愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

rifa

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 習いはじめの頃は「ミレーちゃんの作るご飯は独特だねぇ」と酒場の奥さんに言葉を選ばせてしまう出来であった。
 ミレーとしては普通のご飯のつもりだが、あまり一般受けは良くないようだ。
 グランは何も言わずに食べてくれるが、「美味しい」とはお世辞にも言ってくれなかった。
(そんなにひどいものかな?)
 目の前の、自分の作った野菜くずと肉の水煮込みを見つめながら首をひねる。
 はじめは不評だった料理だが、酒場で一般的なメニューの作り方を教わってからは、グランにも「すごく上達したじゃねえか」と褒められるほどになった。
 やっぱり教わる前の料理は美味しくなかったのだな、という感想は笑顔の裏にある焼却炉で溶かして消した。
 ただ一つ気になったのが、グランの家は不思議なものが多いのだ。
「お風呂を沸かす方法が、酒場の奥さんの教えてくれた方法で巧く行かないんだけど……」
「あぁ、それ特注だから。オレがやる」
「洗濯板は……」
「それも自動でやってくれるのがある」
「なにそれ?」
「それも特注」
 なんだかよくわからない。特注というものもわからないが、分からない言葉を使えばはぐらかせると思っているようだ。
 実際はぐらかされている。
 酒場の奥さんは「グランのとこは、うちとはちょっと違うみたいだね」と困ったように教えてくれた。
 だが基本的に掃除や調理の方法は変わらないので、奥さんの教えが無駄になることはなかった。むしろ充分活かされている。

 ミレーも下町に馴染んできたと感じる頃には、肉付きも良くなって、来たばかりの頃によく風邪を引いていたのが嘘みたいに、今は健康そのものだ。
 グランは「ミレーは今まで蔑ろな生活で自分を粗末にしていたことに慣れていたから、人として最低限の暮らしが出来ているようで喜ばしい」と言う。
「ようやく、本来受けられるべき人権と栄養を得ることに慣れてきたってことだな」
 最初は聞き慣れない単語だったが、今のミレーならその意味が少しはわかった。
 これからも、この生活がずっと続くと信じていた。

 それが終わりを告げたのは、下町に来てひと月が過ぎたある早朝だ。
 目を覚ますと、窓の外に見える色はまだ暗かった。
(でも藍色。そろそろ明るくなってくるのかな。こんな早くに目が覚めるのは初めて……)
 ぼーっと空の色を眺めていたが、ふと隣のベッドを見て、グランがまだ眠っていることに気づく。
 ミレーより遅く起きるグランというのも珍しかった。
(長くて綺麗な黒いまつげ……キレイ)
 珍しい寝顔に見惚れていたが、まだ眠り続ける彼を起こさないよう静かにベッドから抜け出して、彼が目を覚ます前に部屋を暖かくしておこうと暖炉に近づいた。
 その時、コンコンと控えめに家の扉がノックされる。
(こんな陽も登らない早朝に……?)
 不審に思いつつ、ゆっくりとドアを開く。
「早朝に申し訳ありません、オリ……あ」
 鈴の音のような声と共に現れたのは、王国の紋章が刻まれた鎧を纏った見知らぬ人間だった。
(騎士……?)
 突然王国の紋章が刻まれた鎧をまとった見知らぬ人間が訪れたことに驚くが、相手も驚いた様子を見せていた。
 お互いが固まっていると、相手の騎士が先に声を発した。
「そ、早朝に失礼しました! オリヴァー様はもう起きられておりますか?」
「オリヴァーサマ?」
「はい、この家の……」
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