愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

rifa

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 数日後。
「グラン! 家のコトなら私に任せて、あなたは安心して仕事に出かけて!」
 グランは普段定職ではなく、日雇いの仕事をしていると知る。
 ミレーが襲われている場面に遭遇した時も、仕事の帰りだったらしい。
 何かしようと決意した日から、彼が暮らす下町に馴染もうと、近所の人たちに挨拶をしてまわった際、色々な人がグランのことを教えてくれた。
 家族ともろくに話していなかったので上手く話せているか不安だったが、そばで見ていたグランが「すげえ自然に話していたぞ」と言ってくれたので安心した。
 この町の人たちはミレーが貴族の令嬢だと知ると、驚きはしても、それで態度を変えることもしなかった。
 それがミレーにとって、心地良かった。
「じゃあ、しばらくグランは仕事が出来ないだろうね」
 残念そうにそう告げる酒場の店主の奥さんの発言に、ミレーは首を傾げる。
「だってあんたみたいなかわいい子を放って、呑気に家を離れるなんてできるかい?」
 そう言ってカラカラと笑い出す奥さんの言葉に、ミレーの心に嬉しさと同時に、申し訳なさが生じた。
「……私、迷惑かけて、しまいましたね」
 落ち込んだミレーに驚いた様子で、奥さんがフォローするように付け足した。
「なら、ミレーちゃんが家のコトを手伝ってあげればいいんじゃないかい?」
「……え?」
 その提案に驚いて顔をあげると、奥さんの亭主、つまり酒場の店主が会話に入ってきた。
「おいおい、貴族のお嬢さんにそんなこと出来ると思うか?」
 貴族はなんにも出来ない、というイメージがあるらしい。少なくともミレーはその通りだった。料理も掃除も、やり方を知らない。掃除に至ってはやる機会すら家族から与えられなかった。
だがミレーが「グランの役に立てるのなら何でもやりたい」と意気込んで伝えると、店主は気圧されたように身じろぎだ。
 奥さんはまたカラカラと笑いながら、「うちの旦那より頼りになりそうじゃないか」なんて冗談を言い、比較してミレーを褒めた。
「いいよ、その心意気、気に入った。知りたいことがあったらなんでも聞きな」
「あ、ありがとうございます!」
 それで一日おきに、家の掃除と料理の仕方を教わりに酒場へ行った。
 昼からは店の開店準備を始めなくてはいけないようなので、朝早くに教わりに行き、昼過ぎからは家に戻って掃除を実践して覚えていった。
 はじめてで覚えることが多いのは大変だが、掃除は楽しかった。そしてそれがグランの役に立つことだと思うと、これほど嬉しいことはなかった。
 グランはミレーを置いて仕事に行くことをはじめは渋っていたが、夕方には帰ってきて、綺麗になっていてもいなくても「ありがとう」と優しく頭を撫でてくれるのだ。
「本当はミレーに働かせるのは気が引けるんだが……」
 そう言ったグランはしかし、「この町では働かない人間は冷遇される」ことを知っているから、心中複雑なようだ。
「グラン、私はグランと一緒にいられることが幸せなの。だから、幸せでいられるための過程なら、苦でもなんでもないわ!」
「……ったく。嬉しいことばかり言うよな、ミレーは。仕事の疲れが吹っ飛ぶだろ」
 グランが柔和に微笑むので、ミレーも安心したように笑んだ。
 この時間が、とても幸せだった。
 本当に、実家にいる時間に比べたら家事をするくらい苦でもなんでもなかった。

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