妹同然の珠里に対して妙な気持ちを起こしてはならない。だから、もっと色気のない寝間着を着てほしい。
だが「違う格好をしろ」などと口にしたら、返って意識しているのがバレてしまうので言い出せない。それに本心では、珠里のこういう姿を見たいと思っている自分がいる。もっと、ずっと見ていたいと。その邪な気持ちが誠也を自己嫌悪に陥らせる。
珠里自身は誠也の視線が気にならないのだろうか。いや、誠也のことなど「年の行ったお兄ちゃん」か親戚の「オジサン」くらいにしか見ていないから、そもそも男の視線として意識していないのかもしれない。そう思うと、なぜか胸の奥に鈍い痛みのような疼きを感じる。
「……さっきのあの下着って、参考資料にした後は捨てちゃうの?」
ふうふう息を吹きかけながらトマト味の麺を啜っていた珠里が、不意に話を蒸し返してきた。
「え、そりゃ、必要ないからな。野村さんに返しても、いらないって言われるだろうし」
「ふーん。……もったいないね、すごく綺麗な下着なのに」
「そんな質のいいもんじゃないらしいぞ。輸入物だから縫い方も雑みたいだし」
「デザイン重視なんだね」
「だろうな」
セクシーと言うよりは卑猥と言った方がふさわしいデザインを思い出し、なんとなくふたりとも押し黙った。
「ねえ、誠ちゃん。捨てちゃうなら、あの下着、私にちょうだい」
誠也は飲んでいた麦茶を吹き出しそうになった。むせて咳き込み、顔が熱くなる。何を言い出すのかと珠里を見れば、唇を噛んで誠也を上目遣いにじっと見ていた。
「おまえ、何言って」
「捨てちゃうの、もったいないじゃない。私、あれ欲しい」
「も、もらってどうするんだよ。あんな……」
「それは……、いつか着るかもしれないし」
「……はあっっ?!」
「サイズ、合いそうだったもん」
「バカ。だからって……」
椅子からずり落ちそうになりながら、誠也は冷静さを保とうと必死だった。
突然何を言い出すのだ。あんなきわどい、いやらしい下着が欲しいだと……?いつか着るかもって、どういうシチュエーションであんなものを着ようと言うのか。誰の前で?まさか、今日の飲み会で男でもデキたか……?だからデートの時にでもアレを着ようと……?
そこまで考えて、誠也は軽いパニックに陥った。
「だ、ダメだ。あんなもの、おまえに似合うわけがない」
「……そんな。いくら私が子供っぽいからって……」
珠里がちょっと傷ついたような顔をしたので、誠也は内心ひどく慌てた。
「いや、そういうことじゃない。普通の女の子が着ける下着じゃないって言ってるんだ」
「そうなの?だって誠ちゃんの漫画でヒロインがああいう下着を着るんでしょ?」
「漫画と現実を一緒にするな。そもそも事情があってそういうバイトをしようとする設定なんだ。作り話だ。現実のおまえとは違う」
「そうだけど……」
何やら不服そうに珠里が睨みつけてくる。睨んでいてもちょっと生意気で可愛いだけなのだが、今の誠也はたじたじになる。いったい何だって急に、こんなおかしなことを言い出すのだ。
「もしかして、捨てるとか言って本当は誰かにあげようとしてるの……?」
珠里が疑うような眼を向けてきたので、唖然とした。
「誰にだよ……?そんな相手いるわけないだろーが!」
人がいったいどれだけ長いこと、女っ気のない生活を送ってると思っているのだ。
「そっか。……ならいいけど」
珠里の口元がほんの少しほころんだ。よく分からないが、とりあえず機嫌は直りつつあるようで誠也はホッとする。
「じゃあさ、処分するのは分かったから、捨てちゃう前に一回着てみてもいい?」
「だから何でそうなるんだよ……?!」
「ああいうの、自分で買う機会ないから試してみたい」
「アホか。おまえはあんなもんに興味持たなくていい」
「……変なの。エッチな漫画描いてるのに、誠ちゃんって変に生真面目なんだから」
