居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)

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第50話

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 ガストン様は、ガクガクと震えている。
 馬車が故意に起こされたと言う物証がなくても、誰が見ても彼が犯人だと思う。これだけで、逮捕できそうだけど。

 『信じられない! どうして、そんな事ができるのよ!』

 って、問い詰めたい!
 けど、ここで私の気持ちを爆発させれば、フランシスク様とプロンテヌ侯爵の苦労が水の泡になる可能性がある。
 私は、静観していましょう。

 「まるで、私達がグリンマトル伯爵夫妻を殺したような言い方だな。彼は確かに我が家に来る予定だった。来る事にならなければ、事故に遭う事もなかったのは事実だが、あれは天災ではないかね? 雨さえ降っていなければ、工事中の道がぬかるんで大事故になる事もなかった。違うかね? マスティラン子息」

 ルトルン伯爵が、私を凄い怖い目で見つつ話し、フランシスク様に問いかけると、目線を彼に移した。
 たぶん余計な事を言うなって事なのうだろうけど。

 「確かに。大事故にはならなかったでしょうけど、雨が降っていなくても車輪は外れたはずですよ。私がグリンマトル伯爵家で仕事をしたのは、馬車の事を調べる為です。確かに細工の証拠はありませんが、あの馬車は数日前に整備点検されていて、ぬかるみで車輪が外れるはずはないのです」
 「あら嫌だわ。はずがないですって? そういう事もあるでしょう。現に兄が乗った馬車は横転したではありませんか! そちらの落ち度を私達に擦り付ける気ですか!」

 エルダ夫人がそう抗議する。焦っている様子はないわね。
 それだけなら、証拠にはならない。たまたま運悪くと言えてしまうから。

 悔しい! 証拠がないからガストン様から自供を引き出すしかないけど、証拠がないから逮捕ができない。
 つまり、ここで自供させるしかないのよね。

 きっと、今この時を逃したら、ガストン様に私達は近づけさせない。
 爵位を継げないからルトルン伯爵家に住めないと言っていたけど、この状況ならルトルン伯爵がガストン様を連れ帰るでしょう。
 そうなったら、逮捕するのはかなり難しくなる。

 「そういうつもりはありません! それに、動機はわかっています」
 「動機ですって? 私が兄を殺す動機があるというの?」
 「誰も君が殺したなどと言っていない。私達が犯人だと思っているのは、ガストン・ルトルンだ!」
 「ち、違う!!」

 プロンテヌ侯爵達が言えば、震えながらでもガストン様は否定した。まあ、素直にそうですとは言わないわよね。

 「証拠もなしに動機だけで息子を疑うのか! というか、動機などあるはずないだろう!」
 「私を甘く見てもらっては困るなぁ。ルトルン伯爵。今回は、あなたも一緒に逮捕するつもりで、調べ上げたのですからね!」
 「っく……」
 「違うと言うのなら、私の質問を答えて頂けますか?」
 「っは。なぜそこまで、あなたに付き合わなくてはいけないのかな?」

 ルトルン伯爵は、引くつもりない様子を見せる。
 このままでは、逃げられる?

 「そうですか。では、レネット。先ほど、ルトルン伯爵に何を言われていた? 彼が文官を連れて来た理由を聞いたか?」
 「そんな事! 馬車の事件と関係ないだろう!」
 「いや、聞いてみないとわからないだろう」

 ルトルン伯爵が慌てた様子を見せた。
 そうよ。動機に繋がるわ!

 「私が学園に通っている一年程の間は、叔母様に爵位を渡せといわれたわ」
 「勉学だけでも大変なのに、仕事もですもの。そちらの方は私が――」
 「その一年で色々と条件を揃え、レネットにではなく、彼らに爵位を移す。なるほど。彼のやり方だな」

 エルダ夫人が言い訳をしていると、全てを言い終わる前にプロンテヌ侯爵達がルトルン伯爵のやり方だと言って、エルダ夫人が黙り込んだ。

 そういう事だったのね! エルダ夫人に一旦爵位を移し、私に戻すのではなくガストン様に爵位を移せば、エルダ夫人が言っていた様に、二人がグリンマトル伯爵夫妻になるわけね!

 「私のやり方か。だが、不正などしていない。今回も納得して頂いて、彼女に爵位を移す手続きをするつもりだった。で? これが馬車の事故と繋がりますかな?」

 ルトルン伯爵がニヤリとする。
 そう言われると、繋がりがない?
 確かにプロンテヌ侯爵達が言う様に、私から爵位を取り上げるだけなら、事故と関連づけられないわ!

 私がどうなるのだろうかと、チラッとプロンテヌ侯爵を見れば、動揺した様子も困った様子もない。
 何か確信を得たような顔つきに見えるけど……。

 「ないようなので、私達は失礼する」

 プロンテヌ侯爵が黙り込んだので、ルトルン伯爵がそう言って、ガストン様と一緒に出て行こうとする。
 このままだと、逃げられてしまうわ!
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