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第14話 エルダ視点
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「あなた達は下がって結構よ」
私は大事な話があると言って、ガストンとルトルン伯爵に残ってもらい、人払いをした。
娘のアンナも、部屋へ戻した。あの子はちょっと、おしゃべりだからね。
夫も結構気弱だから聞かせられないわ。
「息子との婚約の事かね?」
「えぇ、そうですわ」
テーブルを挟んだ向かい側のソファーに座るガストンが、斜めに視線を落とす。その隣のルトルン伯爵は頷いた。
「心配する事はない。ガストンとの婚約は解消する事はない。それより、あなた方はどうするのかね? いずれは彼女が跡を継ぐ。兄であるグリンマトル伯爵の配慮で、住まわせていたようだが、約束通り君の娘が学園を卒業後出て行ってもらうつもりだ」
あらそこまで知っているとは。
ちらっとガストンを見れば、違うと軽くかぶりを振った。
「父上とグリンマトル伯爵が、連絡を取り合っていたみたいだ」
そう、ガストンが教えてくれる。
なるほど。兄らしいわね。
相手との信頼関係を築いておこうとしていたみたいね。だったら直球の方がいいわね。
こくんと紅茶を一口飲み私は喉を潤す。
「そうですか。では、兄がどうしてそちらに向かおうとしていたのか、ご存じでしょうか?」
「こちらに?」
ガストンが、驚いた顔を私に向けた。
「えぇ。婚約を破棄しに」
「ウルミーシュ子爵夫人! 何を言い出すのですか」
ガストンが慌てて、私を止めようとする。
それを横目でルトルン伯爵が見れば、なるほどと頷いた。
「このバカ息子が何かしでかしたか」
「父上、違います! ご、誤解なんです」
「だがまあ、彼らは口が聞けなくなった。ご本人から聞いてないので、婚約はこのまま。破棄できませんな」
ガストンがホッとする。
「あら、ガストン。我が娘、アンナと添い遂げたいのかと思ったのだけど、レネットが良かったのかしら?」
「っちょ……」
「な、なに……」
ギロリとルトルン伯爵がガストンを睨みつけた。
「ち、違います。えと……」
「まさか、私に言った事は嘘だったの? 我が娘は、もう後妻になるしか道がなくなったと言うのに」
「なんだと! 貴様、また手を出したのか!!!」
「ひー」
横に座る息子の胸倉を掴みながらルトルン伯爵が立ち上がった。
手癖が悪いとは思ったけど、やはりね。
でもまあいいわ。責任を取ってもらえればね。
「ち、父上。く、苦しいです」
「娘の責任を取ってくれるのなら名案があるのですが」
「何……金が欲しいのではないのか」
パッとルトルン伯爵が、ガストンから手を離す。
「お金ですか? 欲しいに決まっておりますわ。でもね、人殺しと結婚させるとなると、それだけでは収まらないと思いますの」
「人殺しだと?」
ガストンがわかりやすく青ざめた。やはりね。細工をしたのね。
「私を訪ねようとして事故を起こした。それが人殺しになると?」
「えぇ。だって人災ですもの」
「人災だと? 雨が降っていなければ起こらなかった事故だろう」
「あら嫌だ。事故は起きましたわよ。ねえ、ガストン。娘が見ておりましたのよ」
「ち、違うんだ……。足止めをしたかっただけなんだ。あんな大事故になるなんて……」
「き、貴様! 馬車に細工をしたのか!」
「ご、ごめんなさい! 父上に浮気したのを言うっていうから」
ばきっ!