珠里が口を尖らせながら立ち上がった。食べ終えたカップラーメンの容器を手に、スタスタとキッチンに向かう。
誠也は返す言葉が見つからないまま、残りの麦茶をゴクンと飲み干すしかなかった。
珠里が寝静まったらしいことを確認してから、誠也は仕事部屋に戻り改めてあの下着を手に取ってみた。
珠里は何だって突然あんなことを言い出したのだろう。やはり今夜の飲み会で何かあったのだろうか。
今まで一緒に暮らしてきて、表立って「彼氏」ができた様子は一度もなかった。誠也に隠していた可能性もあるが、これまでの生活ぶりを見ている限り心配するような間柄の男はいなかったと思う。
でももう社会人だ。21だ。あれだけ可愛らしく育ったのだ。そりゃあ、周りの男も放っておかないだろう。
そう考えたら、無性に落ち込んできた。この淋しさと焦燥は何だ。腹立たしさと渇望、みっともないほどの欲。
まだまだ子供だと思っていた。いや、思おうとしていたが、珠里もこういう下着を手にしてもおかしくない年頃なのだ。「着てみたい」「いつか着るかもしれない」と言った珠里の顔を思い出し、無意識に溜息をつく。
「サイズ、合いそうだって言ってたな……」
誠也は手にしたブラジャーをまじまじと観察した。本来の下着としての意味などなさそうなエロティックなデザイン、透ける薄い素材でできたカップ。ずらせば乳首が見えてしまう黒い繊細なレース。
これを身に着けた珠里の白い素肌を想像しかけ、誠也は自分の頬をバシッと叩いた。
保護者のくせに。下衆な男にはならないとあれほど誓ったではないか。
もう今夜は眠れそうにない。誠也は夜中の仕事部屋で、ブラジャーを握りしめたまま机に突っ伏した。
窓の鍵を掛けてカーテンを引き、部屋を出ようと向きを変えた時に机の端に身体が触れ、卓上にあった紙袋が床に落ちた。拾おうとしたら袋からセクシーな女性用下着が滑り落ちてきたので、びっくりして固まってしまった。珠里は誠也にそう説明した。
誠也は柄にもなく慌てふためき、編集の野村からこのランジェリーを押し付けられた経緯を説明した。自分は決して「現物」を要求していないこと。次の作品の参考資料として使うだけで、用が済めば処分するつもりだということも。
珠里は一応納得したようだったが、下着を手にして頬を染めたままだった。
こういう時はむしろ、笑い飛ばすか呆れるか、いっそ分かりやすく嫌悪感を示してくれた方が気が楽かもしれない。だが珠里はなぜか少し考え込むような素振りを見せ、それから手に持った下着をまじまじと眺め、ちらっと誠也を見上げてからまた頬を赤くした。
誠也はその表情に腹の底が疼くのを感じ、ひどく後ろめたい気持ちになった。
頼むから、そんな恥じらう表情を見せるな。濡れたような瞳と染まった頬っぺたを見ているだけで、またおかしな感情が込み上げてくるではないか。
「ええと……まあ、そういうことだから、これについては忘れてくれ。悪かったな、びっくりさせて」
誠也は珠里の手から下着を奪い取ると、紙袋に入れ直して机の引き出しに突っ込んだ。珠里はその様子をじっと見ていたが、やがて気を取り直したように「うん」と笑顔を見せた。
「……さすがに腹減ったな。なんか食おうかな」
誠也はとりあえずホッとしながらキッチンへと足を向けた。夕飯を食べていないので、夜中だがカップラーメンでも啜ろうかと戸棚に手を伸ばす。
「あ、私も食べようかな」
「おまえ、飲み会で食ってきたんじゃないの?」
「それがね、飲み放題メインだったからお料理少なくてあんまり食べられなかったの。なんかお腹すいてきちゃった」
「どうせ安くて不味いチェーン店だったんだろう。お湯沸かしとくから、シャワー浴びてきちゃえよ」
「うん、そうする」
珠里はバッグを置きに自室に行き、ガサゴソ音を立てた後で着替えを持ってバスルームに消えた。
誠也は戸棚からシーフード味とトマト味のカップラーメンをひとつずつ取り出し、やかんに水を入れて火にかけた。
