居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
52 / 58

第51話 プロンテヌ侯爵視点

しおりを挟む
 「ないとは言ってないだろう?」

 私の言葉にルトルン伯爵が驚いた顔つきになった。

 「そんなハッタリが通用するとでも?」
 「そう思うのなら、次の質問にきちんと答えてもらうぞ?」
 「馬車の件なら……」
 「いやいや、馬車の件ではない。どうやって、レネットを説得するつもりだったかだ。不正はしていないのだろう?」

 彼が睨みつけてくるが、そんな睨みは私には効かん。
 今回も納得するいや、頷くしかない状況に追い込む手段を用意しているはずだ。それが、彼のやり方だからな。

 「ウルミーシュ子爵夫人が言う通り、大変だろうと訴えかける――」
 「逆だろう。ウルミーシュ子爵夫人は、娘の事で手一杯になるのではないかね? 半年後には、赤子が生まれるのだから」

 ハッとしたような顔つきをルトルン伯爵が一瞬見せた。
 私達が乗り込んで来るとは思っていなかったのだろうから、質問の答えなど用意してなかっただろう。だから咄嗟に思いついた理由を言った。

 マスティラン子息が寄越した手紙通りなら、ルトルン伯爵なら証拠を隠滅した後、グリンマトル家から手を引くはずだ。
 彼は、犯罪すれすれのいや証拠を消せる範囲でしか、事を起こさない。
 息子の仕出かした事も、見た目穏便に済ませていた。
 文官である彼を使いすぐさま書類を作成し、相手に反論の隙を与えない。それがルトルン伯爵のやり方だ。

 しかし今回は、誓約書を交わしてでもレネットとの婚約を続行した。ガストンがそれを願っているわけでもないのに。
 ならば、そうせねばならない状況にあるって事だ。
 例えば、ウルミーシュ子爵夫人に細工した所を見られ、告発すると脅されたとかだ。

 ガストンだけならすぐに落とせるはずだった。
 だが、ルトルン伯爵が彼の守りに入れば、容易ではなくなる。孕んだ事により、事が早められるとはな。
 いや好機と言うべきだ。彼も纏めて捕らえてやる。

 「さて、順を追って説明している最中だったな」
 「そんなの聞く義理はない!」
 「そうか。ならば、これを見ていただこう」

 私は、懐から誓約書の無効の書類を出し、ルトルン伯爵に見える様に掲げた。
 それを見た、ルトルン伯爵がギョッとした顔つきになった。

 「エルダ夫人! 無効の誓約書が来たと言ったな。それは今、どこにある!」
 「え……」

 慌てだしたルトルン伯爵の様子に、エルダ夫人が動揺する。

 「それはここにありますわ」

 レネットも懐から出した。それは、三枚の書類だ。
 私が手紙に書いたように、来た書類を肌身離さずに持っていてくれたようだな。

 「叔母様は、無効の書類だと言って置いていったのですが、一枚だけ無効の書類ではなかったようです」
 「何ですって!」

 レネットから書類をウルミーシュ子爵夫人が奪い取ると、更にそれをルトルン伯爵が奪い、内容を確認する。

 「なんだこの書類の書き方は! これは定型文ではないな! 図ったな!」

 ルトルン伯爵がマスティラン子息に振り向き怒鳴った。

 「何のことです?」
 「この書類の事だ! なぜこんな間際らしい文章なのだ!」

 ちゃんと指示した通りの文章にしたようだな。
 彼らを油断させる為に、レネットとアンナの誓約書無効の書類と文章が類似するように、ガストンの誓約書のの書類を書いてもらったのだ。

 「大変珍しい事態だったのもで、定型文を見つける事ができずにそういう書き方になっただけですが、お読みいただければわかりますよね? 先に執行されたので無効にはなりませんと」
 「何ですって!」

 やっと、ルトルン伯爵が焦っている意味をウルミーシュ子爵夫人が理解し、ガストン宛の書類を見直している。

 「こ、こんな、他の二枚と同じ封筒に入れて送ってきて、文章も似ていたら、無効になったと思うわよ!」
 「おかしいですね。他の二枚は、『誓約書の無効通知』でそれは、『誓約書の無効について』。タイトルさえ違うのですが?」
 「そうですわ、叔母様」

 レネットをキッとウルミーシュ子爵夫人が睨む。

 「あなた、知っていて黙っていたの? というか、グルだったのね!」
 「先ほど見直してみて、気づきました。グルなのは、叔母様とガストン様でしょう!」

 レネットが言えば、悔しそうにウルミーシュ子爵夫人が唇をかんだ。

 ルトルン伯爵が焦っているのは、誓約書が執行され罰則を恐れている訳ではなく、誓約書が執行されたという事にだろう。これが、動機の証明となるからだ。
 妊娠する行為は、誓約書前の事。その時の責任を取るという言い訳ができるが、誓約書が執行されたという事は、誓約後も関係があったという事実を掴んでいるという事だ。
 つまり、誓約書を交わしてまでガストンがレネットと結婚するメリットなどないのだから、があるという事になる!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愚か者が自滅するのを、近くで見ていただけですから

越智屋ノマ
恋愛
宮中舞踏会の最中、侯爵令嬢ルクレツィアは王太子グレゴリオから一方的に婚約破棄を宣告される。新たな婚約者は、平民出身で才女と名高い女官ピア・スミス。 新たな時代の象徴を気取る王太子夫妻の華やかな振る舞いは、やがて国中の不満を集め、王家は静かに綻び始めていく。 一方、表舞台から退いたはずのルクレツィアは、親友である王女アリアンヌと再会する。――崩れゆく王家を前に、それぞれの役割を選び取った『親友』たちの結末は?

私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?

睡蓮
恋愛
セレスとクレイは婚約関係にあった。しかし、セレスよりも他の女性に目移りしてしまったクレイは、ためらうこともなくセレスの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたクレイであったものの、後に全く同じ言葉をセレスから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。 ※全6話完結です。

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜

腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。 「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。 エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。

クリスティーヌの本当の幸せ

宝月 蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。 この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

これまでは悉く妹に幸せを邪魔されていました。今後は違いますよ?

satomi
恋愛
ディラーノ侯爵家の義姉妹の姉・サマンサとユアノ。二人は同じ侯爵家のアーロン=ジェンキンスとの縁談に臨む。もともとはサマンサに来た縁談話だったのだが、姉のモノを悉く奪う義妹ユアノがお父様に「見合いの席に同席したい」と懇願し、何故かディラーノ家からは二人の娘が見合いの席に。 結果、ユアノがアーロンと婚約することになるのだが…

処理中です...