思いっきり殴られたガストンは、床に転がった。
「そこまで落ちるとは!」
「で、ルトルン伯爵も息子と一緒に落ちますか?」
「な、なんだと」
「領主が動いてます。馬車に不良個所があった事に気付くでしょう。私なら上手く誤魔化せますが?」
「我々を庇うと? 娘を結婚させるためにか」
私は軽く頷く。
「娘は、このおバカさんに入れ込んでしまいましたの。本来なら結婚など諦めてほしいのですが」
「な、何が望みだ? 婚約破棄か?」
「いいえ。婚約は時期が来るまでは破棄しないでほしいのよ。ここを受け継ぐ権利、私にもあると思いません?」
「なるほど。グリンマトル伯爵当主になりたいと? 娘を後妻にでもするつもりか」
「まさか。本妻ですわ。その為に、手を貸して下さいな。ルトルン伯爵」
私がにっこり微笑めば、悔しそうな顔つきになった後、仕方なくルトルン伯爵は頷いた。
うふふふ。これでグリンマトル伯爵家は私の物。兄が死んだんだもの、私が跡を継いでもおかしくないでしょう。
私は大事な話があると言って、ガストンとルトルン伯爵に残ってもらい、人払いをした。
娘のアンナも、部屋へ戻した。あの子はちょっと、おしゃべりだからね。
夫も結構気弱だから聞かせられないわ。
「息子との婚約の事かね?」
「えぇ、そうですわ」
テーブルを挟んだ向かい側のソファーに座るガストンが、斜めに視線を落とす。その隣のルトルン伯爵は頷いた。
「心配する事はない。ガストンとの婚約は解消する事はない。それより、あなた方はどうするのかね? いずれは彼女が跡を継ぐ。兄であるグリンマトル伯爵の配慮で、住まわせていたようだが、約束通り君の娘が学園を卒業後出て行ってもらうつもりだ」
あらそこまで知っているとは。
ちらっとガストンを見れば、違うと軽くかぶりを振った。
「父上とグリンマトル伯爵が、連絡を取り合っていたみたいだ」
そう、ガストンが教えてくれる。
なるほど。兄らしいわね。
相手との信頼関係を築いておこうとしていたみたいね。だったら直球の方がいいわね。
こくんと紅茶を一口飲み私は喉を潤す。
「そうですか。では、兄がどうしてそちらに向かおうとしていたのか、ご存じでしょうか?」
「こちらに?」
ガストンが、驚いた顔を私に向けた。
「えぇ。婚約を破棄しに」
「ウルミーシュ子爵夫人! 何を言い出すのですか」
ガストンが慌てて、私を止めようとする。
それを横目でルトルン伯爵が見れば、なるほどと頷いた。
「このバカ息子が何かしでかしたか」
「父上、違います! ご、誤解なんです」
「だがまあ、彼らは口が聞けなくなった。ご本人から聞いてないので、婚約はこのまま。破棄できませんな」
ガストンがホッとする。
「あら、ガストン。我が娘、アンナと添い遂げたいのかと思ったのだけど、レネットが良かったのかしら?」
「っちょ……」
「な、なに……」
ギロリとルトルン伯爵がガストンを睨みつけた。
「ち、違います。えと……」
「まさか、私に言った事は嘘だったの? 我が娘は、もう後妻になるしか道がなくなったと言うのに」
「なんだと! 貴様、また手を出したのか!!!」
「ひー」
横に座る息子の胸倉を掴みながらルトルン伯爵が立ち上がった。
手癖が悪いとは思ったけど、やはりね。
でもまあいいわ。責任を取ってもらえればね。
「ち、父上。く、苦しいです」
「娘の責任を取ってくれるのなら名案があるのですが」
「何……金が欲しいのではないのか」
パッとルトルン伯爵が、ガストンから手を離す。
「お金ですか? 欲しいに決まっておりますわ。でもね、人殺しと結婚させるとなると、それだけでは収まらないと思いますの」
「人殺しだと?」
ガストンがわかりやすく青ざめた。やはりね。細工をしたのね。
「私を訪ねようとして事故を起こした。それが人殺しになると?」
「えぇ。だって人災ですもの」
「人災だと? 雨が降っていなければ起こらなかった事故だろう」
「あら嫌だ。事故は起きましたわよ。ねえ、ガストン。娘が見ておりましたのよ」
「ち、違うんだ……。足止めをしたかっただけなんだ。あんな大事故になるなんて……」
「き、貴様! 馬車に細工をしたのか!」
「ご、ごめんなさい! 父上に浮気したのを言うっていうから」
ばきっ!
思いっきり殴られたガストンは、床に転がった。
「そこまで落ちるとは!」
「で、ルトルン伯爵も息子と一緒に落ちますか?」
「な、なんだと」
「領主が動いてます。馬車に不良個所があった事に気付くでしょう。私なら上手く誤魔化せますが?」
「我々を庇うと? 娘を結婚させるためにか」
私は軽く頷く。
「娘は、このおバカさんに入れ込んでしまいましたの。本来なら結婚など諦めてほしいのですが」
「な、何が望みだ? 婚約破棄か?」
「いいえ。婚約は時期が来るまでは破棄しないでほしいのよ。ここを受け継ぐ権利、私にもあると思いません?」
「なるほど。グリンマトル伯爵当主になりたいと? 娘を後妻にでもするつもりか」
「まさか。本妻ですわ。その為に、手を貸して下さいな。ルトルン伯爵」
私がにっこり微笑めば、悔しそうな顔つきになった後、仕方なくルトルン伯爵は頷いた。
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