どうせ珠里は30分以上風呂場から出てこないだろうから、自分は先に食べてしまおう。エアコンのスイッチを入れ、冷蔵庫から出した麦茶をグラスに注ぐ。野村が「珠里ちゃんに」と言って持ってきたシュークリームがあることを思い出したが、これは明日でもいいだろう。
シーフードのヌードルをあっという間にたいらげ、二杯目の麦茶を飲みながら新聞を読んでいると、思ったより早く珠里が風呂場から出てきた。新聞から目を上げてチラリと見ると、淡いピンクのネグリジェタイプの寝間着を身に着け、濡れた髪をタオルで拭きながらキッチンに入って行く。
「あ、もう食べちゃったの?」
「なんも食ってなかったから腹ペコだったんだよ。野村さんが持ってきたシュークリームもあるぞ。俺食べようかな」
「えー、ラーメンとシュークリームって、お腹壊さない?足りないなら、誠ちゃんバナナ食べてよ。そろそろ食べないと悪くなっちゃうから」
珠里が果物かごからバナナを一本もいで、誠也に手渡してきた。キッチンカウンター越しに受け取ると、甘いボディクリームの香りが鼻腔をくすぐった。
やかんの湯を温めなおす珠里の後ろ姿にこっそり眼をやる。
珠里は子供の頃から夏はネグリジェを好んだ。涼しいから良いのだと言う。だが高校に入る頃から、誠也はだんだん眼のやり場に困るようになった。
本人は無自覚なのだろうが、子供の時とは当然身体つきが違う。コットン素材で胸元にギャザーが寄っているデザインなので胸の形が露骨に分かるわけではないが、それでも年頃の娘が身に着けると妙に扇情的に見える代物だった。
こういうことを気にする自分がまた嫌になる。
保護者である自分が、娘か妹同然の珠里に対して妙な気持ちを起こしてはならない。だから、もっと色気のない寝間着を着てほしい。
だが「違う格好をしろ」などと口にしたら、返って意識しているのがバレてしまうので言い出せない。それに本心では、珠里のこういう姿を見たいと思っている自分がいる。もっと、ずっと見ていたいと。その邪な気持ちが誠也を自己嫌悪に陥らせる。
珠里自身は誠也の視線が気にならないのだろうか。いや、誠也のことなど「年の行ったお兄ちゃん」か親戚の「オジサン」くらいにしか見ていないから、そもそも男の視線として意識していないのかもしれない。そう思うと、なぜか胸の奥に鈍い痛みのような疼きを感じる。
「……さっきのあの下着って、参考資料にした後は捨てちゃうの?」
ふうふう息を吹きかけながらトマト味の麺を啜っていた珠里が、不意に話を蒸し返してきた。
「え、そりゃ、必要ないからな。野村さんに返しても、いらないって言われるだろうし」
「ふーん。……もったいないね、すごく綺麗な下着なのに」
「そんな質のいいもんじゃないらしいぞ。輸入物だから縫い方も雑みたいだし」
「デザイン重視なんだね」
「だろうな」
セクシーと言うよりは卑猥と言った方がふさわしいデザインを思い出し、なんとなくふたりとも押し黙った。
「ねえ、誠ちゃん。捨てちゃうなら、あの下着、私にちょうだい」
誠也は飲んでいた麦茶を吹き出しそうになった。むせて咳き込み、顔が熱くなる。何を言い出すのかと珠里を見れば、唇を噛んで誠也を上目遣いにじっと見ていた。
「おまえ、何言って」
「捨てちゃうの、もったいないじゃない。私、あれ欲しい」
「も、もらってどうするんだよ。あんな……」
「それは……、いつか着るかもしれないし」
「……はあっっ?!」
「サイズ、合いそうだったもん」
「バカ。だからって……」
椅子からずり落ちそうになりながら、誠也は冷静さを保とうと必死だった。
突然何を言い出すのだ。あんなきわどい、いやらしい下着が欲しいだと……?いつか着るかもって、どういうシチュエーションであんなものを着ようと言うのか。誰の前で?まさか、今日の飲み会で男でもデキたか……?だからデートの時にでもアレを着ようと……?
そこまで考えて、誠也は軽いパニックに陥った。
「だ、ダメだ。あんなもの、おまえに似合うわけがない」
「……そんな。いくら私が子供っぽいからって……」
珠里がちょっと傷ついたような顔をしたので、誠也は内心ひどく慌てた。
「いや、そういうことじゃない。普通の女の子が着ける下着じゃないって言ってるんだ」
「そうなの?だって誠ちゃんの漫画でヒロインがああいう下着を着るんでしょ?」
「漫画と現実を一緒にするな。そもそも事情があってそういうバイトをしようとする設定なんだ。作り話だ。現実のおまえとは違う」
「そうだけど……」
何やら不服そうに珠里が睨みつけてくる。睨んでいてもちょっと生意気で可愛いだけなのだが、今の誠也はたじたじになる。いったい何だって急に、こんなおかしなことを言い出すのだ。
「もしかして、捨てるとか言って本当は誰かにあげようとしてるの……?」
珠里が疑うような眼を向けてきたので、唖然とした。
「誰にだよ……?そんな相手いるわけないだろーが!」
人がいったいどれだけ長いこと、女っ気のない生活を送ってると思っているのだ。
「そっか。……ならいいけど」
珠里の口元がほんの少しほころんだ。よく分からないが、とりあえず機嫌は直りつつあるようで誠也はホッとする。
「じゃあさ、処分するのは分かったから、捨てちゃう前に一回着てみてもいい?」
「だから何でそうなるんだよ……?!」
「ああいうの、自分で買う機会ないから試してみたい」
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「……変なの。エッチな漫画描いてるのに、誠ちゃんって変に生真面目なんだから」
珠里が口を尖らせながら立ち上がった。食べ終えたカップラーメンの容器を手に、スタスタとキッチンに向かう。
誠也は返す言葉が見つからないまま、残りの麦茶をゴクンと飲み干すしかなかった。
珠里が寝静まったらしいことを確認してから、誠也は仕事部屋に戻り改めてあの下着を手に取ってみた。
珠里は何だって突然あんなことを言い出したのだろう。やはり今夜の飲み会で何かあったのだろうか。
今まで一緒に暮らしてきて、表立って「彼氏」ができた様子は一度もなかった。誠也に隠していた可能性もあるが、これまでの生活ぶりを見ている限り心配するような間柄の男はいなかったと思う。
でももう社会人だ。21だ。あれだけ可愛らしく育ったのだ。そりゃあ、周りの男も放っておかないだろう。
そう考えたら、無性に落ち込んできた。この淋しさと焦燥は何だ。腹立たしさと渇望、みっともないほどの欲。
まだまだ子供だと思っていた。いや、思おうとしていたが、珠里もこういう下着を手にしてもおかしくない年頃なのだ。「着てみたい」「いつか着るかもしれない」と言った珠里の顔を思い出し、無意識に溜息をつく。
「サイズ、合いそうだって言ってたな……」
誠也は手にしたブラジャーをまじまじと観察した。本来の下着としての意味などなさそうなエロティックなデザイン、透ける薄い素材でできたカップ。ずらせば乳首が見えてしまう黒い繊細なレース。
これを身に着けた珠里の白い素肌を想像しかけ、誠也は自分の頬をバシッと叩いた。
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